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聖女として召喚されたので、期待に応えてみた結果  作者: 珠音


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類は友を呼ぶというのはどうやら本当らしい

ややこしい話にも関わらず、読んで下さる方がいらっしゃるというのは、本当に有り難いなぁ。

と、思う。

今日、この頃。

「娘?!……子孫では、なく?」


ロイが眉を顰めて静加を凝視した。

確かに千年以上前に生まれた人間が、若い姿で目の前に存在しているのだ。驚くのも無理はない。

実際は80歳を越えてはいるのだか、それでも有り得ない。


ロイはこの肖像画の存在を知っているようだった。

恐らくは肖像画の人物の子孫ではないかと当たりを付けていたのだろう。


その辺の事は実菜にだって分かりはしない。

暫し、病室に沈黙が訪れる。

静加が沈黙に耐え兼ねてか、口を開いた。


「その辺は、考えられるとしたら……母様は未来から召喚されて、今回は過去から召喚されたのか。

もしくは、日本がある世界とこの世界のタイムライン……時間の流れ方がそもそも違うか、じゃないでしょうか?」


「ふむ。世界とは、そんなに幾つもあるものなのか」


陛下が椅子から立ち上がると肖像画に近付き、まじまじとその絵を眺めながら、質問なのか独り言なのか呟いた。


「幾つもの世界が同時に存在していてもおかしくはない。私はそう考えています。

そして、時間軸が違う世界があってもおかしくないのでは?とも考えています」


陛下の呟きを質問と捉えたのか、静加が陛下に向かって言葉を続けた。


「なるほど、親子であって、親子でない。

人生とは色々あって面白いものよの」


陛下が美髯を撫でながら、実菜と静加を交互に見る。


「この肖像画が残されているとは思いませんでした」


実菜も肖像画に近付いた。


「……レオンハルト様が残していたそうです。いつか、真実が明らかにされた時に歴代の肖像画と同じように飾れるように、と。

500年前に城の宝物庫から出てきたのを、我が家で保管する事になったのです」



レオンハルトが……。



「……して、本題に戻ろうかの?」


陛下がアロンへ話を促す様に視線をむけた。


「あ、ああ。そうですね、しかしならば話は早いですね。

ジュンコの生まれ変わりという事は、ジュアンの生まれ変わりという事でもある。

早速、発表の場を設けましょう」


「ふむ。そういう事になるな」


陛下とアロンの間で、急に話が進んでいく。


「ちょ、ちょっと待って下さい!その話は無しにして下さい」


慌てて実菜が二人の間に入る。


「ジュアン様が次回に持ち越したのではないですか」


アロンの言葉に「この国に戻ってくる気はこれっぽっちも無かった」とは言えない。と、もじもじしながら実菜は思った。


ジュアンだった時も、別に有耶無耶な感じにしたかった訳ではない。必要性を感じなかっただけだ。


「レオンハルトだったから、国は発展したんです。

かなり早い段階から、国として機能していたと聞いています。

それはレオンハルトだったから。

あの人は、先を見通す能力に長けていたんです。

それに、人の能力を見出してそれを活かす事が得意だった」


実際に、あの頃、魔物が活発になっている事や純子の浄化能力、癒しの力にいち早く気付いたのは彼だった。

だからこそ、早い段階で魔物や瘴気に対して手を打つ事が出来たのだ。


「ここで彼が悪者になってしまうような発表をしたら、彼の功績まで悪い方へ向かってしまいそうで。

……だから、歴史を変えることを拒否したのです」


真剣に訴える実菜に、思う所があるのか、アロンも陛下も口を噤んだ。

