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聖女として召喚されたので、期待に応えてみた結果  作者: 珠音


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過去は過去

「父上!どうしてこちらに?」


セシルが身なりを正しながら問う。


「いやぁ〜、そろそろ時期かなぁと思ってね。

陛下との謁見で王宮のサロンで待っていたら、お前達が帰って来たというから来てしまったよ。

ああ、貴女は聖女ミナ様ですね。

申し遅れました私はセシルの父、アロン・クリスフォードと申します。

以後お見知りおきを」


実菜を正面に軽い感じでアロンはそう言うと実菜の手を取り、その甲にキスを落とす。


「!!」


きゃ〜!!キスよ!キスしたわ!

初めてされる挨拶に真っ赤になりながら実菜はコクコク頷く。


「それで父上、時期とは?」


苦い顔でセシルが問うとアロンはロイに視線を向ける。ロイは微かに首を横に振った。


「ふむ。やはり陛下の御前で話した方が良いかな」


拳を顎に当て、考える仕草でアロンが呟く。


「その気遣いは無用だ」


その時威厳のある声が病室に響き、護衛を引き連れた陛下が病室の扉の前に立っていた。


わ!何で陛下がこんな所へ?!


「やあ、ケビン。直接会うのは何年振りかな?元気そうで嬉しいよ」


その場の者に緊張が走る中、アロンは驚く事も無く陛下に気安い口をきく。


「ふっ、変わりないなアロン。

サロンにて待てと伝えおいたのに、サロンはもぬけの殻。

落ち着かぬ奴よ」


陛下の立派な口髭がニヤリと口角が上がるのに合わせて動く。


「息子が帰って来たと聞いたのでね、居ても立っても居られなかったんだよ」とアロンは肩を竦める。


「まあ、良い。それで話とは?余はここでも良いが」


溜息と共にバサリと赤いローブを翻し、陛下が病室の椅子に腰を掛ける。


に、似合わない。激しく場違いだわ。

病室の安っぽい椅子と陛下。


これには流石に護衛達も慌てた様子だったが陛下が下がらせる。

つまりここで話せ、という事である。


どうしましょう。

デイジーは昏睡状態だから仕方ないとして、私達は部屋を出た方が良いわよね。


戸惑いながらも部屋を出ようとする実菜の手をアロンがパシッと掴む。


「聖女様、貴女はここに居て下さらないと」


何故に?!とは思ったが「どうせ後で同じ話をするから」という事で、病室には寝ているデイジー、実菜、セシル、ロイとアロンと陛下だけとなった。

場所が無機質な病室なだけに変な雰囲気だ。


「さてと、何から話しましょうか。陛下、聖女の件で王族に伝えられている事があったはずですが、それはご存知で?」


世間話の様な調子でアロンが切り出す。アロンのお陰か緊張感がかなり薄れた。


「ふむ。余と同格という以外であれば……建国の件であろうか?」


逆に陛下の方が緊張しているようにも見える。


「良かった。ちゃんと伝えられていたのですね。今回が、その機会かと」


何の話かは分からないが、アロンの言葉に陛下が「うむ」と美髯を撫でる。


「父上、申し上げても?」


「何かな?息子よ」


流石にこの二人の前ではセシルも大人しい。遠慮がちに声を上げる。


「何の話をされているか伺っても宜しいですか?」


セシルにも話が分からなかったらしい。実菜のしたかった質問をしてくれた。


「陛下、この場にはこの話を知らぬ者もおります。順を追って説明することをお許し頂けますか?」


変わらずアロンは軽い口調で陛下へ許しを請う。


「ふむ。許可しよう。

互いの話に違いが無いか確認にもなるだろう」


アロンは頷くと口を開いた。


「じゃあ、ざっくりと説明するよ。建国より数年前に一人の女性がこの地に召喚された。

名をジュンコ。

丁度その頃瘴気が発生するようになり、魔物も出現し始めた。

それをジュンコが浄化して民衆より国をまとめて欲しいと望まれて女王となった」


アロンは陛下の様子を窺うように一旦言葉を止める。陛下はそれを認め頷くとアロンが先を続けた。


「ジュンコが女王となり数年が過ぎた頃、ジュンコの夫の弟が謀反を起こし魔物達に国を襲うようけしかけた。

これは実はその弟が瘴気の塊の様な物に操られていたという事ですが、その瘴気の塊と対峙した事が原因でジュンコとその夫は命を落としました」


この辺はカントラとロイから聞いたばかりだけど、その塊がクラウドでその時は消滅しきれなかったという事ね。

それなのに二人は死んじゃったんだ。

だからジュンコはジュアンとしてまたこの地に生まれてきたのかしら。

それはそれで随分、責任感の強い人ね。


「そして……」とアロンが更に続ける。

「その謀反を起こした弟が、あろう事かその魔物達は狂った女王が国に放ったとし、それを自分が制圧したとして国王の座に収まった」


居心地悪そうに陛下は美髯を撫でている。


「歴史の上でもジュンコの事は何処にも存在していない事になっている」


「しかし父上、その話は何処から出て来たのですか。

歴史上存在していないのであれば知りようもないではないですか」


アロンが言葉を切ったところでセシルが口を挟む。緊張感が無くなってしまったのだろうか。


「息子よ、これは次に話す話だか聖女ジュアンはジュンコの記憶を持って生まれ変わった者だったのだよ。

我々の家の伝聞はジュアンからのものだ」

「生まれ変わり……しかし、それが真実かどうかは分からないのでは?」

「ふむ。だからこそジュアンは誰からも信用されず、初めの頃は単独で瘴気と戦う事になったのだけれどね。

我々は孤独の聖女と呼んでいる」


孤独……切ないわ。

セシルったら自分だって前世の記憶があるのに人のは信じようとしないのね。


「さて、本題に戻るよ。その歴史から消えた聖女が生まれ変わって現れたその当時、味方となったのは我々の……クリスフォードとスティックマイヤーの御先祖様だった訳だが……当時の国王にその史実を進言し歴史の修正の許可が出た」


