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聖女として召喚されたので、期待に応えてみた結果  作者: 珠音


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帝国の事情③

またまた、時を戻します。

実菜が浄化行脚から帰った次の日です。

―――――時を遡る事、2日。


この日、実菜は陛下に呼ばれて玉座の間へとやって来ていた。


お叱りかしらね……。そうよね、昨日の今日ですもの、それしか考えられないわ。


良く考えたら、誰にも許可を取らずに勝手に出ていってしまったのだ。という事に気付き、実菜は少しだけ反省し、叱られる事を覚悟した。


玉座の間の扉の前に立つ衛兵が、実菜に気付くと「お待ちしておりました」と、頭を垂れ、案内するように先を歩いて行く。実菜は、大人しくそれについて行った。

今日も陛下は執務室にいらっしゃるようだ。

玉座の間を通り抜け、奥の階段を上ると、衛兵が執務室の扉をノックした。

「入れ」という陛下の声がし、衛兵が扉を開いたので実菜は恐る恐る中に入る。


実菜が緊張と共に部屋の中に足を踏み入れると、自分以外にも客が居る事に気付いた。

部屋の中だというのに、旅人が使う様なフード付きの少し薄汚れた感じがする茶色いローブを羽織り、ソファーに座っているその者は、顔を隠すようにフードを目深に被っていて、性別すら分からない。


「陛下、あの、昨日は……」

「ああ、聞き及んでいる。随分と張り切ったようだの。

しかし、どこに行くのか、いつ帰るかも言わずに行ったのは、上手くなかったのう」


恐る恐る声を発した実菜に対して、陛下の「何でもない」といった雰囲気に、実菜は拍子抜けした。どうやら、昨日の事で呼ばれた理由ではないらしい。


では、何で呼ばれたのかしら。この、誰だか分からない人が関係しているとか?


不思議に思いながらも、実菜が陛下へ挨拶を終えると、その謎の者もソファーから立ち上がり、実菜と向き合う。


「すまんな、ミナ。今日は余の友人の娘が会いに来てくれていてな。是非、そなたに会いたいと言うので、それでそなたに来てもらったのだ」


陛下が紹介すると、その女性はフードを外し顔を見せた。


「シャーリンと申します。以後、お見知り置きを」


シャーリンと名乗った女性は、ポニーテールに結った銀髪をなびかせ、気が強そうに見える切れ長の焦茶の瞳で実菜を見つめると、握手を求めるように右手を差し出して来た。


「ミナです。宜しくお願いします……」


それだけ言って実菜は握手に応じた。

陛下の友人の娘とはいえ、陛下の前でこの出で立ち。そして、何故か自分に会いたいという。


この人は、一体、何者なのかしら。


実菜は、状況が飲み込めていなかった。


「あの……」

「まあ、先ず、座れ」


実菜が口を開こうとすると、陛下がそれを制するように、言葉を被せてきた。

陛下は、メイドにお茶を淹れさせた後、下がるよう命じ部屋は3人だけとなった。メイドが部屋を出て行くのを確認すると、陛下は実菜に向き直る。


「ミナ、今日、この場での事は他言無用だ」


陛下はそう言うと、シャーリンを見やり、口を閉ざす。


「……はい」


理由が分からずとも、そう返事を返すしかない。実菜は陛下に倣うように、シャーリンを見やった。暫し沈黙が訪れる。


沈黙を破ったのは、二人に見つめられたシャーリンだった。


「聖女様、実は今日ここに来たのは、貴女に感謝と謝罪をする為です」


「……はあ」


シャーリンは、申し訳なさそうとも、辛そうとも取れる表情を見せると、実菜を真っ直ぐに見据えた。


感謝と……謝罪?

陛下の友人の娘などと接触した事など、今まであっただろうか。いや、無い。


何の事か理解出来ない実菜は、思わず気の抜けた返事を返す。


「昨日、騒動を起こしたのは、私の臣下の者です」


シャーリンの言葉に実菜は瞠目した。


昨日の、という事は……え?待って、待って?!

