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聖女として召喚されたので、期待に応えてみた結果  作者: 珠音


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過去は過去②

すみません。

デイジーが刺される辺りまで、時が遡ります。

視点も変わりますので、どんな状況?と、混乱するかもですが、宜しくお願いします。

「駄目よ!実菜、これを逃したら次は無い!」


駄目だ、声は出せない。

実菜には集中させないと。……これで終わりにさせるんだから。

大丈夫、今回は私がいるんだから!!


デイジーは意識が飛ばないようギリッと唇を噛んだ。

しかし穴の開いた腹が熱を持ち痛い。

知らず痛みを堪えるデイジーの瞳に涙が溢れる。

デイジーは倒れないようにクラウドの腕を掴んだ。

その視界の端では実菜が両手を掲げているのが見える。


「ぐっ、ゔ、何だ……?!」


自身に起きる異変にクラウドが声を漏らした。

実菜の浄化の光りに吸い込まれる様にクラウドの黒い瘴気が取り込まれて行く。

徐々にクラウドが人の形を成さなくなり全てが実菜の光りに取り込まれると支えの無くなったデイジーは自力で立って居られず、その場に倒れ込むとクラウドの腕で蓋をされていた腹の傷から赤い物が溢れ出しその場を赤く染めた。


実菜、後は頼んだよ。上手くやってね。

ああ、こりゃ、もう駄目だ。詰んだね。

まあ、元々死んだ人間だし、もう悔いはないし、良い人生だったと思うよ。これ以上は望まない。

これ以上死者を冒涜するのも気が進まないしね。

人の身体を借りてまで生きて……愛し合いたいとは思わない。

可愛い子なのにごめんね、思いっきり傷をつけちゃったよ。

聖司さんもごめんね。結局、貴方とは縁が無いという縁だったんだよ。


デイジーの脳裏に今はセシルとなった彼の姿が浮かぶ。


涙で歪んだデイジーの視界が徐々に暗くなっていった。



どれだけ時間が経ったのだろうか、或いは刹那か、気付くとデイジーはどこまでも白い空間に居た。


ここは……?身体の痛みが無い。

自身の身体を触ろうとして身体自体が無い事に気付く。


身体が無い、という事は死んだ、か?


『シズカ……』


自分を呼ぶ声が聞こえるが、声が頭に響く様なイメージだ。

相手の姿も無い。

精神世界が有るとすれば、こんな感じか?


「その名前を知っているという事は……」


『有難う。あなたがたのお陰で私は私を取り戻す事が出来ました』


「クラウド」


『クラウド……そう、私はクラウドの名を貰う遥か昔、フローディアという名の女神でした。

貴女の仰った通リ神格を剥奪された後に堕ちた……神です』


クラウドの時とは違い、慈愛に満ちた優しい声だ。


『この地は山脈より溢れ出る瘴気により人間が生きて行ける土地ではなかったのです。

私はそこに集う人間の為に瘴気を吸い上げ、護っていましたが未熟さ故に自身が吸い上げた瘴気にのまれてしまっていました。

……全ては私の独り善がりだとも気付けず』


ふふっと自嘲気味にフローディアが小さく笑う。


「アレクが瘴気の山から拾ってきた時は、手に乗るくらいの黒い火の玉の様なもので、害は無いと思っていたのに」


『あの頃は、もう森を彷徨うだけの、力の無い存在になっておりましたから。

でも、アレクに出会い人間の闇に触れた時、力が湧いてくるのを感じたのですわ』


「アレクに闇があった?」


マッドサイエンティスト的な所は確かにあったけど、基本ボーッとしてたイメージしか無い。


『闇とは欲望、妬み、嫉み、黒い部分ですわ。

アレクには嫉妬がありました』


ああ、まあ、それは。

嫉妬してる側も、されている側も、気付かないという本人達の鈍感さが信じられない程だったけど。

アレクも態度に出していないつもりだったみたいだし。


「だから利用したの?あなたがアレクに『欲しいと思う女性は相手を殺してでも手に入れるのが人間だ』って言ってたのを聞いた事があったのよ」


『そうですね、嫉妬を煽る事でそれを自分の力に取り込めると考えたのですわ。

でもアレクは優しい人間でしたから、身体を乗っ取る事にしたのです』


「大好きだったのに?」


アレクがどこへ行くのにも付いて来て、懐いた犬みたいだったのに。


『大好きだったからですわ』


……理解出来ない。

闇堕ちした事で愛情表現も歪んだのだろうか。


『勿論、今となっては間違いだった事は分かります。何故、そんな事をしたのか……。

アレクが殺され、その代わりにレオンハルトの身体を乗っ取った事も。

父神がそんな私を浄化する為に聖女となる者を召喚させたのも、私の為だという事が今では分かります。

……父神の愛だということを』


「興味本位で召喚したのはアレクサンドロスだわ。

クラウドを山で拾ってきたのもアレク」


『アレクが召喚術を完成させジュンコを召喚したのも、私を拾ったのも全て父神の意向ですわ』


「偶然ではないと?」


『偶然に見せるのが神の業ですわ。

ですがその所為であなた方、親子には辛い人生を歩ませてしまいました。

特に……ジュンコには』


「私達だけではないよ……操られていたとは言え、兄を死に追いやったレオンハルトとか、理不尽に殺されたアレクとか、民衆とか」


『その通り、ですわ。私の罪は計り知れない。

それは承知の上ですわ』


フローディアの語気が少し強くなる。


『シズカ、アレクの所へ魔術を学びに来るジュンコの傍らにはいつも幼いあなたが居ましたね。

私は全て承知の上で……あなた方には幸せになって欲しいと思うのです。

……これは最後の独り善がりですわ』


「私の幸せは私が決めるよ」


『ふふっ、ですから独り善がりなのですわ』


実菜は分からないが、デイジーの人生はこれで終わったと思っている。

これから幸せとはどういう事か。


「幸せは誰かに宛てがわれるものじゃないだろ?」


『父神にも似たようなことを言われましたわ。成長していない、という事ですわね。

ですが私がこんな事を言うのも憚れますが。

ジュンコ……今はミナといいましたか。彼女はもう少し導きが必要だと感じましたの。

シズカ、貴女にはそれをお願いしたいのです』


うぅ〜ん。

もう少し親の面倒を見ろという事か?

