これは何ですか?これは試験です
誤字報告ありがとうございました。助かります。
「じゃあ、聖女様、ちょっとこの石を持ってくれる?」
今、何故だか私は先程とは違う部屋で手の平に乗るほどの透明で小さな丸い石をセシルから渡されている。
先程の部屋は王宮の来賓用の客室だという。そんな部屋だったのか!と今更ながらドキドキした。豪華なわけよね。調度品とか。
で、今はセシルの執務室だというところへ連れて来られ石を持たされているわけだが。
「これ、何ですか?」
「水晶だよ。」
事務机と応接セット、後は本棚位しかないシンプルなその部屋のソファーに座らされて居るのだが、正面にはセシルともう一人、丸メガネを掛けた知らない男性が座っている。
もちろんというのも変だけど紹介はなく、部屋に入るなり作業を進めるセシル。戸惑っていることに気付いて欲しいんですけど。と思うのは私だけだろうか、誰なんだその男は?
聞いて良いものなんだろうか?この国の常識を把握してないので何となく躊躇してしまう。
私に名前を聞いたのも辛うじて思い出したから感が否めないし、この人興味ある事以外まったく興味無い人なんだろうな、多分だけど。そういう人は大概気が利かないと相場が決まってる。思い込みかもしれないけど。
「その石、両手で包む様に持って。そうそう」
言われた通りに石を包む。
「そうだな、一番簡単なのは……やっぱり回復かな、うん」
何か一人で納得してるけど、何ですかね、これ。
「じゃ、そのままで『回復』を意識してみて?」
何じゃそりゃ?
うーん、言葉足らずな気もしなくは無いけど取り敢えず言われた通りにしてみる。回復回復回復……。
「ちょっと貸して?」
一分位してからだろうか、セシルに石を渡すとその石をマジマジと見つめる。
石を見つめたまま不思議そうな表情でコテンと首を傾げると、隣の男性にその石を差し出す。男性も石を手に取り、セシルと同じ様にマジマジ見つめ、同じ様に首を傾げた。
だから、何なの?!
二人して同じ様な顔して!せめて説明してよ。不安になるじゃない。
「不思議だ、何の変化もしないなんて」
また二人だけでウンウン頷いている。
「あのね、魔力を持つ者は自分の魔力を物に付与する事が出来るんだ。水晶が一般的なんだけどね。
不思議なのは、この石には少しの魔力も付与されていないということなんだ」
「?」
セシルが若干興奮気味に言うが、それの何が不思議なのか?つまり私には魔力が無いということでは?そもそも付与自体があまり理解出来ていないけど。
「魔力保持者が触っていた痕跡すらないのはおかしいのです。必ず残り香のようなものがあるので」
もう一人の男性が説明を付け足した。
「それは単純に私に魔力が無いのでは?」
思ったことを口すると、それは無いよ、と机の引き出しから大きな水晶を出して来た。占い師とかが持ってそうな大きさだ。
それを目の前のテーブルに置く。
徐ろにセシルがそれに手を当てると透明だったそれが真っ赤になり光を放った。
「属性、魔力量に応じて色や光り方が変わる。申し訳ないとは思ったけど、寝ている間に貴女の属性と魔力量も測らせて貰ったんだ。僕は火属性が強いから赤く光る」
セシルが水晶から手を離すと直に透明に戻った。
今度は隣の男性が手をそれに当てた。
水晶が空色に輝き始めるが、先程より光り方は強く無い様に感じた。
「リードは水属性が強いんだ。魔力量は僕の方が大きいから光り方は僕の方が強い」
そう言うとセシルは私を見る。
ああ、私もそれをやれってことね。
ていうかその人の名前リードっていうのね。
もう少し言葉を発しなさいよ!
仕方ないので私も恐る恐る水晶に手を当てる。
すると直ぐに真っ白に色付き、眩しい程に光り輝き始めた。白の中に金色のラメの様な物も混じり、それがより輝きを増している様に感じられる。
あまりの光の強さに驚き、手を離してしまうとスッと光が消える。
「白色は聖属性なんだけど、金色が混じっているのなんて初めて見たんだよ!しかも魔力量は僕より強いのは間違いないし!」
セシルは興奮気味のまま「ほらほらっ」と隣の男性に熱弁する。
そんなセシルを見ると「ね?」とでも言いたげな笑みを向けてきた。
そんな顔、されても……ねぇ?
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セシルの「暫くリードの仕事を手伝って欲しい」と言う言葉で今度はリードの仕事場へ向かっている。
「愚弟が迷惑掛けて悪いね」
廊下を歩きながら不意にリードが言った。
「弟さん……えっ、リード様って、セシルのお兄様なんですか?!」
「あ、やっぱり言って無いんだね」
そう言って苦笑いする。
言われてみれば似てるわ〜。銀髪にダークグリーンの瞳はもちろんだけど笑った時の雰囲気とか。
でもリードの方が細い、のかな?いや、これは窶れてると言った方が正しいわね。少し頬が痩けてる気がする。仕事を手伝って、と言うことは窶れる程仕事が忙しい、ということなのかしら。
「陛下の謁見は少し落ち着いてから、ということで伝えておくと思うから、それまでに色々解決するとしようか」
ニコッ、とメガネの奥の目が細められた。
あぁああ―――っ!そうだった!用無しの私をどうするか、という問題がありましたね。
何か私の使い道が無いか見付けないとですよね!
すみません。お手数お掛けします。
「あ、ここの部屋だよ」
突然シュンとなった私に訝しげな目を向けたリードには気付かないまま、開けられたドアを潜った。
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