という事は、この目の前に居るこの御方は……帝国の?

……女帝という事?!


実菜は、不敬も忘れ、思わずまじまじとシャーリンを見つめてしまった。


年の頃は、恐らく実菜とそう変わらないだろう。そう見えた。


しかし……本当にこの人が、噂の……怖いと言われる、皇帝陛下?


確かに、それならば、謝罪に来たと言うのは納得はいく。

だがしかし、まだ見た目での雰囲気しか分からないが、実菜は、聞いていた話と、目の前のシャーリンが繋がらず、首を傾げた。


「貴女を危ない目に合わせてしまい、本当に申し訳ない。

……今回の事は、私の所為です。私の為に彼らは無茶をしたのです」


「どういう事でしょうか」


「その為には、我が国の事を話さなければならないでしょう。恥を晒す事にはなるのですが……」


シャーリンは、そう前置きすると静かに語り始めた。



先々代の皇帝の時代より軍事力で他国を制圧し、国を大きくするようになり始めた。

当然、他国なので文化等は違う。だか、当時の皇帝はこれを良しとしなかった。

帝国の文化と同じにする為、収容所を作り、異文化の民をそこに集め、帝国の文化を教え込んだ。

当然、中には抵抗する民も大勢いたが、そういった者には忠誠を誓うまで拷問にかけ、それでも従わなければ、躊躇なく処刑していった。

殆どの者は処刑の前の拷問で死んでしまっていたが……。


特に、非人道的だったのは、独自の宗教を持つ部族の者への拷問だ。

信仰する神の姿絵を自分で焼かせたり、その神を侮辱する言葉を吐かせたり。

それだけならまだしも、宗教上、配偶者以外の男性に、肌を見せてはいけないという部族の女性を、同じ部族の男性に強姦させるという、吐き気がするような拷問もあった。



そこまで語るとシャーリンは、こめかみを押さえ、長く息を吐いた。


「その……何と言うか……」


語られた内容が、実菜には信じられず、咄嗟に言葉が出て来ない。


「反抗する気を起こさせないよう、徹底的に追い詰めたのです。

私は……本当にお恥ずかしい話ですが、戴冠するまでそんな施設が存在する事さえ知らなかった」


シャーリンは悔しそうにそう言うと、眉間に皺を寄せ、ギュッと目を瞑った。


「ユースンも、その事は悩んでおった。

自分が戴冠した後は変えていくと、そう言っておったのだがな……」


それまで、口を閉ざしていた陛下が口を挟んだ。


ユースンとは、前皇帝、つまりシャーリンの父親だが、陛下とユースンは学生時代、同じ時期に同じ国へ留学をしていたのだそう。

同じ立場にいる者同士、気が合い、よく語り合ったのだそうだが、その後ユースンが戴冠した後も帝国の政治の在り方が変わらない事が理解出来ず、疎遠になったままだったのだそうだ。


「久しぶりの再開が、口がきけぬようになってからとは……」


遠い目をして、しみじみと独り言の様に呟く陛下の様子には、後悔があるようにも思えた。


「小さい頃は、良くこの国にも遊びに来た事を覚えています。

ふふ、レインは結婚が近いようで、おめでとうございます。は、まだ気が早いですね」


「来年辺りには、と考えてはおるがの。

シャーリンのめでたい話も早く聞きたいものだ」


陛下はすっかり親戚のおじさんになっていた。


そうか、殿下と歳が近そうだし、幼馴染になるのか。


実菜は、変な所で感心したが、まだ分からない事がある。帝国がどんな国だかは理解したが……。


「あの、それで、私を攫おうとしたのは、何故です?流行り病の事かなぁ、とは思うのですけど」


「はい。その通りです。

私が、その病気にかかってしまったのです」


その病とは、解熱剤が効かない高熱が続き、1ヶ月程でそのまま亡くなる事が殆どで、熱が下がっても脳に障害が残るのだそう。


「宰相は祖父の代から仕えていて、力もあります。

私の意見は通る事はなく、我が国の実権は実質、宰相が握っていると言って良いほど、私はお飾り皇帝なのです。

それでも、他の部族の民達を自由にするべく、私は動いて来ました。宰相にとって私は思い通りにならない、邪魔な存在……そんな私が罹患したのは絶好の機会でしょう。黙っていても、私は消える事になるのです。

