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聖女として召喚されたので、期待に応えてみた結果  作者: 珠音


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実菜、猛省する

目の前の男の言葉に実菜は暫し言葉を失う。


クライマー?クライマー子爵の息子さんて事よね。でも今は行方不明になってるはずで……何故ここにいるのかしら?


実菜が返答に戸惑っているとシェーンが再び小声で急かす。


「申し訳御座いませんが時間がありません。見つかると私も危ないので……警戒されるのは分かりますが付いて来てくれませんか?話があるのです……父とマンガス伯爵の事で」


そう言う間もシェーンは周囲を窺っている。


「どういう事です?貴方方は今、行方不明という事になっていますが、今までどこに……」

「父達の作っている物が怖ろしくてそこから逃げて来たのです。早くしないと本当に見つかって殺されてしまう!その前に貴女に父達を止めて欲しいのです」


実菜の質問に被せるように早口で言うとシェーンは実菜の腕を取り、どこかに向かって走り出す。小柄なシェーンのどこにそんな力があったのか、実菜は引き摺られるようにして彼の後を小走りで付いて行く。


「待って、やっぱり魔導師団か騎士団に相談してからじゃないと、私一人では何も出来ないと思うし」

「本当に時間がないのです。詳しい話は馬車の中で」


馬車に乗るの?これは……簡単に連れ出されるのは不味いかもしれないわ。この間の今日だもの。でもクライマーとマンガスが作っている物も気になるし。私が浄化すれば何とかなるということかしら。


暫く走ると裏門に向かっている事に気付いた。馬車も見える。


影……見てくれてるわよね?


実菜は祈る気持ちでそれを信じ、シェーンに付いて行く事にしたが、そこまでの道程でいつも居る警備の者達が一人も居ない事には気付かなかった。





****

「襲われたと言うのは本当か!!」


バタンッと勢い良く治療棟の病室の扉が開きセシルの声が病室に響く。


「師団長、少し声の大きさを抑えて下さい」


既に病室の中に居たロイがいつもの如く眉を顰めてセシルを制するが、怪我をしたのはロイではなく廃墟の密偵に出ていたジョンだ。密偵では現場までは馬車は使えないので途中からは歩く事になる。なのでスタミナのあるジョンとトイが任務を遂行していたのだが、廃墟付近で賊に見つかり襲われたのだという。脇腹を賊にザックリ刺され、回復薬で傷は塞がったが一旦退くことにしたのだ。


「すみません、師団長。油断しました」


苦い顔でジョンがセシルにベッドに腰掛けた姿勢で謝罪する。ベッド横には同じ様な苦い顔でトイが立っていた。傷は塞がったが出血が多かったという事で大事を取って休んでいるだけなのだ。


「いや、無事で良かった。それで、何か分かったか?」


セシルが近場にあった椅子を引き寄せ、座りながら問う。


「それが、外観は本当に廃墟で凡そ人が住めるようには見えないのですが、馬車が行き来した跡や足跡が幾つもありました。まあ、賊が住処にしている可能性も無くは無いですが。突然襲って来たのが……賊達の目が正気では無さそうに見えたのが気になります」


恐らく直ぐに退いたのはウォルの事を見ていた2人だったからだろう。ウォルを連想させる様子だったという事か。


ロイは一人納得した。


「師団長、どうしますか?大事になる前に制圧しますか」


もしかしたらマンガス達も居るかもしれないしな、ミナには悪いがまた同行してもらって……。


「それより、デイジーはどうした?」


「……さぁ?」


セシルの返答にロイは盛大に溜息をつきたい気分だったが、なんとか堪える。そこへ王宮の警備をしている者が病室の入口から遠慮気味にロイを呼んだ。


「どうした?」小声でロイが問う。「実は……」その者の言葉に自身の額を手の平で抑え、力無く息を吐く。実菜に付けていた影から彼女がシェーンにより連れ去られた旨の報告であった。


