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聖女として召喚されたので、期待に応えてみた結果  作者: 珠音


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婚約破棄ですか?いいえ、馬鹿の戯言です

「リリー・ウォーター侯爵令嬢、この場でお前との婚約を破棄する!!」


第二王子殿下の声が壇上から会場に響き渡った。騒然とする会場の中央には苦い顔でこめかみを抑えるリリーが立っていた。



何故、私は今ここに居るんだ?


実菜もリリー同様、この状況にこめかみを押さえながら壇上の隅に立たされて居た。


遡る事、数時間前。


実菜は休日を利用し、図書館で本を読んでいた。そこへ警備服を着た男性2人が現れ、付いて来いと言う。実菜はデイジーから言われていた事もあって、教会関係の事かしら?と疑問も抱かずにのこのこ付いて来てしまった。そしてこの状況。


今日が噂の学園の卒業パーティーだったとは……。知らない人にはついて行ってはいけない。これは子供に限らずだったのね。


無防備な実菜も如何なものかと思うが、実菜をここまで連れて来たのは学園の警備員らしかった。だが今、実菜の両隣に立っているのは外見からいっても学生だろうと思えた。殿下の取り巻きだろうか。


「お前は自分の身分が高いことを鼻にかけ、アリスを事ある毎に虐めただろう!!」


殿下の声が再び響いた。


あ、まだ続いてたのね。しかし「虐めた」って。子供じゃないんだから。


実菜は顔を顰めて壇上の中央を見ると殿下の腕に纏わりついているピンクの塊が視界に入った。


うわ!びっくりした。クネクネ、フリフリしているピンクの動物かと思った。ピンクのドレスを着た女の子か。じゃあ、あの子が噂のキャバ令嬢ってことね。いや、しかしこれは聞きしに勝る状況ね。会場には結構な数の人が入ってるのに、あの態度で恥ずかしくないのかしら。


「殿下、私には一切身に覚えが御座いませんが?」


「私自身が見ていたというのに飽くまでもシラを切るつもりか!そこまで愚かな人間だとは思わなかったが、やはり反省の色すらない者とは婚約破棄するしかないな!」


リリーの言葉に聞く耳を持たない殿下の後ろに隠れるようにして、アリスはニヤニヤとリリーを見ている。


「ここで私は宣言する!リリー・ウォーター侯爵令嬢と婚約を破棄し、こちらの……聖女と再婚約する!」


そう言うと殿下は壇上の隅に立つ実菜を指差した。

それまでウットリとした顔で殿下を見上げていたアリスの顔が一気に愕然とした表情に変わり狼狽える。


「……デイビッド?え、聖女と?どういう事!私とでしょ?」

「王子の私と釣り合わせるには聖女くらいしかいないだろう?それにお前と婚約するとは一言も言ってもいないぞ?愛人くらいならしてやっても良いがな」


殿下は縋り付くアリスを振り払うようにしてツカツカと実菜に近付くとガッと腕を掴み再び壇上の中央に戻る。実菜が会場に目をやると眉尻を下げ、申し訳なさそうな顔のリリーが居た。


自己中心的な所はご健在なのね。


はああぁ。とわざと大きく溜息をつくと実菜はバシッと殿下の手を振り払う。


「無礼者!!!身の程をわきまえなさい!!私は聖女ですよ!!」


実菜は恥ずかしさを押し隠し、可能な限りの声を張り上げた。案の定、殿下は目を丸くして驚いている。


「お、お前!分かっているのか?私は王子だぞ!そんな事をして……不敬罪にしてやる!」


「貴方ごときにそんな事は出来ません。貴方のような愚かな人間が王族に名を連ねているとは……陛下の言も理解出来ます」


「デイビッドは偉い人なのよ?そんな事も知らないなんて、貴女って馬鹿なの?!」


ピンクの塊が何か言っているが「偉い人」って。実菜は必死に笑いを堪える。


「貴女こそ、公衆の面前で異性の身体に胸やお尻を擦り付けて、恥ずかしくはないのですか?私の故郷に貴女と同じ様な事をしている女性達がおりましたわ。男性と夜の営みをする職業の方達でしたけど」


デイジーの言葉をやんわりと伝えたのだが、会場にはウケたようでドッと笑いが起きた。皆一様に頷いているのが見える。キョトンとしていたアリスだったが、笑われているのが自分の事だと気付くと馬鹿にされたということだけは分かったらしく顔を赤くして実菜を睨み付け、飛びかかってくる。


「何が聖女よ!あんたなんか、何にも出来ない平民のクセに!!私は貴族なのよ?!」


実菜は咄嗟に手を前に突き出し壁をイメージしていた。


「バチンッ」

「きゃっ!!」


アリスが見えない壁に打ち当たり弾き飛ばされる。それにまた会場が、おおっ!!と、どよめいた。パチパチと疎らな拍手さえ聞こえる。


「聖女が陛下と同格だということをご存知ないのかしら?貴女のオツムではそれも無理からぬ事ですが、知らぬ事とはいえ貴女は立派な不敬罪ですわ」


床に転がったままのアリスを見下ろし実菜は可能な限り冷たく言い放った。


私……女優になれるかも!!


