帝国の事情②
今回も短めです。
いつも細切れですみません。
よろしければ、続きをどうぞ。
「あら?ロイ、どうしたの?その荷物」
結局、囚人との面会には実菜をはじめ、静加とそれに付随するようにセシル、それを監視するようにロイ、カイルも同行する事となり、今日がその面会日で、一度、セシルの執務室に集合したのだが、執務室に入って来たロイの手には、箱やら包みやら紙袋やらがあった。
「私も、良く分からないのですが、寮からここに来るまでの間に色々な人から頂きました」
そう言いながら、応接テーブルに荷物を置くと、ロイが貰った物だというのに、セシルと静加はゴソゴソと中身を確認し始める。
「ロイ、貴方、今日が誕生日か何かなの?
クッキーとか、チョコレート……あっ、これマフィンよ!美味しそうね」
中身を確認した静加がロイに問うが、ロイは思い当たる節が無いと言う。
「急にモテモテになったのかしら」
実菜の言葉に、ロイは渋い顔で振り返った。
「それはないです。男性もおりましたし、これを渡される時、何故か励まされましたので」
男性でも、ロイの事を好きかもしれないじゃない。と、実菜は思ったが、励まされたと聞いて口を噤んだ。
これは、先日の大捕物の後の出来事の後遺症なのだが、その事実を知る者はこの場には居らず、謎が深まるばかりであった。
「……まあ、美味しいから、良いんじゃない?」
セシルが、口をもぐもぐしながらロイにその箱を差し出す。
「食べたのですか?!毒でも入ってたらどうするんです」
「……実菜がいるから、大丈夫じゃない?」
焦るロイに、セシルは呑気な返事を返している。
おいおい。くだらない理由で人を使おうとしないで欲しいわ。
と、思いながらも、実菜は「お菓子にはお茶よね〜」と立ち上がった。
「おい……何故、茶会が開かれているんだ?」
実菜が、お茶を淹れ終わった頃、ノックも無しに執務室の扉が開きカイルが入って来ると、室内の状況に呆れた顔をした。
「何故かロイが沢山の差し入れを貰って来たから、おやつタイムにしたんだ」
実菜の淹れたお茶を飲み、マフィンを頬張りながら、セシルは視線だけをカイルに向けて答えた。
カイルは、本当に茶会を開いた理由を聞いた訳ではなく、「そんな時間ねーだろ」という意味合いで言ったつもりだったが、セシルには通用しなかったようだ。
カイルは、ちらりとロイと差し入れの菓子を見比べると、ロイの肩に手を置き、ポンポンとする。
「良かったじゃないか、元気だせよ?」
若干、揶揄するような、その言い方にロイの片眉が上がった。
「良かった?元気だせ?
……もしかして、この理由をご存知なのですか?」
「理由かどうかは知らないが……お前が彼女をセシルに横取りされて、こっ酷く振られた可哀想な男。という噂なら知っている」
カイルは、笑いを堪えているような顔で、セシルと同じ様にマフィンを頬張る静加を見やった。
「はぁああぁーっ?!何だそれは?!何がどうなると、そうなるのだ?!」
ロイは、目玉が零れそうなほど瞠目し、絶叫に近い声を発した。
当の本人の静加もセシルも、実菜もこれには目を丸くして驚くしかない。
「ロイ、貴方、私に振られていたのね。知らなかったわ」
「やっぱり……お前、そうだったのか……」
「……あなた方は、少し黙っていて下さい」
好き勝手な事を言う二人に、ロイが抑えた声で一喝すると、セシルと静加は肩をすくめた。
ロイは疲れたような顔をカイルに向けると、カイルの言葉を促す。
「悪い悪い。これは第二騎士団が元凶だと思うが、人の口に蓋は出来なくてな。
あっと言う間に、噂になってしまったんだ」
恐らく、蓋をする気もなかったのだろうが、あの日のやり取りを、客観的に見るとどう見えるか、カイルが改めて説明した。
「まさか……あの時のアレが?
話の内容は、全くそんな事では無かったではないか?!」
「話の内容までは聞こえなかったからな。ただの痴話喧嘩に見えたぞ?
