実菜、提案する
そして、視点が実菜に戻ります。
宜しくお願いします。
実菜は自室のベッドに押し込められていた。
……もっと、お話ししたかったのに。
ベッドに入ったからといって、眠れる訳でもなく、むくれたまま天井を見つめている。
……まあ、これから、いくらでも話くらいは出来るか。
気持ちが少し落ち着くと、実菜は色々な事が腑に落ちた事に気付く。
自分がこの国に召喚された事、魔力はあるのに使えなかった事。
この国に戻って来たくなかったけど、同じ様に瘴気で溢れたら、自分が何とかしないといけないって、思い込んでたんだ。
だから、最期を悟った時、遺言として遺した。
それなのに……自分で召喚するようにお願いしてたのに、自分で記憶と魔力を抑え込んでたんだ。
……怖かったから。
……って、矛盾が過ぎるわよ〜!!
実菜は、自身の……実際は実菜自身ではないのだが……不甲斐なさを感じ、恥ずかしさを誤魔化すように、枕に顔を埋めて布団の中で足をバタバタさせた。
一頻り暴れて、それが落ち着いた頃、ふと、思い出し顔を上げる。
そういえば、デイビッド殿下はどうしたのかしら。
……生存は……しているとは、思うけど。
「………」
あらぬ想像をしそうになり、実菜はその想像を振り払う様に、慌てて首をぶんぶんと振る。
実菜は、その事に気付くと、居ても立っても居られなくなっていた。
ガハッ、と起き上がると着替え、身なりを整える。
陛下にお会いしなければ!!
その一心で実菜は、以前、陛下に呼ばれた部屋に向かい、走った。
途中、行き交うメイド達が、走る聖女に驚いた様に振り返るが、気にはならなかった。
気にはならなかったが、部屋の前まで来た所で、急に不安になってきた。
良く考えたら、突然の訪問って、不敬……かしら?
そもそも、ここにいるっしゃるとは限らないし。
……あぁあ〜!どうしましょう〜!!
部屋へ入るか、否か、実菜が頭を抱えてうろうろしていると、背後から声がかけられた。
「ミナ様?こんな所で、何をされていらっしゃいますの?」
「わあぁあっ!」
人が近付いて来た事に、全く気付いていなかった実菜は、驚いて飛び上がった。
振り返ると、驚いた顔のリリーが立っている。実菜の驚き方に驚いたようだ。
「あ、ああ、リリー様でしたか。
すみません、驚かせてしまって」
「いえ、私の方こそ、申し訳ありませんでしたわ。
妃教育の授業がありましたので、こちらに参りましたの。今日はもう、終了しましたけど。
ミナ様はどうされましたの?」
リリーは恐縮したように、再度同じ質問をした。
そうか、リリー様は将来は王妃様だものね。
王様のお嫁さんになるのは大変なのねぇ〜。
「あの、私、陛下に申し上げたい事があって来たのですけど、突然では宜しくないですよね?やっぱり」
リリーは、一瞬キョトンとしたが、実菜の背後に目を向けると、直ぐにニコリと微笑んだ。
「これから、陛下にご挨拶に伺うところでしたの。
一緒に参りましょう?
宜しいですわよね。レイン様?」
リリーの視線を辿り、実菜が振り返ると、王子然とした装いをした男性が笑顔で立っていた。
もしかして、この方が噂の、第一王子のレイン様。
デイビッド様とは、あまり似ていないのね。
どちらかというと、レイン様は陛下寄りのお顔立ちかしら。
「ああ、もちろん。良いとも。
リリー、お疲れ様。
聖女様、第一王子のレインです。陛下の許までお供させて頂きます」
レインはその笑顔を実菜に向けると、エスコートするように手を差し伸べてきた。
えっと、これは私に向けているのかしら。
でもリリーもいるのに。この手を取って良いものかしら?
リリーを、ちらりと見ると、笑顔でこくこくと頷いている。
これは、逆に取るべき所、という解釈で良いわよね?
