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聖女として召喚されたので、期待に応えてみた結果  作者: 珠音


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セシル再び悶々とする

結局デイジーが領主の屋敷まで飛んで行き、空の馬車で戻って来てそれにウォルを乗せる。という方法を取った。


ガラガラとゆっくり走る馬車の後ろをゾロゾロと討伐隊が歩く。瘴気は無くなったが畑は黒いままだ。


「領地の畑も浄化した方が良いんでしょ?後は具合の悪い人達とかも」


先頭で隣を歩くセシルに実菜が問い掛ける。


「そうだね、実菜はもうひと仕事してもらうことになる。悪いね」


何処か上の空でセシルが返事をする。この雰囲気の彼を以前見た事がある。実菜はチラリと後ろの様子を窺うと、列の最後尾でロイとデイジーが会話をしている姿が見えた。

そんなセシルが少し気になったが屋敷に着いてしまい、伯爵が上機嫌で討伐隊を迎えたことで話し掛けるきっかけを失ってしまった。


「驚きましたよ!黒い空がこう、サーッと消えていって!こんなに青空が嬉しいと感じた事はありません!」


身振り手振りを混じえ話す伯爵の興奮は未だ冷めていないようだ。


「伯爵、聖女を休ませてあげたいのですが部屋の準備をお願い出来ますか?」

「へ?デイジー、私大丈夫よ?」

「あれだけの力をいきなり使って疲れない訳無いでしょう?自分の身体の事よ?またおかしくさせたいの?」


直ぐに部屋とお風呂の準備がされ、デイジーに押し込まれる様にベッドに横になり「まだ日も暮れて無いのに」等と思っていたが、気が付くと次の日の朝になっていた。


「嘘でしょう?!」


本当に疲れていたのね。分からなかったわ。流石デイジーと言わざるを得ない。そしてそのデイジーはというと、もう起きて部屋から居なくなっていた。


支度をして部屋を出てみる。応接室を覗くとセシルが1人でお茶を飲んでいた。


「セシル、私もご一緒しても良いかしら」

「ああ、勿論。今日は1日皆自由に過ごしてもらってるから、ミナも自由にして。明日ミナには浄化の仕事をしてもらうことになるけど」


セシルは笑顔で正面のソファーへ座るよう実菜を促す。そこへメイドが入って来た。


「まあ、聖女様。申し訳御座いません!お目覚めでしたのですね。お食事はどうされますか」


実菜は食事は断りお茶をお願いした。メイドが実菜にお茶を淹れ、部屋を出ると入れ替わるように伯爵が入って来た。ポチとタマもトタトタと後に続く。


「おはよう御座います、聖女様。少し失礼しますよ」

伯爵はそう言うと、一人掛けのソファーに腰を掛ける。


「昨日は有難う御座いました。聖女様が浄化して下さったお陰で今日も青空ですよ。いやぁ、それにしても話に聞いていた伝説を目の当たりにする事が出来て私も嬉しいです」


「伝説?」


「500年前にもこの領地は黒い雲に覆われましてね、それをどこからか現れた聖女が一瞬で払ったと、この領地の者は子供の頃からその話を聞いて育ちます。聖女様のお陰で生きて来られているのだと。私も含め領民達は今回の事で更にその気持ちは強くなるでしょう」


「そ、そうですか」


実菜は気恥ずかしくなり視線を下げると伯爵の足元にいるポチとタマのつぶらな瞳がこちらを見ているのに気付いた。


「そう言えばポチとタマという名前ですけど、伯爵がお付けになったのですか?」


「きっと王都では珍しい響きですよね。実はそれも500年前の聖女ジュアン様が関係しております」


「ジュアン様……ですか」


「はい。ジュアン様がこの地を浄化した後、当時の当主が生まれたばかりの飼い犬の名付け親をお願いしたのが始まりのようです。その後この近くの村に定住されたそうで、領民達の間でジュアン様に名付け親になって頂くというのが流行ったようですね。今ではポチ、タマ、ミケという名前辺りがこの領地の定番ですかね」


「定住、ということはご出身はどちらだったのですか?」


「出身は、王都だと伝えられていますね」


500年前の聖女はこの国の人だったのに浄化が出来たって事よね。珍しくデイジーの考えが見当違いだった、という事よね。やたらと日本人寄りのネーミングセンスだけど偶然だという事よね。

だけと何だろう、先程から動悸が激しい。


「師団長様、聖女様、お話し中申し訳御座いません。リーノ様、お時間ですが」


その時執事のセバスが伯爵に声を掛ける。


「ああ、そうか。すみません、私は出掛けなければならないのですが、師団長、聖女様、今日はゆっくりして下さい」


そう言って伯爵は屋敷を出て行く。領地を見て回るのだそうだ。



「そうだ。デイジーは何処へ行ったか知ってる?朝起きたらもう居なかったんだけど」


「昨日の森の様子を見に行った。その後、ここの領地の近くの集落、さっき話に出てた聖女ジョアンが住んでた村。今は村じゃないけど…その様子も見に行くって……ロイと出掛けた」


「2人で?セシルは留守番?」


珍しい。セシルとデイジーは2人でワンセットな気がしてたわ。


「置いていかれたんだよ」


セシルは長い脚を組むと、そこに頬杖をついて口を尖らせたが、直ぐにふう、とその顔に影を落とす。


この応接室は庭に面しており、窓から外に出られるように出来ている。つまり中から外が良く見える、またその逆も然り。セシルは気付いているだろうか、メイド達が入れ代わり立ち代わりで無駄に庭を歩いている事を。お茶のおかわりを淹れに来ている事を。忘れがちだがセシルはお顔が良い。スタイルも良い。そのセシルが憂いを帯びた雰囲気で無駄に色気を振りまいている。


