聖女誕生
「ミナ様ー!」
頬を上気させタタッと走り寄って来る可愛らしい御令嬢はリリー様だ。ハッと我に返り「私ったら」と更に頬を染める姿も、歳相応で可愛いと実菜は思うのだがきっと貴族としては駄目なのだろうと思うと、この国はなんと窮屈だと実菜は思うのだった。
「ごきげんよう、リリー様」
討伐から帰還して直ぐにリリー様からお呼び出しがあったのだ。お茶会では無く話があるのだとか。
因みにルルは王宮で保護する事に決まり一緒にこちらに連れて来た。以前デイジーが入っていた牢に居る。
「お帰りになったばかりでお疲れのところ、申し訳御座いません」
王宮のサロンのティーテーブルを挟んでソファーに2人で相向かいで座ると、どこかソワソワした様子でリリーが言う。
「いいえ、それより何かあったのですか?」
「ええ、これを見て下さい」
と言うとリリーは自身の胸元からネックレスを取り出す。ネックレスには指輪が通されているようだ。
「その指輪……」
「はい。ミナ様に魔力を付与して頂いた物ですわ」
いや、しかしあの指輪には金色の台座に赤い石が飾られていたはず。今は台座が剥き出しになり、それも少し黒っぽくなっていた。
「これは、一体?」
「ミナ様達が魔物討伐に出発されてから私は第一王子殿下の南の領地視察に同行しておりましたの。その道中、10人程の賊に襲われたのですがこの指輪が突然光って、その瞬間その賊達が全員弾き飛ばされる様にして倒れましたの。お陰で事無きを得ることが出来ましたわ。視察は中止になりましたけど」
興奮気味に話すとリリーは指輪を見つめる。
「私だけでなく、殿下と同行した者達が無事だったのはミナ様のお陰ですわ。どうしても御礼を申し上げたかったのです。指輪は……恐らくその時に弾けたのでこの様な状態になってしまいましたが」
「その様な状態の物を持っているのは良く無いのでは?」
禍々しさは感じられないが黒いのが気になって仕方無い。
「これは、ミナ様から力を頂いた物ですので、捨てられなくて……」
「でも、もうそれには力は無いでしょう?別の物にまた付与しますから……今、お持ちで無ければ別の日でも結構ですし」
実菜がそう言うと、リリーは目を輝かせオの口になり、胸の前で両手を組み合わせている。
「また、お会いして頂けるの?!」
感激するとこ、そこ?
「そう言えば、第ニ王子殿下はその後どうです?」
「相変わらずですわ。もしかしたら、本当にミナ様にご迷惑おかけする事になるかもしれませんわ」
リリーは眉尻を下げて言う。
私と婚約するとかしないとかっていうアレね。まあ、そんな事は陛下がお許しにはならないでしょうけど。
今度はそんな陛下からお呼びがかかった。
討伐から帰って来てからも変わらず研究室で回復薬を作っていると、研究室の扉が開きリードが顔を覗かせ実菜と目が合うと手招きする。
「どうしたんですか?」
「陛下がミナを呼んで来いっていうのでね」
実菜が廊下に出ると、リードが歩きながら言う。慌てて実菜はそれを追いかけた。
「陛下が?何でしょう」
「ミナ、リリー嬢に何かしてあげたね?」
「へ?あ、ああ。指輪に魔力の付与を少々」
「少々……。君が凄いのは良く分かったよ。あれは少々なんて代物じゃなかった、ということさ」
リードが呆れた顔でミナを見た。
「リリー嬢に会ったなら聞いているかもしれないが、第一王子が賊に襲われた……その賊からいつかのアレが出て来た。まあ、今回も処理してくれたのはデイジーだけど」
「えっ!賊は10人程いたって聞いてますよ?!」
「そう。それだけの物をあんな小さな物に込めた魔力だけで浄化したんだ」
地下牢に入れた賊達が次々に嘔吐き始め、ずっとその状態だったのだが何故かデイジーが現れ、前回同様、全員の口からアレを引き摺り出した。デイジー曰く、その時にはそのアレは浄化されて死骸の様な物になっていたのだという。
実菜は今まで入った事がない王の間を前にし、緊張しながら扉が開くのを待った。扉が開くと玉座に陛下が座っているのが視界に入る。
ん?こういう場合どうするんだ?中には普通に入って良いのよね。頭を下げたまま歩くって変よね?
