オトモダチ
気付けば、年末……。
忙しいのは、ご時世的に有難いのですが、いつもより更新が遅くなってしまいました。
いつも訪問して下さっている方にはすみません。
よろしかったら、続きをどうぞ。
静加の結婚の件は、納得いかない所もあったが、今はカントラの協力を得るのが先決だ。
実菜は、演習場でカントラを呼び出した。
「ごめんね、呼び出して。今日はお願いがあって……」
「まあ、落ち着け。また面倒事であろう?」
『今日は』ではなく『今日も』だろう。と、カントラは思ったが、それには口を出さず、鼻先を実菜に押し付けた。
「ふむ、なるほど。海から来る者にこの国が攻められるという事か」
実菜から顔を離すと、カントラは事態を把握していた。
「何で、何も言っていないのに分かるの?!」
「我は、記憶を読み取る事が出来るのでな。
ミナの記憶を読んだのだ」
そういえば、よく顔を近付けて来る気がするわ。そういう事だったのね。匂いを嗅いでいるのかと思っていたわ。
「しかし、空から防ぐとは、どうするのだ?船を沈めれば良いのか?」
「えっ!沈める?……そんな事をしたら、皆、死んじゃうじゃない!」
カントラの不穏な発言に、実菜は驚いて両手を振って反対した。
「何故だ?攻めてくる者は殺しに来るのだろう?ならば、その者達が死ぬのは、良い事なのではないのか?」
カントラは、不思議そうに首を傾げた。
「私は、死んで欲しいのではなくて……」
「実菜、戦争ってそういうもんよ?血を流さずに終えるつもりでいたの?」
振り返ると、静加が呆れた顔で立っている。
そうか……そうだよね。戦争するって、そういう事よね。深く、考えてなかったわ。
経験無いから分からないけど。
でも……私には、人を殺すなんて出来ない。
「何か……良い方法はないかしら」
実菜は、思わずカントラを見上げた。
そんな事を言われても、カントラも困るというものである。暫し思案するように首を捻っていたが、ヒョイと頭を持ち上げた。
「ふむ、海といえば、奴が居たな。
少しクセがあるが、穏やかな奴だから会いに行ってみるか。何か策を持っているかもしれん」
カントラは、同意を得たいのか、実菜の顔を覗き込む。
誰だかは分からないが、助けて貰えるのであれば、行ってみる価値はある。実菜は肯定する様に、コクコク頷いた。
「よし、では乗れ」
カントラは、地面に伏せをする様にしゃがみ込む。
しゃがみ込んだとて、乗るというより、よじ登る感じだが。
「ジュンコの子よ。お前はどうする。ここで待っているか?」
こちらを見上げている静加に向かって、カントラが問いかけた。
「私は飛べるけど……」
「これから行く場所は、異空間だ。ついて来るなら乗れ」
それを聞いた静加は、いそいそとカントラの背をよじ登って、実菜の隣りに来る。
「うーん、二人だと座りが悪いわね」
馬などと違って、安定する乗り方が分からない。
実菜は、カントラの背から、その頭の方を見上げると、立派な角が二本ある事に気付いた。
「これに掴まれば良いんじゃない?お誂え向きに二本あるし」
大きな角に抱き着き、背と言うより頭に乗る感じにはなるが、先程より心許無い感じは無い。
「少し、くすぐったいが……何にせよ、落ちないでくれよ?異空間は色んな場所と繋がってもいるからな」
「「はぁーい」」
異空間とは、どんな場所なのか。実菜と静加は、遠足にでも行く気分で返事をした。
「それにしても、静加が純子の娘だって良く分かったわね」
会った事があったかもしれないが、幼い頃だったはずだ。
「我は何でも知っている。ミナがジュンコだったという事も分かっていた」
実菜が、感心したように言うと、得意気な声が返ってきた。
「へー……」
ここからは見えないが、実菜には、カントラがドヤ顔をしているような気がした。
「では、行くぞ」
カントラが、空を爪でなぞると、何も無い所に切れ目が入り、パックリと開いた。そこに、こことは別の景色が覗く。
カントラは躊躇なくその空間に入り込んだが、この入口どうなるんだろう、と、実菜が振り返ると、空間の切れ間が塞がれていくのが見えた。
凄い、自動なのね。これなら、誰かが間違って入って来る事もないわね。
実菜は、感心したところで正面に向き直ると、そこで驚愕した。
目の前には海底が広がっていたのだ。
何これ、海の中なの?でも濡れてもいないし、呼吸も出来てる。
カントラが海の中を飛んでいるような、泳いでいるような、よく分からない状況だった。
「ねぇ!ここって海なの?!」
状況を説明してくれないカントラに、痺れを切らした実菜が尋ねる。
「海であって海ではない。少なくとも、ヒトの言う海ではない。裏側、とでも言っておくか」
謎掛けか、哲学か?……難しいわ。
大きな岩が幾つもあり、それを住処にしている魚が群れをなして目の前を行き交っている。陽の光が届いている事から、そこまで深くはないのだろう。
しかし、ここに住んでいるとは。カントラの知り合いは何者なのかしら。
実菜は周りを見渡すが、それらしき者は見当たらない。カントラも探しているのか、同じ場所を何度も旋回している。
「おーい!来たぞ!居らんか?」
カントラが大きな声で呼びかけた。
その時、視界の端に動く物が見えた気がして、実菜はそちらを凝視した。
何かしら……丸太?いや、もっと太いわ……良く見えないけど。
「ねぇ!あそこ、何かあるわ!」
実菜が、カントラの頭の上で「あそこ」と言った所で、カントラにはどこだかは分からない。カントラは海底に降り立った。
陽の光が射し込んでいるとはいえ、少し薄暗く、はっきりとは見えない。
「あの、岩と岩の間を何かが通り抜けた様に見えたの」
カントラの頭から、滑り落ちる様にして海底に立つと、実菜は何かがいた場所を指差した。
その時、また何か動く物があった。
ゴワゴワした壁の様な物が、横に動いているように見える。思わず、実菜はそこに近付いて行った。
「待てミナ、勝手に動くでない」
カントラが制止しようとしたが、時既に遅く、実菜はその壁に触れていた。
「何かしら……鱗?の……壁?にしては、少し丸みがあるかしら、緑色っぽいし」
実菜が触っていても、実菜の身長程の鱗の壁は尚も動いて行く。
実菜は、岩間からその壁が動いて行く方向を覗き込んだが、その先は岩に纏わり付くような感じになっていて、岩に隠れてしまっている。
「カントラ〜!これ、何かしらね?」
実菜は、壁を触りながら背後のカントラに話しかけた。
「それは、儂の身体だが?」
背後の、しかも上の方から、カントラではない太い声が降って来た。
驚いて実菜が振り返ると、カントラと静加も声の方を振り仰いでいた。
「騒がしいと思えば……久しい顔だな」
龍?!
