デイジーの過去
しばし時を戻しデイジー視点です。状況が分かりにくいかもしれませんが、宜しくお願いします><
サクサクと地面に落ちた小枝や葉を踏み鳴らしながら少年と少女は森を歩く。
「もう少しだよ。この先に開けた場所があるんだ」
少年が振り返り、満面の笑みを少女に向け声をかけた。嬉しそうな少年とは対照的に少女は憮然とした態度でただ頷くだけだった。
ただでさえ山なのに、こんな獣道を態々行くなんてこの先に何があるっていうのよ。
少女は少年と話をするのは好きだった。とは言っても少女が一方的に喋っているのを少年がただ笑顔で聞いているだけなのだが。少女はその少年が笑顔で頷く仕草が好きだったのだ。話の内容などどうでも良かった。
「ほらここだよ」
やっと目的の場所に着いたらしい。
「わあ!凄い」
ほら、と少年が指差す方を見て思わず少女が声を漏らす。そこには一面のお花畑があった。
「これ、どうしたの?育てたの?」
「違うよ。ここに咲いてるのを見つけたんだ」
少女の笑顔を見て少年の顔も綻ぶ。
「良かった。君が喜んでくれるかが心配だったんだ」
そう言うと少年は足元の白い花を摘んでブーケを作ると少女の手に持たせる。決して上手く出来たとは言えないそのブーケを手に少女は微笑んだ。
「有難う。雛菊ね、とても可愛い」
その少女の手を包むように少年が手を重ね、寂しそうな顔で少女の顔を覗き込む。
「どうしても明日帰っちゃうの?」
疎開でここに来たのだから、戦争が終われば帰りますよ。そんなの当たり前じゃない。
「私は大人に付いて行くことしか出来ないもの」
少女は素っ気ない返事を返すが、その少女の手をギュッと握り少年は真剣な顔で少女を見つめる。
「な、何よ」
あまり見ない少年の表情にドキドキしてしまった事を悟られまいと、少女はわざと不機嫌そうに言う。
「今は無理だけど大人になったら、会いに行くから!絶対会いに行く!!そしたら、そしたら僕と!け、け、結婚、して、くれる?!」
言った後でカーッと顔を赤くして、口を真一文字にする少年に釣られて少女も赤くなり恥ずかしくて俯いた。
何、何?!結婚?結婚って言った?いきなり結婚なの?!
「わ、私の会話についてこられるようになれたら、いいわよ!」
「約束だよ!!」
少女の返事に少年は嬉しそうにぎゅっと彼女を抱きしめる。
「ちょ、ちょっと、条件があるの忘れないでよ?!」
彼女は嬉しかったが信じてはいなかった、離れればすぐ忘れられてしまうだろうと思っていた。だが数年経つと本当に彼は彼女の元に会いに来た。
「やっと会いに来られた!」
開口一番そう言うと彼女を抱きしめる。
「条件があったでしょ!」
ここでも彼女は照れ隠しで素っ気なく返してしまう。
「僕は君の話を聞いているのが好きなんだ。来世では君の話に付いて行けるように頑張るから良いでしょ?!」
「……」
大人しかった彼は押しの強い青年へと成長していた。
晴れて2人は付き合う事になり、やがて彼女が妊娠する。それを聞いた彼は喜んだが、その後出掛けてくると行ったきり帰って来ることは無かった。彼の訃報が伝えられたのはその翌日の事だった。
****
デイジーは目を覚ますと、はぁ〜、と長い息を吐いて隣のベッドを窺う。実菜はもう起きているらしくベッドは空だった。
今更あんな夢を見るなんて、60年以上昔の事だよ?!やだ、もう!実菜が寝しなにあんな話させるからだよ!
デイジーは顔を両手で覆うと、夢を見ながら自分が泣いていたのが分かった。目尻がカピカピしている。
それにしても、とデイジーは思う。
何十年も経って、しかもこんな異世界であの人と再会することになるなんてねぇ。これも縁なんだろうねぇ。魂が同じってだけで、向こうは当たり前だけど全然私に気付いて無いし。いや、気付かなくて良いし、今の関係も悪く無いし。……悪く無い?
デイジーは瞬時に色々な可能性が頭に浮かびドキッとする。
うっゎあぁ!!何だ、ドキッて何だ自分!!幾つだと思ってるんだ!乙女か、乙女なのか?!いや、女性は死ぬまで乙女で良いとは思うけれども!!
デイジーは枕に熱の籠もった顔を埋め、布団の中で足をバタバタさせる。そこでふと視線に気付きそっと顔を上げるとメイドが扉の前に立っていた。デイジーと視線が合う直前に視線を反らす。
むう。見事だメイド。お主なかなかやりおるな。
「申し訳ありません。ノックは差し上げたのですがお返事が無かったものですから」
穴があったら入りたい。デイジーは思った。しかし穴は無いので仕方なくデイジーはメイドに返事を返す。
「有難う。呼びに来てくれたの?すぐ行きます」
と言ってからデイジーは思い直し、メイドに話しかけた。
「あなた、ちょっと良いかしら……」
支度をしたは良いが廊下を歩きながらデイジーは憂鬱な気分になっていた。
あんな夢を見た後で本人に会うのはなぁ、はぁ〜。
大広間の入口に来た所で中から自分の話をしている声が聞こえてきた。
「……ウチの婆ちゃんに似てて。怖いんですよ、ウチの婆ちゃん」
トイの奴。あんたの婆ちゃんになった覚えはないよ。
「そうそう。7歳も年下なのに、あの威圧感?ていうの?めちゃくちゃな言動なクセに正論かもしれないと思わせる謎の説得力があるし、異論があるとコテンパンに言い負かすし、兎に角1つ言える事は……」
ジョンの奴まで。ひよっ子とは経験値が違うんだよ。経験値が!