実菜は緊張のあまり混乱していた。隣のリードを見る。リードは「どうした?」とでも言うように首を傾げている。
「ミナ、良い。普通で良いからもっと近くへ来てくれないか。それでは遠すぎて話が出来ん」
戸惑う実菜を見て笑いを堪えるような表情で陛下が口を開く。若干声が震えているのは気の所為か。
実菜は顔に熱が集中していくのを感じ、俯いたまま部屋の中央まで進み出た。
「聖女ミナ。此度の討伐での活躍、御苦労であったな。リリー嬢への付与の件も聞き及んでおる。そこで……」
陛下はそこで言葉を切ると隣に控えていた側近らしき人が持っていた小さなクッションの上に乗ったキラキラしている物を取り上げる。
「まだ正式に授与していなかったのでな。ここに聖女の証を授ける……もっと近う寄らんか」
実菜が恐る恐る陛下へ近づくと手にしている物がティアラだという事に気付く。少し頭を下げると陛下がティアラを乗せた。
「これでここに聖女ミナが誕生した。という事だ。念の為、言っておくがこの国において聖女は国王、つまり余と同等の地位を持つ事になる。言動には十分気を付けよ」
「身に余る……光栄です」
えらい事になったわ……。
と、そこにワゴンがカラカラと運ばれて来る。ワゴンの上には色んな色をした石がコロコロと20個くらいは乗っているように見える。実菜は嫌な予感がした。
「ミナ、リリー嬢への付与と同じものをこれらにしては貰えぬか?」
やっぱり。
疑問形で来てるけど……いくら陛下と地位が同等とは言え、これは断れないやつよね。
本当に……えらい事になったわ。
色とりどりの石を前に実菜はゴクリと喉を鳴らした。
「うへー」
研究室の机に突っ伏し、実菜は淑女らしからぬ声を出していた。
「あれだけの数の石に一度に付与なんてするからだよ」
リードが呆れた声を実菜の頭の上に落とすと、ふぅ、と息を吐く。
「だけど、あれは圧巻だったねぇ。お陰で陛下の目を剥いた顔を拝むなんて貴重な体験をさせてもらったけど」
実菜は今までに無い程の光りの玉を作り出し、それをそれぞれの石に込めたのだ。リードはそれを反芻し一人しみじみと頷いている。
「今日はもう帰りな。どちらにしても今日は何も出来ないでしょ」
そう言ってリードは突っ伏したままの実菜の頭をポンポンとした。
うー、早く終わらせようと一度にしたのはやっぱり少し調子に乗ったかしら。身体が凄く怠いわ。
実菜が帰ろうとした時、元気な声が研究室に飛び込んで来た。
「こんにちは〜!」
「デイジーは元気ね」
「実菜は元気なさそうね」
実菜はデイジーに先程の出来事を説明する。
「あははは。実菜は無鉄砲だなぁ〜」
「でも、浄化は結構な範囲でしても大丈夫だったわよ?」
「そりゃ、浄化と付与は違うもの。付与は…他の魔法もそうだけど、魔力を放出するだけでしょ?浄化は瘴気を自身に取り込んで浄化した瘴気を放出してるから、結果魔力自体は殆ど使って無いんだよ。でもこれをやるのは結構難しい事だから……つまり実菜は凄いって事!」
「ふぅ〜ん?分かったような、分からないような」
「えぇと、だから循環させる事で……まあ、実菜は無意識でやれてるから、結果凄いって事!」
デイジー……説明するの諦めたわね。私が理解力が無いのが悪いんだけど。
「デイジー、悪いけど実菜を部屋まで送って行ってくれないか?」
リードが苦い顔で近付いて来た。暗にうるさいから出て行けと言っているようだ。2人は大人しく研究室を後にし実菜の部屋へ向う。
「そうだ、デイジーの意見を聞きたいと思ってた事があるの」
部屋で2人分のお茶を淹れ、テーブルに置いたところで実菜が言う。「何?」とデイジーがティーカップに手を伸ばしながら視線は実菜に向けた。
「前に異世界人だから浄化が出来るって言ってたじゃない?聖女ジュアンも異世界人だったのかなぁって」
デイジーは黙ってカップに口を付けてお茶をすする。
「ジュアン様が犬に付けた名前がポチとかタマだったらしいし、住んでた村の伝統的な玩具がオトタマ?だっけ?だし」
「日本人だったかも〜、って?」
デイジーが口を開いた。実菜は「ん」と小さく頷く。
「日本人だったかどうかは置いといて、実菜は何に引っ掛かってるの?」
「分からないの。別に聖女が異世界人でも日本人でも良いと思うんだけど、でも何故か胸がギュッとなって苦しくなるの」
「ふぅ〜ん?私が、異世界人だから浄化が出来るのかもって言ったのは、常識が違うからって事なんだけどね。この国の人達は『魔法とはこういうもの』っていう常識があるでしょ?魔法の無い世界から来たら魔法で何が出来て、何が出来ない、どう使う、なんて知らないじゃない?結果、この国の人達とは違う魔法が使えちゃう。みたいな?」
うーん。なるほど?一理あるような、無いような。確かにデイジーは空を飛ぶとか、この国の人達が出来ない事も出来るみたいだけど。
「胸が苦しくなるのはそれとは違う理由みたいだわ。……それはそうと、ルルに例の物を渡した相手は分かったの?」
「それね〜。神父は新しい人に代わってたわ。何でも突然、それまで居た神父が居なくなったとか……やられたわ。単純に神父と覆面の男の犯行であれば逆に良いんだけど。もしかしたらまた実菜に頼る事になるかもしれないから一応言っておくんだけど、覆面の男として目星をつけていたのが、マンガス伯爵という男だったのだけど……その男も行方知れずなのよ」
ふぅ、とデイジーはこめかみを抑える。
何それ、嫌な予感しかしないんですけど。
「あ!そうだ!忘れてた。演習場の近くでリリー様に会ったんだ。学園の卒業式が近いからその関係で王宮に来たとか、何とか。それで実菜、また付与してあげる約束したの?」
「あ、うん。この間の指輪が壊れちゃったから」
デイジーは分かりやすく溜息をついた。
「今度は特別だって事、しっかり言っといた方が良いわよ。話を聞いた人達が押し寄せて来たらどうするの」
「それは、身をもって学びました。でも、指輪の件は元はと言えばデイジーの無茶振りなんですからね!」
デイジーは黙ってお茶を飲み干した。
毎日更新を目標にしてきたのですが、間に合わなくなってきてしまいました。
2〜3日に1話更新を目指したいと思います。
もしも毎日お読み頂いている方がいらしたらすみません><
それでもこれからもお付き合い頂けたら嬉しいです。
宜しくお願いします。
お読み頂き有難う御座いました。