ロイがセシルへ目配せし魔導師団執務室へ戻って来ると、中からデイジーの緊迫した声が迎える。


「どこ行ってたの!」

「そういう貴女はどちらへ?」

「実菜とランチ!でも、気を取られてたら実菜が王宮から消えた!」

「すみません、もう少し話が理解できるヒントをお願いします」


実菜と食堂にいた時に気になる事が出来て魔導師団室へ戻って来ると気持ち悪い気配を感じ、それがどこにいるのか探っていたら気配が消えてしまった。まさかと思い実菜の気配も探ってみたが見付からない。研究室、温室にも直接行ったが居ない。リードにも確認したが帰って来ていないと言われた。という事らしい。


ロイも先程の影からの報告をする。


「私とした事がぁ〜!!」


机に突っ伏しデイジーが机をドンドン叩く。そこへ先程、治療棟へ姿を見せた警備の者が魔導師団室の扉を叩く。ロイが扉を開き、その者がロイに耳打ちだけするとすぐに居なくなった。


「師団長、デイジー、追い打ちをするようですが、殿下が塔から消えました。警備をしていた者数名が意識不明、恐らく眠らされている。との事です」


暫しその場が固まる。


「殿下はこの件にどう関わってるんだ?全くの別件で自分で塔から逃げただけか?!いや、警備がやられているという事は手引きした者がいるという事だな!」


セシルが誰に言うでも無く八つ当たりするように言う。


「師団長、落ち着いて下さい。先ずは一番怪しいその廃墟を探りましょう」


ロイがどうどう、とセシルを宥めている横でデイジーがローブを翻した。


「分かったわ。どちらにしても私は先に行くわね。実菜が心配だから」


「えっ?先にって?」

「飛んでった方が速いのよ」

戸惑うセシルにデイジーは上を指差した。


「は?!ま、待て!一人でなんて危な過ぎる!!」


「大丈夫よー!!」


セシルの静止を振り切りデイジーは魔導師団室を飛び出す。セシルの手は虚しく空を掴み、ロイは天を仰いだ。


デイジーは実菜を追う前に自身の寮の部屋に寄っていた。部屋に入ると陛下から譲り受けた石を5個、机の引き出しから取り出しポケットにしまうと、壁に立て掛けてある剣を取る。小柄なデイジーに合わせた剣を作って貰っていたのだが、それが丁度出来上がったばかりだったのだ。

「間に合って良かったわ。これも丁度手に入ったしね」そう独りごちながら鍔を指で撫でる。そこにも実菜が魔力を付与した赤い石が嵌め込まれていた。





****

窓にカーテンが引かれた馬車の中で、足枷と後ろ手に手枷をされた実菜は猛烈に後悔と反省をしていた。


知らない人にはついて行ってはいけないと学んだばかりなのに。このザマだわ。


ふぅ、と息を吐き正面に座るシェーンを見る。


「すみませんねぇ。騙す様な真似をして。手荒な事はしたくありませんので、大人しくしていて下さい」


実菜の溜息にシェーンが悪びれる事もなく応える。


「『騙す様な真似』じゃなくて、しっかり騙してるじゃない!……貴方も覆面の男に脅されているのではないの?」


実菜の言葉に始めキョトンとしていたシェーンだったが弾けるように笑い出す。目が笑っておらず狂気とも取れるその笑い方に実菜は背中に冷たい物を感じた。


「アリスはそんな事を言っていましたか」


一頻り笑い終えるとシェーンは冷たい表情で言葉を吐く。


「彼女は少し頭が弱いのでね。魔王様の素晴らしさを理解出来ていないのですよ。あの方が彼女を選んだ理由は分かりませんが、彼女は少し悪目立ちが過ぎました。王宮に目を付けられたマンガスと同様に処分しようとしていたところです」


駄目だ。完全に心酔しているわ。何を言ってもこちらが可笑しい事にされてしまう感じね。それにしても、マンガスと同様?処分?