しかし、ロイは違うようだった。


「それはそれ、これはこれ。ではないでしょうか。

実際に彼がした事は、許されない事です。自業自得です。

それによってこの国が分断されるような事もないでしょうし、ここは正すべきです!」


ロイにしては珍しく語気を強め、言い切る。

陛下が訝しむようにロイを見やると、ロイは、ハッとした様に口を噤む。


「ロイ、お前はこの件になると、やたら熱くなるけど、何か理由でもあるのかい?」


アロンが苦い顔でロイの顔を覗き込むと、ロイは慌てた様子で首を横に振る。

今までもこの件で話し合いがあった様だった。


「別に、そんな事は……ただ、真実と違うならば正した方が良いと、そう思っただけです」


そうは言ったが、ロイは憮然としている。

この場で、この件に関してこだわっているのは、ロイだけのように思えた。




歴代の修正の件は、ロイの気持ちを慮ってか、陛下が一旦持ち帰るという事となり、お開きとなった。




****

「こんな所で、何してるの?」


王宮の3階には、ベランダが広く作られている。

そのベランダの手摺りにもたれるようにして、ロイが佇んでいた。


「師団長とミナはどうしたんです?」


俯いていたロイは、顔を上げると話しかけて来た静加に、逆に問う。


「実菜は、流石に今日は自室に押し込めて来たわ。色々な事が一度に起きたから、休ませないと。

まだ母様の記憶が強いみたいで、私を見ると込み上げるものがあるらしくて、頬擦りされたり、揉みくちゃにされる勢いだったしね」


一眠りして落ち着いてくれると良いのだけど。

母様そのものが表に出過ぎたら、実菜じゃなくなっちゃう。


「セシルは……公爵に引き摺られて行ったわ。

あそこも、愛情表現が激しいみたいね。

私としては助かったけど」


「ランチでも〜」と、公爵に手を引かれていくセシルが、この世の終わりの様な顔を静加に向けていたのは、印象的だった。

恐らく、静加に助けを求めていたのであろうが、傍観するに留めた彼女も大概である。

それよりも、静かに退室していったロイの方が気になっていたのだ。



「ここの景色って、結構良いわよね」


王宮が小高く造られている上、3階という高さから見渡すと、国全体とはいかないが、かなりの眺望だ。

静加が手摺に手を置き、景色を眺めるのに釣られ、ロイもそちらに身体を向けて、眩しそうに目を細めた。


「時代が時代なら王女様だったのですね」


景色を眺めたまま、揶揄するように、ロイが静加に言う。


「キャラじゃないよ。分かってるでしょ」


暫く沈黙した後、静加が切り出した。


「……納得、してないみたいだね」


これは、もちろん歴史の修正に関してなのだが。


「粛清されるべきなんです」


ロイは遠くを見つめながら呟いた。


修正ではなく、粛清?何の話だ。

静加は眉を顰める


暫し、沈黙が続いたが、静加が口火を切る。


「私がこの地にいたのは、6歳位までだったけど、王宮は、こんなに立派では無かった。

……国民もこんなに居なかった。

思い返すと、本当に建国当初なんて、おままごとみたいだったわ」


ロイの表情は変わらない。

ただ、静加の言葉を聞いていた。


「母様に、私だけ日本に送還されて、私はこの地の記憶を無くしていたけど、この国に来て、偶然、母様の日記を見付けた事で思い出したの。

ああ、私はここで生まれたんだった。生まれ故郷に帰って来たんだって」


ロイが「日記……」と、呟いたが静加は構わず続けた。


「ははは。その送還の仕方もさぁ、確実じゃ無かったんだよ。

アレクが召喚してたのを見て、それを見様見真似でやったのよ?信じられる?

いくら危険が迫っているとは言ってもさぁ、それはそれで危険だよねぇ?