恐る恐る、実菜が手を出すと、レインはその手を自身の腕に組ませる様に誘う。
スマート!!流石だわ。
ちらりと、レインを盗み見すると、変わらず笑顔を向けてくれていた。
しかし……リリーを後ろに従え、レインにエスコートされている。というこの状況。
完全に、絵になる二人の恋路を邪魔をする、の図ね。
実菜が、居た堪れない気持ちでいる事など露知らず、レインは玉座の間の扉を開く。
しかし、その広間には誰もおらず、実菜は拍子抜けした。
ここにはいらっしゃらなかったのか、と実菜は思ったのだが、レインは、当然の事のように気にすることも無く、そのまま広間の奥へと歩を進める。と、その奥にある扉を開けた。
短い廊下があり、その先には階段がある。
レインにエスコートされたまま階段を登り終えると、また扉が現れた。その横には護衛が立っている。
「陛下に呼ばれて来た」
レインが、その護衛に声をかけると静かに頷き、部屋の中へ消えるが、直ぐに扉が開かれた。
躊躇なくレインがその部屋の中へ入ると、必然的に実菜も入る事になるのだが、中は陛下の執務室のようだった。
執務机から顔を上げ、立ち上がった陛下が実菜を見て片眉を上げ、口角も上げたのか、口髭が片方だけ上がる。
「レイン、まさか相手を変える訳ではあるまいな?」
「ははは。陛下、御冗談を。
聖女様のお相手とは、畏れ多い事ですよ」
いやいや、そのお言葉、そっくりそのままお返し致します。
実菜は、笑顔のまま、心の中でツッコミを入れた。
「まあ、良い。掛けてくれ」
陛下に、部屋の応接用のソファーに促され、実菜はレインとリリーの正面に座る形で腰を掛けた。
「……して。何故、聖女が一緒におるのかな?」
陛下は、上座の豪華な一人掛けソファーに座ると、実菜に向け、穏やかな声をかける。
「あの、陛下にお聞きしたいことがありまして。
うろうろしていたら、お二人にお会いして、同行させてもらいました。
お話させてもらえるなら、後でも大丈夫です」
リリーはご挨拶と言っていたが、二人の用があるのだろう。
自分の要件を先にするのは、気が引ける。と、実菜は思った。
「ふむ。なるほど。
リリーは毎回、授業終わりに顔を見せに来てくれるのでな。
ただ、今日は……例の件でな、話をしようと思って二人に来てもらったのだよ。
婚約者であるが、王太子妃ともなれば、王族と同義だからしてな」
リリーに向ける笑顔からして、陛下は彼女を気に入っているようだった。
リリーは、ほんのり頬を染めて、レインを上目遣いに見つめる。レインも陛下によく似た笑顔を彼女に向けていた。
リリーとレインの関係が上手くいっているのを肌で感じ、実菜は嬉しくて胸が熱くなり、自然と顔が綻んだ。
勇気を出して、良かったねぇ。リリー様。
「だから問題なければ、今、話を聞こうかの」
ほんわかした空気に浸っていたが、陛下の声で実菜は我に返る。
「あ、はい。有難う御座います。
あの、デイビッド殿下の事なのですが……」
実菜の言葉に、その場の空気が一変した。
何この空気。
私、何か不味い事言ったかしら。
その空気に躊躇はしたが、このまま黙っていても何も始まらない。
実菜は意を決した。
「デイビッド殿下は、今、どうしているのですか?今後どうなるのでしょうか?」
実菜の問いに、先程の笑顔とは打って変わって、険しい表情をした陛下は重くなった口を開く。
「……アレは、塔に幽閉だ。生涯、出る事は許さん」
陛下は、語気を強め、問答無用の圧をかけて実菜に言ったつもりだったが、残念ながら実菜は他の者より鈍感だった。いや、圧は感じてはいたが。
「生涯?!どうして、そんな事をするんです!」
生涯、という事は終身刑のようなものだ。
その事に、実菜はショックを受けたが、処刑でないことにはホッとした。
「どうして?王族として、相応しくないからだ。
操られていたとはいえ、国を揺るがしかねない騒ぎを起こしたのだ。当然であろう。
そもそも、操られるなど……」
そこまで言って、陛下はハッとした様に口を噤んだ。
「レオンハルトは操られた後に、立派に国造りをしましたわ!
そうだわ……それなら、陛下も、周りの人間も、レイン様とデイビッド様を別々の、個人として見ていたのでしょうか。
レオンハルトは事ある毎に、兄であるラインハルトと比較されていました。
……そうよ……だから、ヘラヘラしていたんだわ……」
……悔しいのを誤魔化す為に。
どうして、気付いてあげられなかったんだろう!
馬鹿にされて嬉しい人間なんて、いる訳ないのに。
あの時、気付いていたら、何か変わっていたのだろうか?
シェーンだって、同じ様な境遇だった。
だから、悪い方へ……悪いものに魅入られてしまったのだろうか。
「陛下!お願いです。
罰を、別のものに……更生する機会を与えて下さい。
人生を、何もせず、ただ塔の中で送らせるなんて……レイン殿下とは違う何かが……魅力が、あるはずです!
きっと……多分、ですけど」
良く考えたら、デイビッドの良い所が実菜には見当たらない。後半はつい尻窄みになってしまった。
だけど、リリーは彼が素直な人間だと言っていた。きっと、環境で変われるはず!……多分。
「陛下……いえ、父上。私からもお願いします。
デイビッドの事は、昔から気にはなっていたのです。
私と比べられ『同じ事が出来ない無能者』、と使用人達から本人に聞こえる陰口をされていたのも、実は知っていました。
知っていて、私は何もしてあげられなかった。
罪があるなら、私にもあります」
思わぬ所から、援護射撃が来た。
リリーも、祈る様に胸の前で両手を組んで陛下を見つめていた。
3人に見つめられ、陛下は何かを葛藤するように、苦悶の表情を浮かべていた。
暫し、苦悶した後、重い口を開いた。
「しかし、そうは言っても、どうするというのだ。
以前の刑罰は坑道で働かせていたが、ガスが発生するようになってからは、犯罪者は牢か、重罪であれば極刑だ」
陛下は、重い溜息を吐くと、肘掛けに肘を付き、その手で額を覆った。
陛下としても、極刑は避けたかったのだろう。しかし、王族だからこそ、甘くは出来ない。
父親として、王として、葛藤があった事が窺える。
陛下も辛いのだ。と、実菜は理解した。
「陛下、こういうのは、どうでしょう」
悩む陛下に、実菜は一つ、提案する事にした。
お読み頂き有難う御座いました。