「「怖い!」」
ふふっ。上等じゃないか。しかし、だいぶ気持ちは落ち着いた。この2人もたまには役に立つんだねぇ〜。
いつもの調子でデイジーが2人に声をかけてみる。
「……何が怖いの?」
「「だから、デイジーさんが!!」」
言ってジョンとトイがこちらを振り返る。この世の終わりの様な顔だ。
コイツ等本当に私を何だと思ってんだ?!
「デイジー、遅かったね。早くしないと時間が無くなるよ?」
そこにセシルが声をかけてくる。デイジーの心臓が跳ね上がり顔に熱が集中した。ジョン、トイ効果はここまでだったようだ。
「あれ?デイジー、体調悪い?顔が赤いけど」
セシル。こんな時ばっかり気づかないでくれよ。いつもそんな細かい事気づかないじゃないのさ。
「本当?!ごめんなさい!昨夜遅くまで私が喋ってたから!風邪引いちゃった?」
実菜!反応しなくて良いから、お構いなく!余計意識しちゃうから!
「いやいや、違うから、大丈夫だから気にしないで!」
デイジーは今朝の夢が尾を引いていることを嫌でも自覚した。
「デイジー、何かあったの?」
屋敷を出発したのは覚えている。しかし今いる所は最後の領地だ。私、そんなに魂抜けてた?!
「ごめん、考え事してた」
心底心配そうな実菜を前にデイジーは愕然とした。
民家へ到着したが、デイジーは若干フラフラしながら皆の後に付いて行く。
こんなにダメージが大きいなんて想定外だわ。確かにあの後流産する程絶望した事まで思い出しちゃったからなぁ〜、大きくて当然か。
「……魔物に出くわしてしまいまして、でもかすり傷を負った程度だったので大丈夫だと思っていたら毒を持っていたようで、途中で倒れてしまった所をこちらのケリーに助けて頂きました」
ベッド上で話す彼とケリーが見つめ合い、目の前で生暖かい空気を出していてお互いが想い合っているのが伝わる。
こんな風に気持ちを素直に出せてたら、あの人との時間をもっと大事に出来てたら、もしかしたら、後悔だけは無かったかもしれない。
デイジーは目頭が熱くなるのを必死に堪えた。
どちらにしても、もう遠い昔の事よ。
ロイが何か申し出てるけど、折角ビリーの意識がはっきりしたんだから帰るのはもう少し仲を深めてからでも良いんじゃないかしら。
デイジーは思わず口を出していた。
「別に今日の今日で無くても良いんじゃないかしら。魔物なら暫くは出ないだろうし、何ならシシーさん達に迎えに来てもらった方が良いんじゃない?ビリーもきっとちゃんと挨拶したいだろうし?」
これ以上ここに居るのは無粋というものだろう。流石のロイも帰る選択をしたようだ。
「あら、可愛い」
門を出た所で実菜が呟いた。見ると懐かしい花が目に入る。
なんで今日なんだ。何かのお導きか?
「……雛菊だね。この国にもあるんだねぇ」
高鳴る鼓動を抑えて敢えて和名を口にする。実菜は微妙な顔をしたから疑問に感じたのだろうが、飲み込んでくれたようだ。
取り敢えず今日のところはここから離れたい。
しかしデイジーの心とは裏腹にセシルは花に興味を持ったらしく花の前にしゃがみ込む。
こんな時に限って何故に花に興味を持つのよー。
しゃがみ込んだセシルは黙って白い雛菊をプチプチと摘み取っている。
……何で白色?たまたま、よね?
デイジーの心臓が騒ぎ始めた。
気付くと目の前にセシルが立っていて、デイジーの瞳を真っ直ぐ見つめている。そして何かをデイジーに握らせる。
白い雛菊のブーケ……。
「僕と結婚してくれる?」
何で、あの人とは違う人生を歩んで来たはずの貴方が、あの人と同じ事を?これも偶々なの?セシルとして生きて、今の姿の私を好きになって、プロポーズしてるの?
「……なんで貴方がそんなこと言うのよ?」
思わず溢れた言葉にセシルの瞳が揺れる。その姿にあの人が重なった。
ああ、そうじゃ無い。
「遅いよ」
ああ、これも違うか。こんな事言われても何も伝わらないわ。
「ごめん。ちょっと崖から落ちちゃって。あの日雨降ってたでしょ?滑って落ちちゃったんだよ。……僕は君の話に付いて行けてる?」
最後の言葉は苦い顔になった。しかしセシルの言葉にデイジーが見開く。
いつかの花畑は崖の上にあった。あの日、態々そこに花を取りに行っていたらしい彼はそこから落ちてしまったのだ。
「ど、して…、いつから?分かっていたの?」
「君と初めて会った頃から同じ様な夢を見るようになったんだ。最初は覚えてないくらいだったのに、だんだん鮮明になってきて、夢の中に君じゃ無い君と僕じゃ無い僕が出て来た。夢の中で2人は恋人だった。君の事、好きになってたからそんな夢見たのかと思ったけど、この花を見たら思い出した」
「何であんな所に、花取りに、行ったのよ。花屋で良いじゃない」
ポロポロとデイジーの瞳から涙が溢れる。セシルがデイジーを引き寄せ、ギュッと抱きしめた。
「ごめん、どうしてもあそこの花でもう一度ちゃんとプロポーズしたかったんだ」
「男って、どうして無駄にロマンチストなのよ」
デイジーもセシルの背中に腕を回しギュッとするとセシルの幾分速い鼓動が聞こえた。
「だから、ごめんって」
「来世では私の話に付いてこられるように頑張るって言ったわよね?」
「……だから、ごめんって」
「答えになってない」
お読み頂き有難う御座いました。