アロンは再び陛下の様子を窺う。


「……それは初代国王レオンハルトの意志でもある」

陛下が溜息交じりにアロンの補足をした。


レオンハルトが?自分で消しておいて何を言っているんだろ。

後世に託すなら自分で戻せば良かったのではないかしら。


実菜は首を傾げるが、アロンの言葉は続く。


「500年前のその時、ジュアンはそれを拒否しました。

彼女にとってはどちらでも良かったのでは、とも伝えられています」


確かに。今となっては千年も前の事だ。

歴史は正しくしておきたいというのであれば、勝手に修正すれば良いと思う。何が問題なのだろうか。


実菜にとってもどちらでも良い事だった。


「ジュアンは『次にまたこの国に現れる事があればその時に決める』としたそうです。

つまりそれは次に聖女が現れた時、と我々は解釈している」


アロンはそう言いながら実菜に視線を向けた。


ん?風向きが変わってきたぞ?


「大昔の歴代の国王にとっては威信を揺るがしかねない事だったかもしれぬが、現状で歴史が修正されたところで正直何が変わるという物でもない。

いつの頃からか聖女の前で真実を詳らかにするという事にこだわるようになってな。

要はきっかけ、ということだ」


陛下も実菜に視線を合わせながらアロンの補足をする。


何、その理由。

まさか、私に何かしらの宣言をさせたりとかしないとかという事ではないわよね?


実菜は二人の視線に嫌な汗をかく。


「ああ、そうだ!忘れていた。

500年前から我が家に伝わっているのは伝聞だけではないのだよ。

おーい、カール!いるか?」

「はい、旦那様。こちらに」


実菜の動揺には気付く事もなく、アロンが自身の手の平をポンッと叩き病室の入口に向かって声をかけると、少しだけ入口の扉が開かれ直ぐに返事が返ってきた。


「例の物を持って来てくれないか」

「はい、ただいま」


そう言うとカールと呼ばれた使用人らしき男性が扉を離れ、再び戻って来た時にはその後ろに大きな四角い包みを抱えた使用人二人を従えていた。

二人がかりで持つそれは板の様な物が白い布で包まれているようにも見えた。


「これは?」

「陛下もご存知ないですか」


陛下もそれが何かは知らないらしい。

陛下が眉を顰めてその白い包みを見つめると、何故かアロンは得意気であった。

アロンがニコニコしながらその包みに手を掛けた時、異変が起きた。セシルが「あっ」と小さく呟く。

セシルを見ると彼は驚愕してデイジーの眠るベッドを指差していた。


「どうしたのだ、息子よ」

「今、光った様に見えたのです」

「お前にとって彼女が光り輝く女神だという事は良く分かった。しかし、今は……」

「ほらっ、また」


苦い顔でセシルを窘めようとしていたアロンも息を呑む。

ベッド上のデイジーが、ふわんふわんとゆっくり点滅するように金色に光っていたのだ。

その光りはゆっくりと広がり、デイジーが見えない程強い光りとなり彼女をすっぽりと包み込んだ。


「これは、一体?」


その場が息を呑み事の成り行きを見守る中、セシルは静かに金色の繭の様な状態になったデイジーに近付く。


「中がどうなっているのか見えない」


セシルは繭に顔を近付け、じーっと中を覗き込むが何も見えないらしい。


これは、何というか……。


ジ○リアニメのナ○シカみたいだと実菜は思ったが、その話が分かる者はここには居ないので口を噤む。


という事はセオリーから言えば、この光りが収まればデイジーが目覚めるはず。

なんてね、それは少し虫がいい話かしら。


無意識に実菜もベッドの足元に近付いた時、徐々に金色の光りが弱まっていく。


あ、光りが消える。

……デイジー、目を覚ましてくれるかしら。


実菜も祈る思いでセシルの後ろから光りの中を覗き込むと、光りの中から一人の女性が現れた。


「………」

「シズカッ!!」


セシルがゆっくりと目蓋を開いたその女性に向かって声を上げる。

その女性は上半身を起こすと、腰ほどまである長い黒髪を確かめるように撫で、その瞳を実菜に向けた。

その姿は先程までのデイジーではなかった。


……誰?


「しずか……」その瞳を見つめ、実菜が無意識にセシルが呼んだ名を呟く。


しずか……静加?!


実菜は瞠目した。

胸が締め付けられ、貧血が起きた時のような目眩を感じ、呼吸が荒くなる。


ああぁ!!どうして忘れていたんだろう!

静加が、静加がここに居る。


ああ、どうして!


ぐるぐると実菜の中で記憶と感情が渦巻き、立って居られずその場に崩れ落ちた。


静加が、居る。


ここに。


では、わたし、わたしは……?

お読み頂き有難う御座いました。

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