「セシル、この屋敷のメイドを全員落とす気ですか?」


「はい?」


やはり無自覚だったセシルは伏せていた目蓋を上げると「あのさ」と切り出す。


「最近デイジーがロイと2人で出掛けたりしてるみたいなんだ、よく内緒話してるし」


「……えぇと、それで?」


「それだけ」


そう言って再び頬杖をつく。


「んーと、それはセシルはデイジーの事が好きで今の状態は嫉妬している。という解釈で良いのかしら?」


「ん?!」セシルは目を丸くする。


「……以前セシルは私の事を鈍感だと言っていた気がするのだけど?」


んー?とセシルは考え込む仕草をすると徐ろに顔を上げた。


「確かにデイジーの事は好きなんだけど、最近夢を見るんだ。だから余計に気になるというか…」


好きなのは認めるんだ。しかもサラッと。


「デイジーの夢ってこと?」


「……分からない。不思議な夢なんだ」


「分からないんかい!何でそれで気になるのよ」


「んー、何となく?」と眉を顰め首を傾げる。


夢に出てくるほど好きって事?それは立派な恋なのでは?!聞いててこっちが恥ずかしくなるわ。


「取り敢えず、2人を追いかけましょう」


「え?追いかける?」


ここでセシルが悶々としているとメイド達が恋をしてしまうわ。

実菜は無理矢理セシルを外に連れ出す事にした。


厩に行くとトイとジョンが馬の世話をしている。


「あれ?馬が1頭多くないか?」


セシルの言葉に2人が「「えっ?」」と馬を数える。


「師団長、何言ってるんですか合ってますよ。馬車1台を帰したじゃないですか、それと一緒に2頭帰して4頭になって。で、副師団長が1頭使っているから3頭」


確かに厩には3頭繋がれているわね。


「デイジーは?」

「デイジーさんは馬に乗れないじゃないですか。だから副師団長が乗せて行きました」

「……」


セシルは無言で実菜を振り返る。


「えぇと、何?私も1人では乗れないわよ?」

「いや、そうじゃ……うん、僕が乗せていくよ。1頭借りる」


ジョンにそう言うと、先に実菜をサクッと馬に乗せ実菜の後ろにセシルも飛び乗る。


よく考えるとこの体勢は密着具合が結構恥ずかしいわね。相手はセシルなのに無駄に照れるわ。


「あ、ねぇ、そういえば馬車が帰ったって言ってたけど」


無言でいることが恥ずかしくなり門を出た辺りで実菜が話題を振る。


「あ、そうか、実菜は昨夜のミーティング居なかったんだね。実はウォルを先に王都の教会に送ったんだ」


「そうだったんだ。でもあれはどういう状態だったんだろ。普通の人だったのよね?」


「どうやらあれが寄生虫が完全に根を張った状態らしいよ?デイジーとロイはそれについて2人で調べていたらしんだ」


「え!じゃあ、2人で出かけてたのはそういう事じゃない」


「そうなんだけど、2人だけでさ。僕、師団長なのに。今日だって馬に二人乗りで…」


「そんなにショックだったの?……一応言っておくと、今私と二人乗りしてるんだけど?」


「あ、あぁ、ごめん!いや、んー、ショックを受けた事にショックを受けてる?のかな」


「重症ですね」


「僕は家柄と魔力だけで師団長になったようなものだし、ロイは頭も良いしデイジーがロイを頼るのは分かるよ、でも2人がもしこのまま結婚なんてしたら…見てられないかも……デイジー!!」


突然セシルが実菜を後ろから抱きしめる。


「ちょ、ちょっと?!セシル!私は実菜よ!デイジーじゃないわよ!!」


流石に腕の力は抜いてくれたがセシルは脱力して完全に実菜に寄り掛かっている。何だかスンスン言ってるし。


私も一応女性なんですけどねぇ。恥ずかしいのは私だけ?セシルったら自分が今している事がどういう事か分かっているのかしら。

しかし、結婚って!話が飛び過ぎじゃない?ああ、でもこの国だとそうなのかしら?

もう!仕方無いわねぇ、セシルがそんなコンプレックス抱えているなんて知らなかったし、重いけど我慢するか……って。


「セシル!馬の操縦してる?!放棄してない?!」


だらんと両腕を垂らして実菜に寄り掛かっているセシルが操縦している訳無いのだが、賢いお馬さんは馬上の騒ぎに我関せずといった感じでパカパカと歩いて行く。が、左右に別れる分岐点に来てしまい、流石のお馬さんも指示が出ないことを訝しむように微かに首を傾げる。


「セシル。これどっちに行けば良いの?」

「右だよ」


やっと復活したのか実菜の背中が急に軽くなると、お馬さんが再び安心したように歩き出す。

暫くすると緑が深くなって森が現れた。


「この森を抜けた所がその集落だよ。2人も時間的にこちらに来ていると思うけど……ミナ、今日の事誰にも言わないでね?」


「言えないわよ。あ、あの馬、2人が乗って来た馬じゃない?」


森に入ると先の方に馬が1頭、木に繋がれているのが目に入る。


「あそこはまだ集落じゃなくて湖だったと思ったけど、何してるんだ?」


森の木々に阻まれて良く見えないが近付くと確かに湖があり、その畔にデイジーとロイが佇んでいるのが見えて来た。ロイがデイジーに詰め寄っているようにも見える。


知らず、セシルは馬を飛び降り駆け出していた。

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