私の他には跡継ぎが居ません。

私が居なくなれば、自分が国を治める心積もりなのでしょう。

私に賛同する臣下達は怖れたのです。私が居なくなれば、間違いなく地獄の様な国になると……。

高熱で意識の無い私を連れ出し、聖女の力を求め、海を渡りこの国に連れて来たのです」


「そんな、病人を海に……?」


そこで、実菜は首を捻った。目の前のシャーリンはとても病人には見えない。


「どちらにしても、私は病気で死ぬか、宰相に殺されるかだったのです。イチかバチかの賭けに出たのでしょう。

しかし、神は私を生かす事を選んだようです。

船上で私を看ていた臣下によれば、昨日、港全体が光りに包まれたと、私もその光りに包まれたのだと、そして、私の意識が戻り、今に至ります」


ん?昨日の港?


その話に、実菜には思い切り心当たりがあった。


「その後、上空を大きな鳥の様なものに乗った女性が通ったと、港で噂が広まり……あの光りは聖女様の癒やしの光りはではないかと」


そういえば、船も光っていた事を実菜は思い出した。


まさか、あの船の中に皇帝陛下が乗っている船があったとは……。

まあ、結果オーライってとこよね。


そう実菜は思ったが、シャーリンの顔を窺うと、そんな訳でもないらしい、曇った顔をしている。


「……その噂が広まる頃、見張り役をしていた臣下が船に戻り……今回の件を知りました。

そこで取り急ぎ、内密に王陛下へ手紙を出し、時間を頂き、この場を設けて頂きました」


そこで、シャーリンは改めて実菜に向き直ると、ペコリと頭を下げた。


「聖女様は、私の命の恩人です。心から感謝申し上げます」


「いえいえ!私、そのくらいしか特技がないので。頭を上げて下さい。

……だから、感謝と謝罪ですか……」


顔を上げたシャーリンは、更に申し訳なさそうな顔をしていた。


「あの……もう一つ、問題があるのです。王陛下の友人の娘として、内密に出向いたのは、この問題の為です。

まあ、こんな小細工があの宰相に通じるとは思ってませんが。

恐らく、私がこの国に来た事は、既に宰相に伝わっているでしょう」


「なるほど……どう出て来るか、ということだな」


「絶好の機会を与える事になってしまい、申し訳ありません」


シャーリンは悔しそうにそう言うと、陛下と難しい顔を突き合わせた。

実菜は、話について行けず、ひとりポツンとしていた。


「ミナ……ロイが言っていた話が、分かった気がするな。

帝国の宰相は、我が国が病気のシャーリンを攫った事にするだろう、そしてシャーリンの臣下にスパイ容疑をかけ、皇帝陛下の一派を一網打尽にする。

……そんなところか」


陛下が、キョトンとしている実菜に説明をした。


ロイの話が気になる所だが……それって、真逆の話になるじゃない?!そんなのあり?


その話に実菜は驚愕し、シャーリンを見る。彼女が苦い顔をして沈黙していることから、当たらずとも……という事なのだろう。


「宰相は他国を恐れている節があります、やられる前にやる。そんな感じで他国を侵略して行くのです。

我が国には、魔法はありません。

ドラゴニアンを落とし、魔法を帝国側に置きたいということは前々から話には出ていたのです」


戦争になる……。実菜は身震いした。


やられる前に……って、そんな気のない国も相手に戦争をして来た、という事なの?


馬鹿げている。


「ならば、その通りにしてあげましょう」


実菜の言葉に、陛下とシャーリンは「どういう事だ?」という顔を向ける。


「シャーリンを人質に、侵略した国を解放するよう訴えます」


自信満々に言い放った実菜に、陛下とシャーリンは半目になり、肩を落とした。

実菜がアホの子になっていく……。


お読み頂き有難う御座いました。

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