帝国の事情
いつもより短めですが、宜しくお願いします。
現在、アンドロワ帝国は、謎の感染病が流行している。国内では手の施しようが無く、こまねいている状態なのだという。
そこで、帝国が目を付けたのが「聖女の癒し能力」だった。
どこの国でも、諜報員は居るものだ。特に隠してもいないので、帝国にも容易く情報が流れたのだろう。
この国で、聖女の発表をする頃には、帝国は既にこれを承知していたようだ。その後、直ぐに聖女の力を貸して欲しい、という旨の打診が帝国から来たが、陛下はこれを却下した。
「……あの贈り物は、その時の物。という事なのね」
執務室のソファーでロイの説明を受けた実菜は、合点がいった。
「恐らくは……そして、今回、強行突破しようとしたのではないかと……」
「そんな……下手をすれば、争いになってしまうじゃない」
「帝国相手では、我が国は敵にもなれませんよ。
その前に、用が済めば証拠を消すでしょうし……」
と言って、ロイはちらりと実菜に視線を向けた。
「それって……」
実菜は、恐ろしい想像をしてしまい、手が震えた。
あのまま、誰にも気付かれず捕まっていたら、もしかしたら、私……。
「可能性の話ではありますが、その可能性は極めて高いと思います。
戦争になれば我が国は勝てないですからね。
略奪は当たり前で、強引に属国にした国の民にも強制労働や虐待と……貿易面でもかなり強引なやり取りをしている、という話です」
ロイは、実菜の恐怖を感じ取ったのか、自身の説明に補足をする。
更に実菜をおののかせ、その場に何とも言えない空気が流れた。
「何で、陛下は私を帝国に行かせなかったのでしょうか」
帝国が広い国だとしても、そんなに時間もかからずに終わると思うけど……。
怖い国だって分かってたのだから……そうすれば、こんな事件は起こらなかったでしょうに。
実菜が首を傾げると、ロイが溜息を吐きながら、残念な子を見る目を実菜に向けた。
「……今の話を聞いて、その質問……貴女は話を聞いていましたか?
貴女が帝国側に出向いた時点で、話を反故する事も辞さない。そんな国だと言っているのです。
軍事力の強い帝国に、貴女の力が加わったら……どうなると思います?」
なるほど……良く、分かったわ。分かったから、そんなに睨まないでよ。
「貴女は少し……人を信用し過ぎです。
聞いた話ではありますが、帝国の……陛下は気分で話を変えるようですから、十分気を付けて下さい」
実菜は、ぶんぶんと頭を縦に振って返事をした。
「う〜ん?何かしっくりこないな。
リードから聞いた話だと、今の陛下は軍隊上がりで言葉は強目だけど、筋が通っていて優しそうな女性って事だったけど」
セシルが腕を組み、首を傾げ、解せないといった言い方をした。
「ちょっと、待って。
皇帝陛下って女性なの?」
「そうだよ。前皇帝には一人娘しかいなかったんだ。軍隊に属してたらしい。
それが、数年前に前皇帝が崩御されて、今の女性皇帝が誕生したんだ。女帝は久しぶりらしいけどね。
戴冠式にウチの陛下が招待されて、リードが護衛のひとりとして同行してた」
そういえば、前にそんな話を聞いた気がするわね。
まあ、どちらにしても私が直接、皇帝陛下と話をするような事は無いとは思いますけどね。用心するに越したことはないわね。
この時の実菜は、そう思っていた。
「それで、今回の件は陛下は何と?」
「明日、緊急の御前会議を開くそうですが、帝国への抗議と、あの二人の処分をこちらでするつもりでいらっしゃいます」
ロイは、そこで応接テーブルに肘を付くと、両手に顔を埋めて嘆息した。
「女帝がどんな人間かは知りませんが……マンガスの件といい、帝国は面倒事を起こしますね」
思わず出た独り言のようだったが、実菜は気になった。
「マンガスの件って、何?