そこには、カントラとはまた違うドラゴンがこちらを見下ろしていた。
カントラは、西洋ドラゴンという感じで翼を持っているが、目の前に現れたのは東洋ドラゴンとでもいうのか、翼は無かった。
「久しいな、海龍」
海龍は、蛇の様な動きで身体を引き寄せる。実菜が、先程の岩間を見ると、尻尾の様な物が通り過ぎる所だった。
「千年振りか?しかし、遊びに来た訳でもなかろう。何しに来た」
海龍は、実菜と静加と交互に見ながら、カントラに問いかけた。
「おヌシに知恵を借りたくてな。ヒトの世界で戦が始まるらしい。それもおヌシの住処である、この海域でだ」
海龍にカントラが、事態を説明すると、海龍は口を閉し、再び実菜と静加を順繰りと見やる。
「ヒトの世界には干渉せん」
海龍は静かに言い切った。
「でも、戦争が始まってしまうんです!」
実菜は、思わず叫んでいた。
「勝手に殺し合えば良い」
「でも、殺したくないんです!」
「では、殺さなければ良い」
「………」
どうしよう。会話にならない。カントラがクセがある、と言っていたが、このことだろうか。
「海龍、そう言わずに力を貸してはくれまいか」
「ホーリードラゴンよ、おヌシはそのヒトの子と主従を結んでいるようだが、儂には関わり無い事だ」
そう言うと海龍は、フゥーッと息を吐き出した。
「ヒトの子は、己の事しか考えられぬ、勝手な生き物よ。
当たり前の様に海の生き物を殺し、海を汚す。海が荒れれば、儂が怒っているからだという。
海の生き物を殺すのは良いが、己が殺されるのは嫌だという。
海が荒れるのは、儂の所為だと、儂を責めるだけだ。一方的に贄を放り込んできたこともある。
何が儂を怒らせたのか、伺う事もしなければ、考えもしないのだ」
海龍は、実菜を見据えた。
「戦争するも、しないも。互いに我を通そうとした結果だろう」
「でも、一方的に、強引に仕掛けてきたんです!」
再び、実菜は叫んだ。
「そして、困った時だけ、一方的に助けを求めるのか。助けなければ、こちらを悪にするか」
「………」
確かに、実菜達が海龍にしている事は、帝国と同じ事だ。強引に我を通そうとしている。それが、善悪どちらであっても、海龍には関係ない。
海龍が人間の思い通りになるか否かで、善か悪かを押し付けられて来たのであろう。そう感じた実菜は、二の句が継げなかった。
それまで、黙って様子を見ていた静加が前に進み出た。
「海龍様、お伺いも立てず、押し掛けて申し訳ございませんでした。確かに、人間は自己中心的で感謝の意を忘れ、傲慢になりがちです。
勝手に神に仕立て上げ、崇めたかと思えば、勝手に信仰をやめ、石を投げて来る。なんて事もあったかもしれません」
海龍は、黙って静加の話を聞いている。
「アンドロワ帝国は、信仰する事を禁じましたが、今でも帝国の紋章は龍です。
禁じられても尚、隠れて信仰している者も在るかもしれません。
だから、どうしろ、という理由ではないのです。
ただ、ここにいる者、ドラゴニアン王国は、帝国の理不尽を正そうとしているだけです。
帝国の民達を助けたいだけなのです」
「海龍よ。ここにいるミナは、汚れた海を浄化した。受けた恩を返さぬのが、海龍の道理か?」
静加とカントラの話を黙って聞いていた海龍だったが、深く息を吐くと、頭を擡げ、遠くを見るように瞳を細めると、ふっ、と笑ったように見えた。
「確かに……突然、海が澄んだように感じたが……そうか。
ならば、恩は返さねばなるまい。
それに……理不尽な帝国に鉄槌を下すというのも、かつて神と崇められた、儂の務めだろうて」
そう言うと海龍は、長い尻尾を大きく振り回した。
すると、薄曇りだった視界が明るくなっていく。それはまるで、海龍の気持ちを表しているようにも感じた。
お読み頂き有難う御座いました。