……まあ、人の噂など直ぐに消える。気にするな」
そう言うとカイルは、ロイの背中をバシバシと叩いた。
永遠に面会時間が許可されている訳ではない。
ショックが抜け切らないロイと、カイルに追い立てられ、セシルが重い腰を上げると、一行は地下牢に向かった。
向かう途中、ロイが「あ、そうそう」と実菜を振り返る。
「ミナ、お願いですから、余計な言動をしないで下さいね。
……シズカもです。先走るのは止めてくださいね」
目を泳がす実菜を見据えながら、ロイが念を押す。
もしかしたら、もう、遅いかも……。実菜は思ったが、口にするのは躊躇われた。
そんな実菜の様子に、訝しげにしていたロイだったが、諦めたように歩を進める。
地下牢か……。
何度行こうと、決して気持ちの良い場所ではない。薄暗いし、カビ臭いし……しかしその先に、面会を希望しているという男は居た。
無精髭に、やや窶れた感じはあるが、あの日、実菜を迎えに来たあの男だった。
実菜を認めるなり、その男は必死の形相で、鉄格子にへばり付く様にして叫び出した。
「聖女様!お願いです!自分は処刑されても仕方ありません。
ですが、お願いですから……シャーリン様を、皇帝陛下を、お助け下さい!!」
窶れた顔ではあるが、瞳が濡れているのか、目だけはキラキラとして見える。
「……どういう事ですか?」
実菜の前に出ようとするカイルを手で制し、実菜は静かに男に問うた。
「我が国では、今……流行り病が……シャーリン様が……このままでは、宰相に見殺しにされてしまう……そしたら、そしたら我が国はもう……」
伝えたい事は沢山あるようだが、嗚咽が混じり何を言いたいのか、いまいち的を得ない。
「あなた、お名前は?」
実菜は、先ずは落ち着かせようと、彼の名前を聞いた。
「……イーサン」
イーサンは、名前を答えながら息を吐くと、肩の力が抜けたようだ。袖で涙を拭うと、もう一度息を吐き、実菜を見据えて口を真一文字に結んだ。
実菜も、彼の瞳を見返すと口を開いた。
「イーサン、貴方の言いたい事は……シャーリン皇帝陛下が、流行り病に侵された事で、帝国の乗っ取りを企てている宰相に、陛下は病気で死んだ事にして殺されてしまう。
そうなったら、帝国は完全な独裁国家となってしまう。
……そういう事かしら」
実菜が、イーサンの紡いだ言葉を纏めると、彼は目を見張った。
「そう、です。今は、陛下が止めていますが……宰相の拷問理由は、酷いものです」
「属国の民を先ずは拷問するところから始めるとか……」
「そうです!収容所に集められ、帝国に忠誠を誓わなければ、死ぬまで……それを他国に知られぬよう、国中に監視役が居ます……少しでも帝国に対する暴言や、怪しい言動があれば、また、収容所に……」
その光景を思い出したのか、イーサンは顔を歪め、俯く。
その時、地下牢の入口の方に人の気配を感じ、実菜はそちらをちらりと見やる。イーサン以外の者はそれに気付き「誰だ?」と言いたげな顔で、身構えた。
「聖女様は……ご存知だったのですね。
……本当は亡命したい。でも、シャーリン様をお護りしたい。せめて、病気だけでも、治して差し上げたいのです。
自分の命と引き替えでも構いません。いや、自分の命と釣り合うとは思ってはいませんが、それでも、お願いします。シャーリン様を助けて下さい!」
「イーサン……帝国の事を教えて下さった方が居まして……その方が、貴方達に会いたいと。
……イーサンはこう言っていますが」
実菜は、そう言うと背後からやって来た者を振り返った。イーサンは実菜の言葉を不思議に思い、顔を上げ実菜の視線を辿ると、その先にはドラゴニアン王国の警護を連れ、旅人用のローブを纏った者が立っていた。フードを目深に被っているので、顔は分からない。
「そんな……まさか?」
イーサンはそう呟くと瞠目し、その者を凝視したまま二の句が継げずにいた。
「イーサン」
その者がフードを外すと、ポニーテールに結った銀髪がローブにこぼれ落ち、奥二重で少しつり目の瞳が、イーサンを見つめていた。
「……シャーリン様?!」
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