そういえば、クライマーもどうなったの?」
「ああ、ミナにはまだ、伝えてませんでしたね」
ロイは顔を上げ、考え込む仕草をすると眉を顰めた。
「何?難しい話なの?」
「いえ、そういう事では……先ず、クライマーとその息子二人は精神がやられています。まともな会話も出来ない。
シェーンは……危険思想が強いですし、更生は無理でしょう。
シェーンの証言もあり、爵位剥奪の上、投獄。平民となった妻とアリスに関しては監視付きの謹慎です」
もう既に監獄に送られているのだという。
屋敷と領地は国預かりとなる為、妻は平民が住む借家に引っ越し。アリスは孤児院に戻された。
「奥さん、可哀想ね」
「実家からも拒絶されたようですからね。可哀想といえば、そうでしょうね。
マンガスも同じです。犯罪者の奥様同士、仲良く助け合って欲しいものです」
ロイは、嫌味っぽく淡々と告げる。
「感情が全く感じられないわね。
という事は、マンガスも監獄へ?」
「マンガスは……遺体で発見されました。
と、言っても腐敗が酷く、身に着けていた物から判断して、恐らくそうだろう、という事ではあるのですが」
「……」
腹が開かれ、臓器は無く、頭も開かれた状態で、廃墟の裏の雑木林の奥に、無造作に置かれていたという。
置いたというより、捨てたのだろうとは思うが、出来れば聞きたくなかった。言いにくそうにしていたのは、この為かと、実菜は思った。
「つまり、マンガスは亡くなっていたのです。
しかし、商会運営は続いていますし、それを知らない取り引き先は、予定通り商品を入荷させています。
マンガスは他の人間を信用していなかったのでしょう、金品の受け渡しは全て、彼がしていたようです。
取り引き先の業者と商会が、商品の金額について揉めている所を取り押さえて事情聴取しました。
何故、商品の価格よりも支払う金額が高くなるのか、と」
実菜には、まだ話がピンときていないようで、キョトンとした顔でロイの話を聞いている。
実菜に事を察してもらうのは、難しいと感じたロイは話を続けた。
「業者は、マンガスに言えば分かる。の一点張りで最後まで抵抗していましたが、商品を念入りに調べたら出てきたんですよ、違法な植物が。
……箱に巧妙な仕掛けがされていたので、今まで気付けなかった。
そして、その業者というのが、帝国から来ている者だったのです」
違法な薬物になる植物を持ち込んだ、という事でその業者も捕らえているという。
なるほど、ここでまた帝国が出てきたという理由ね。
確かに自己中心的で迷惑な国だわ。
その時、執務室の扉がノックされた。セシルが「どうぞ」と返事をすると、看守の男が顔を覗かせ室内の面々を確認すると、実菜に目を止める。
「すみません。今日、捕らえた男の事なんですけど……聖女様と面会したいと、言っているのですが……」
看守は、師団長や団長の顔を窺いながら、言いにくそうに告げた。
「却下だ」
即座にカイルが答える。「ですよね〜」と看守が引き下がろうとした時、実菜が声を掛けた。
「何で面会したいの?」
ロイと静加が、睨む様に実菜を振り返るが、実菜は理由が知りたかったのだ。
「具体的な内容は分かりませんが、お願いがあるのだとか……命乞いですかね?」
看守は首を捻りながら、実菜に答えた。
「私……会ってみようかしら」
「ミナ!!」
「だって、話を聞くくらい良いと思うのよ。
私だけじゃなければ……静加も一緒なら、大丈夫じゃない?」
「私?!」
眉尻を上げるロイに、実菜が宥めるように説得する。静加は完全に、とばっちりだった。
「僕も、会うくらいなら大丈夫だと思うけど?
それに、静加が行くなら僕も行くし」
セシルの言葉に、ロイは諦めたようだ。
「……3日後、面会の予定を入れましょう」
溜息と共に項垂れたロイの肩を、カイルが頷きながら慰めるかの如く、軽く叩いた。
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