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あなたの名前は?

「思い出して頂けました?」



唸り声は溜息に変わっていた。

はあぁぁぁぁ〜っ。と肺の中の空気を出し切ったのではないかというところでクリスフォードから申し訳無さ気に声を掛けられる。



「はい。しっかりと」

覚悟を決め、ゆっくりと顔を上げると彼の人懐こい瞳と目が合った。



「……で?聖女云々は置いておいて、もしかして不敬罪、とかなんとかで私、罰されちゃったりするのかしら?」


大分スッキリした今なら、かなり大変な事を仕出かしたと十分理解出来る。なにせあの時のあの少年は殿下。つまりこの国の王子に暴力を振るったと……。

あ、脇汗が!


「だけど!私の名誉の為に言わせて貰うと、普段は暴言なんて吐かないですからね!あれはちょっと、日本で、あ、いや、母国?で激務が続いて寝てなかったから、普通じゃ無かったというか…」


「まぁ、そうだろうな。っていう顔してたよね。今はかなり肌艶が良くなって別人みたいだし。

聖女を置かれちゃうと困るんだけど……殿下の事なら大丈夫。何せいつもあの感じだから、、あ、そうそう、この国の法律では国王陛下と聖女様は位を対等とする。としてあるから、むしろ陛下が謝罪に来たいって言ってたよ?」


それはそれで対応に困ります。て言うか、陛下はこの事をご存知なのですね。当たり前か。


「貴女の意思を無視してるところは耳が痛いところだし、こっちもいつも言えない様な事を言ってもらってスッキリしたし、特に頭カラッポの脳足りん?とクソガキ?ってとこね」


セシルはひひっと笑ってウィンクした。


「まぁ、話進まないから陛下からの謝罪は後にしてもらうとして、先ずはこの国の状況から説明させてもらうね」


「お願いします」


この人、イイ性格してるわ……。




***


ドラゴニアン王国は建国1009年。

建国当初は瘴気という魔物から出る、人体に悪影響を与える気にまみれていた。

その魔物達を退治してくれた人が初代国王となったが、それでも魔物は全滅したわけではなく、常に一定数存在しており、その都度魔物退治が行われてきた。

ドラゴ暦500年。どういうわけか魔物が大量発生し、瘴気が国全体を覆う様になり草木は枯れ、作物は育たず家畜は瘴気により魔物へと変形し、人々は餓え、王国は窮地に陥る。

そこへ一人の少女が現れ一瞬にして広範囲の瘴気を消し去り、瞬く間に国土を浄化させた。

時の国王は彼女に「聖女」の称号を与え、王宮にその地位を据えた。その後、魔物の発生は激減し緑豊かな国土を取り戻した。


しかしドラゴ暦980年を過ぎた辺りからまたも魔物が発生する様になる。暦500年の時代であれば比べ物にならない程少ない魔物量だが、大きな戦もなく平和に過ごして来たこの国の戦闘力もまた微力であり、その頃と変わらず窮地に立たされている。




***

「ここまでがザックリとしたこの国の歴史」


クリスフォードは小一時間話して喉が渇いたのか、メイドが淹れたお茶で喉を潤してから口を開いた。


「現状、魔物と瘴気でいえば其れこそ500年前なら問題無いレベルなんだよ、問題は国民の能力の方」


「能力?」


「昔は国民の殆どの者が当たり前に魔力を持っていて、簡単な結界位なら作れる者も少なくなかったらしい。だからたとえ農夫であっても一人で数十匹の魔物に対抗出来た。と、聞いている。今は魔力を持っている者自体が国民の半数以下」


更にその半数以上が生活魔法しか使えないし、と言いながら茶菓子のクッキーをモグモグする。


「生活魔法?」


「コンロに火を着けるとか、風呂に水を張ってそれを温めてお湯にする、とか。

だから平民の女性で生活魔法使えると求婚が殺到するとか、しないとか」


どっちよ!

…まぁ、燃料代かからないものね。納得だわ。

そもそもガスとか電気あるのかな?薪か?


でも、なるほど。それだと確かに物理攻撃のみで魔物と対峙するしかないですね。女性、子供だと厳しいな。


「んで、瘴気も生活圏にまで広がり始めちゃってさ。最初の頃は人があまり行かない様な森くらいだったのにね。」


ゴクッ、とお茶でクッキーを流し込んでからまたクッキーに手を伸ばす。


まだ食うんかい!


「もちろん我々魔導師団と王宮騎士団で討伐して回ってるよ。でもね、きりがないんだよ。」


モグモグしながら器用に話すクリスフォード。


「最初から魔物として存在してるヤツもいるんだけど、後天的に魔物化するヤツもいる。

魔物を倒すとね、瘴気が発生するんだ。その瘴気を普通の動物とか、例えば家畜ね、がそれを吸い込むかなんかすると、魔物に変形してしまう。これの繰り返し。魔物が先か瘴気が先か、どちらにしても両方同時に無くさない限りこの負のループは無くならい。」


ゴクンとクッキーを飲み込んで、彼の雰囲気が変わる。


「我々では瘴気を浄化することが出来ない」


と言ったところで彼の真剣な瞳が私を見つめる。


これが本題か。



『―――少女が―――瘴気を消し去り―――浄化した』



私に求められているのはそういうことね。

そこでふと思い出してしまった。


私、何も出来ませんけど?


勝手に呼び出されたとはいえ使い物にならないと分かったらどうなるのだろう。流石に処刑……は無いとは思うけど、知り合いも居ないこの世界で放り出されたら!

急に恐ろしくなってきた。

そうよ、日本でだって特にこれと言って特技があった訳じゃ無いし、寧ろ人の陰に隠れて出来るだけ波風立てないように生きて来た地味女子だよ?

もし用無しで放り出されそうになったら、どうしよう!でも、そうね、せめて職場を紹介して貰って、私に出来る仕事がこの国あるかしら、あとはこの国の常識?とかも教えて貰えるように交渉して……



「どうしたの?急に顔色が悪くなったけど、まだ本調子じゃない?」



妄想が激走して、魂が抜けかけていたらしい。彼が心配そうに覗き込んで来た。


「何でもないです!大丈夫です!」


慌てて顔の前で両手を振る。美人の急なアップは心臓に悪いです。青くなったり赤くなったり大変なんですよ。


でも、どうしよう。魔法が使えないとは伝えた筈だけど何かしら期待させてたら申し訳ないし、ここは念を押しておくべきよね?



「あの、クリスフォード様?私、浄化どころか、魔法も使えないですよ?」


「セシルで良いよ。様もいらない。

うん。まぁ、じゃ、確認してみよっか」


恐る恐るセシルを伺うと、ニッコリ笑顔が返って来た。そしてソファーから立ち上がると、あ、と呟き私に向き直り胸に手をあてた。




「そういえば貴女の御名前は?」



あ、そういえば言って無かったわ。聞かれなかったし。

読んで下さって有難う御座いました。

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