「ウォルの事は知っていますよね。あの男はあろうことか魔王様から逃げようとしたのですよ」


シェーンは信じられないとでもいうように頭を軽く振ると嘆息して言葉を続ける。


「それでも寛容な魔王様はウォルに聖女と直接対峙する名誉を与えたのです。彼は他の傀儡よりは結構強かったはずでしたが、貴女も強いという事なのでしょうね。魔王様はお喜びでしたよ」


嬉しそうに語るシェーンに実菜は血の気が引き過ぎて手足が冷たくなっていた。


狂っているわ……。あんな物になるのが名誉だなんて。名誉という名の処分。ということかしら。考えたくないけど。操られるでもなく、脅されているでもなくシェーンは自ら魔王に従っているということだけは良く分かったわ。


「貴方は何が、目的なの」


声が震えないように慎重に実菜が口を開いた。それ相応の目的がなければ、あんな怖ろしい事に加担しようなんて思わないはずだ。しかしシェーンはその言葉に目を見開く。


「目的?あの方の目的が私の目的です。しかし私がそれを知る必要は無い。あの方を理解しようなどおこがましいことです」


ああ、もう本当に!こういうのマインド・コントロールっていうのかしら。魔王が死ねと言ったら喜んでそうしそうな勢いじゃない。


「どうして、そこまで」


思わず実菜が呟くとシェーンは遠い目をして語り出す。


「優秀な兄弟と比べられ、事ある毎に比較され両親や兄弟だけでなく誰からも相手にされず、馬鹿にされるだけの私をあの方だけは見てくれたのです。私を、愚息、愚弟ではなく、シェーンとして見てくれたのです」


それだけ?確かに辛い境遇だったのかもしれないけど、それだけであんな事を?実菜は気が遠くなりそうな思いだった。


「あの方のお陰でもう馬鹿にする奴等はいません。なんと幸せな事か」


清々しい表情で怖ろしい事を語るシェーンを実菜は凝視した。


「いない?」


「はい。あの方の兵隊になってもらいました」


心底嬉しそうに言う彼が心底怖ろしく見えた。


馬車は暫く舗装の悪い道をガタガタとスピードを出して走っていたが、やがてスピードが落ち止まる。


「さあ、到着しました。魔王様がお待ちです」


シェーンは馬車の扉を開き、実菜の足枷を外すと馬車を降り実菜を振り返った。


「おかしな事をしても逃げられませんから素直に従って下さい」


外は既に日が傾き始めていた。後ろ手にされたまま馬車を降りた実菜の腕を掴み、シェーンはそう言うと雑草の生い茂る、元は屋敷の庭だったのだろうその場所を歩き出す。正面に見える屋敷は壁が見えないほど蔦に蔽われ、屋根の一部は崩れている。廃墟と呼ぶに相応しい外観だった。


「ど、どこに行くの?」


屋敷の扉は半分外れてしまっているようだが、そちらではなく屋敷の横を通り、裏手に向かっているようだ。屋敷の中に入るのだろうと思っていた実菜は思わず口に出していた。


「直ぐ分かりますよ」


その言葉通り屋敷の裏手に建物が現れたのだ。周りの背の高い林に隠される様にして立つそれは違和感を覚えるほど高さがあり、真新しかった。


この国は基本的に天井が高いけど、この建物高すぎではないかしら。2階建てには見えないけど。


シェーンは黙ったままその建物に実菜を連れて入って行く。中に入るとエントランスがあり奥に扉がある。この建物にはこの部屋以外は無さそうだった。シェーンはその扉を開けるとその部屋に実菜を押し入れる。


何よ、ちょっと乱暴じゃない?少しふらつきながら実菜はその部屋の中を見渡した。やはり天井は高く入口の扉から部屋の奥に向かってレッドカーペットが敷かれている。


教会みたいな作りね。あの正面の黒い大きな丸い塊は何かしら?岩?ゴツゴツしてる。あれを置くために天井が高いのかしら。


実菜は高さ5メートルはありそうなその巨大な塊に集中していた為、その隣の小部屋から出て来た人影に気付かずにいた。塊の前に置いてあった赤いスウェードの椅子にその人物が座ったところで気付く。


「ようこそ。久しいね、聖女様」


悠然と脚を組み、肘掛けに頬杖をつくその人物に実菜は目を見張った。


「デイビッド王子殿下……?」

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