外見的には祖母と孫だけど。

ん?いや、実際には魂が同じなだけで、今は他人だけど。


「確かに万が一、前世の記憶を思い出した時が心配ではあるけども」


王宮の図書館の立ち入り禁止エリアに隠されていたのはジュンコとジュアンの日記だ。何があったか詳細に書かれていた。

それによればジュアンの後半の人生はかなり病んでいたと思われる。

馬鹿が付くほど素直な彼女は瘴気を殲滅する為だけにこの国に生まれ変わって来たが……ジュンコの記憶を鮮明に覚えていたが為にラインハルト、愛する者が居ない世界の虚しさに耐えられなくなっていったようだ。

更に聖女として神格化され崇められ、弱みを見せることは許されなかった事もあり徐々に疲弊していったようだ。

日記を読む限りでは、自分で自分を追い詰めていったようにも感じるけど……。

周りを見る余裕すら無くなってたんだろうな。

……もっとジュアンとして生きれたら楽だったろうに。

「次は絶対この国に関わらない」と書いてあると思えば「瘴気が酷くなったら聖女を召喚するよう伝えた」とも書いてあったし、矛盾が過ぎる。

あー……、だからこの国に生まれて来なかったのか。

何事も無ければ、関わらずに済む。


その日記のタイトルに『静加へ』とあったことから、私は何処かで生きていていつかここへやって来ると信じていたのだろう。

そう信じる事で罪悪感を少しでも減らしたかったのかもしれないが、壮大な手紙を受け取った所でどうしろと言う所だ。

しかし実際に静加はこの国に来てその日記を手にした。


……それも神の意向だということか?


静加は思わず嘆息する。



「ねぇ、どうして国王ではなく第一王子でもなく第二王子を操っていたの?」


国を上から潰そうとするなら国王を操った方が手っ取り早い。何故まどろっこしい事をしたのか不思議だった。


『波長が合う。とでも言うのでしょうか。

アレクにしてもレオンハルトにしても劣等感を抱いている者程心の闇が強く入り込み易かったのです』


なるほど。第一王子はかなり優秀だという話だからね。物心つく頃にはかなり比較もされただろうな。

レオンハルトにしたって双子で瓜二つにも関わらず、人を惹きつけるのは決まって兄のラインハルトだった。

……まあ、自分の父様を良く言うのは憚れるけど。劣等感を持つなと言う方が無理だろう。


「貴女はこれからどうなるの?」


『私はこのまま消滅致します。

女神だった頃の精神で……フローディアとして消える事が出来るのは、感謝しかありません。

ふふっ、最後の力を振り絞った独り善がり。受け取って下さい。

……心から愛せる者に出会えるのは奇跡とも言えると思いますわ。

その出会いを、その者との一瞬一瞬を……大事にして欲しいと思いますの』


何か思う所があるのか?と感じさせる物言いだった。


徐々に声が遠くなっていき、夢から覚める時のような覚醒する感覚があった。

白い世界が次第に薄暗くなり、静加は自分が目を瞑っている事に気付くと様子を窺うように薄っすら目蓋を開ける。

最初に飛び込んで来たのは驚愕した顔のセシルのどアップだった。


「シズカ!!」


え、シズカ……?


ゆっくり上半身を起こすとサラッと長い黒髪が肩から顔の方へ流れてきて、思わずその髪を掴んでいた。


黒髪?セシルも静加って呼んだし、女神の言っていた独り善がりとはまさか?


静加は戸惑いながらも視線を上げると正面に瞠目した実菜が立っている。


「しずか……」


そう呟くと実菜がその場に崩れ落ちた。


不味い!何か思い出したのかもしれない。

どんな状態になるか分からないのが怖い。


「ちょっと離れて!」


静加は抱きつこうとするセシルを振り払い、ベッドから出ると跪き実菜の二の腕を掴んだ。


「息子よ、お前は顔だけでなく女性の好みまで私に似たんだね〜」と見たことの無い男性が静加を見つめながら、セシルを揶揄するように言っているが、今はそれには構っていられない。


「実菜!」


静加は実菜を揺さぶるが反応が無い。

目は開いているが焦点が合っておらず、ぶつぶつと微かに口が動いている。


「迎えに……わたしが……」


私を日本に送還した時を思い出しているのか?


「聖女と呼ばないで……」


ああ、駄目だ。

母様とジュアンの記憶が混乱しているな。

静加の姿を見て覚醒してしまったのか。

もう!!フローディア〜!!

しかし、うぅ〜ん、これは結構、重症なのでは?


「実菜!あんたは神倉実菜だろ?!

神倉実菜として20年以上生きて来ただろ!!

しっかりしろ!」


静加は再び実菜の二の腕に力を込め、ガクガクと揺さぶる。


ジュアン、あんた一体どんだけ病んでいたんだよ?!


静加は途方に暮れる思いで天を仰いだ。

お読み頂き有難う御座いました。

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