実菜は少し自惚れた後、リリーに視線を向ける。リリーも実菜を見返し頷く。実菜も頷き返すと殿下に視線を戻した。鳩が豆鉄砲を食らった様な顔で固まっている。


「殿下。私は陛下からこの場での発表を許可されておりますので、謹んで申し上げますわ。デイビッド第二王子殿下は王家より廃嫡となります。よってリリー・ウォーター侯爵令嬢はデイビッド第二王子殿下と婚約を解消し、レイン第一王子殿下と再婚約する事となります。わざわざ貴方が婚約破棄しなくても婚約が解消されるのは決まっていた事です」


聖女の証を授与された時に、万が一殿下が可笑しな言動を取った時はこう伝えてくれて構わないと頼まれていたのだ。流石にこれには会場は静まり返っていた。


「な、なんだ、廃嫡って。どうしてなんだ!」


顔面蒼白になり、わなわなと震える声でデイビッドが呟く。


「陛下から再三注意があったはずです。それを無視した結果です」


実菜はデイビッドの呟きに答えると、その言葉にデイビッドが目を見開く。


「注意?注意って何だ。そんなの知らない……」

「デイビッド!こんな女の言葉に騙されては駄目よ!早くここから出ましょう!!」

「いや、待てアリス……どういうことなんだ……」


先程まで床に転がっていたアリスは凄い勢いで起き上がると、茫然自失で呟くデイビッドの腕を掴み壇上を降りようと引っ張っている。


まだこの状況が理解出来てないのかしら。逃げられる訳ないじゃないの。でも殿下のこの反応はどう受け取れば良いのかしら。


「はい。そこまでです!!」


パンパンッと手を叩きながら会場に入って来たのはロイだった。その後からダダッと騎士団がなだれ込んで来て、あっという間にデイビッドとアリスを拘束した。


「ちょっと、何すんのよ!!何でよ、聞いてないわ、こんなの話が違うじゃない!!離しなさいよー!!!」


デイビッドは茫然自失のままじっとしていたが、アリスは拘束されても尚ジタバタと暴れている。


誰から何を聞いてたのかしら。とアリスの態度を訝しく感じながら2人が会場から連れ出されて行くのを実菜が見送っていると、ロイが近付いて来た。


「ミナ、お疲れ様でした。まさかあんな簡単に連れ出されてしまうとは思いませんでしたが」


「えっ!知っていたの?!」


「……聖女に護衛が付いていないとでも思っていました?何処に行くにも影なる者が付いていますよ」


ロイが盛大な溜息をつくと会場に向き直る。


「皆さん!!お騒がせ致しました!この後は楽しいパーティーをお続け下さい!!」


ロイの声が会場に響き、稍もするとしんとしていた会場が何事も無かった様に楽しそうなざわめきへと変わった。


……影って何?


実菜は一人取り残されている気分だった。


「ミナ様!」


会場から出る途中、リリーとその友人だろうか数人が小走りで近付いて来る。


「有難う御座いました!申し訳御座いません。やはりミナ様を巻き込んでしまいましたわね。でも、ミナ様とてもカッコ良かったですわ!!」

「リリー様を悪く言う方なんていらっしゃらないのに……聖女様、リリー様を助けて頂き有難う御座いました」

「聖女様のお力を拝見出来るなんて光栄でしたわ」


等々。一度に話すので何を言っているのかは把握しきれないが、喜んでいるだろう事は分かった。皆一様に瞳を輝かせ胸の前で両手を組んでいるからだ。


「陛下から頼まれておりましたし、お役に立てたなら光栄ですわ。では、皆様、パーティーを楽しんで下さいね」


実菜はそう言うとロイに伴われ会場を後にする。キャーという黄色い声が実菜の背中を追ってきた。


私……女子にモテている?私が黄色い声を背負う日が来るなんて。


実菜はとても複雑な気分になった。


「このまま執務室まで来てもらって良いですか。そろそろ何か報告が来ているかもしれないので」


実菜の気分など関係無いロイはそう言うと、既に暗くなった道を王宮に向かって歩いて行く。王立学園から王宮までの距離は歩いて15分程。


「報告って、私が居ても良いものですか?」


中には極秘な物もあるのではなかろうか。


「恐らくまたミナに頼らなければならない案件だと思うので寧ろ居て下さい」


デイジーも同じ事を言っていたわね。今度は何が起こるのかしら。


「そう言えばデイジー達は何処かに行っているの?」


魔導師団の副師団長執務室に通されたところでロイに聞く。デイジーだけでなく師団員達もいつもより少ない気がする。


「ええ、今日はクライマー子爵邸に家宅捜索に出ています」


「クライマー?あ、あのアリスの?何故です?」


今日の騒動を予言でもしていたのだろうか。


「我々は覆面の男がマンガス伯爵だと目星をつけていたのですが、行方知れずで家宅捜索しても何も出ず。そこで伯爵の取り巻きで共同経営者のクライマー子爵を当たる事にしたのです」


「それで……家宅捜索。少し強引ではない?」


「我々も悠長な事を言ってられなくなってますから。それに彼等が被害者の可能性もゼロではない。まあ、それはないとは思いますが」


ロイが吐き捨てる様に言っているところを見ると、被害者であったとしてもそのように扱わない気がしてならない。何か因縁でもあるのかしら。と実菜は思った。


その時、廊下が俄に騒がしくなると執務室の扉が勢い良く開かれた。


「ノックをして下さいと何度も……」

「すまん!だが、聞いてくれ!クライマーまで居なくなった!!」


ロイの抗議を食い気味にセシルが鼻息荒く部屋に入って来る。


じゃあ、怪しい人がみんな行方不明って事?そんなの嫌な予感しかいないじゃない。


実菜は眉を顰めて会話の行方を見守った。

お読み頂き有難う御座いました。

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