どこに飛んで行くのか分からないんだもの。

まあ、目的地には着いたから良いっちゃ、良いのだけれども」


ロイは景色から視線を外し、所在無さげに俯いた。


「本当、猪突猛進と言うか、後先考えていないと言うか、感覚で動いちゃう人なのよね。母様って。

そんな人が上に立ってたら、下は大変だったろうなぁ。

父様にしたって、人を動かすと言うより、自分が動く方が早いっていう人だったからねぇ」


「それならば、家臣が支えれば良いだけではないか?」


「今更、そんな事を言ってもねぇ。

どちらにしても、レオンハルトが治めてくれて良かったと思ってる。

母様もそう思ったから……」


「愚王は愚王として、正されなければならないんだ!」


静加の声に被せる様に、ロイが怒鳴った。

部下を叱る以外で、声を荒げるロイは珍しい。

静加は視線を景色からロイに合わせる。

ロイは、地面を見つめていた。余程強く握っていたのか、その拳は白くなっている。


「レオンハルトが愚王だったなんて、聞いた事がないよ。

それどころか、誉め称える声しか聞かない。

そんな事を言うのは、貴方だけよ」


真一文字に結んだロイの唇が、微かに震えているように見えた。


「もう、良いんじゃないかしら。

貴方は頑張ったもの、日本の尼さんが言っていたわ『愛するということは許すこと』だって。

自分を愛してあげなさいよ」


「いつから……気付いていました?

私が……レオンハルトの生まれ変わりだと」


変わらず地面を見つめたまま、ロイが静加に問う。


「私は別に……鎌は掛けたけど。

いやぁ、まさか本当にそうだったとはね」


ははは。と笑う静加に対して、ロイは暗い顔で溜息を吐いた。


「ですが、ミナや師団長の様に詳細に覚えている訳ではないのです。

ただ、ジュンコや兄上に対して行った事は……ハッキリと思い出せる。

成人を迎え、父上より我が家の任を聞かされ、その任を任された時、その記憶が蘇りました。

罪悪感と同時に運命を感じました。これは自分に課せられた贖罪だと。

この任を全うすることで、許される気がしたんです。

有り難い事に、その機会は訪れました」


そう語るロイの瞳は、仄暗い。


「十分、全うしたとは思うけど?」


「………」


「歴史が修正されれば、全うした事になるの?許されるの?」


「………」


ロイは睨みつけるように、静加を見つめる。

しかし、それに怯むような彼女ではなかった。更に畳み掛ける。


「きっとね、ロイの場合は自分次第だと思うよ。

だって、許して貰う対象はもう存在しないんだもん。

レオンハルトは、だからこそ国造りを頑張ったんだと思うし、十字架を背負って生きてたと思う。

貴方も、ずっとその思いを抱えていたのでしょう?

もう、十分、罰は受けていると、私は思うけどねぇ。

……私の周りは、何で過去に囚われている人間が多いかねぇ」


静加はそう言うと、ふぅ、とテラスの手摺に頬杖をついた。

ロイの碧眼が、そんな静加を見つめて、暫く緊張した様に揺れていたが、ふっと、緩んだ。


「貴女も含め、ですか?」


「うぐっ、まあ、……そう、なるわね」


聖司さんの件は、今はセシルだけど……。

別に、囚われていたわけでは無い。と、言いたい所だったが、似たようなもんだな。と思い直すと、静加は言葉を呑み込んだ。


ロイは目を細めて、改めて静加を見つめる。


「貴女はジュンコにそっくりですね。

デイジーの姿から今の……シズカの姿に変わった時、ジュンコが蘇ったのかとも思ったんです。

まあ、瞳はラインハルトですが」


ふふっ、と笑うとロイは首を傾げた。


「そういえば、何故、姿が変わったのでしょう。

その姿はニホンで亡くなった時の姿なのですか?」


「いや、これはきっと、20歳前後だと思う。

……私が死んだのって83歳だったし」


「はっ?!83歳?!」


「えっ!今?今そこなの?!

……てっきり、実菜が教えているもんだと思ってたよ」


目を剥いて驚くロイに、静加も驚く。


「だったら、尚更、何故その姿に……?」


「ご都合主義の女神様の意向だよ」


「何を言っているのか、ちょと分からないんですけど……理解する為のヒントを、もう少し貰えませんか」


そう言って苦い顔をするロイは、もういつものロイに戻っていた。

お読み頂き有難う御座いました。

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