黒い森にいた者
かなり表現は抑えていますが気持ち悪いものが出てきます。読まれている方で想像力が豊かな方はお気を付け下さい。
宜しくお願いします。
「バシィィィンッ!!」
襲い掛かってきた者が弾かれ、衝撃音が鳴る。デイジーがセシルの前に滑り込んで結界を張ったのだろう。
「セシル、しっかりして!こいつはウォルではないよ。ウォルだった者だ」
「ウォル……だった?」
デイジーの言葉にセシルは信じられないといった声を出す。ジョンとトイも目の前の光景に完全に固まってしまっている。
ウォル?いつか言ってた問題があるって人?でもこれが?目の前にいるのは、どう見ても……。
皮膚は紫色で所々黒い。目はギョロギョロと忙しなく動き、着ている服もスボンも破れている。どう見てもゾンビだった。
そのゾンビはウガァッ!と唸りながら結界を叩き続けている。
「くっ!強い?!」苦しげな声で言うとデイジーは左手を前に出し、結界を支える様な姿勢を取る。珍しく余裕の無いデイジーの様子を見て、実菜は身体に湧き上がる何かを感じていた。
「セシル!!皆を下げさせて!」
デイジーの声でセシルは我に返り、その場から距離を取りつつ近付いて来る魔物を攻撃する。敵は目の前のゾンビだけでは無い。実菜をセシルと師団員達で挟む形でジリジリと後退して行く。
ああ、本当にごめんなさい!私、足手まといになってる!自分で付いて行くって言ったのに!!
でも、何か私にも出来る事がある筈。だって私には力があるんだもの。ここに。
……ここに?
実菜は自身の手に目を落とした。
浄化の事?うーん、もっと違う事が出来た筈。知っているのに思い出せない。何かしら、頭に靄が掛かっているようなこの気持ち悪い感じ。
「ミナ、出来ればアレを浄化してみて欲しいんだけど、結界を張った状態だろ?犬の時は弱い結界だったから出来たけど、アレは強い結界で抑えている。もしかしたら浄化の光が弾かれるかもしれない。でもこのままだとデイジーが魔力切れを起こしてお終いだ。無駄になるかもしれないが、試してみてくれないか?まぁ、駄目だったら僕が打ちのめすけどね。……アレはアレで、ウォルじゃないし」
最後の言葉は自分に言い聞かせるように言うと、セシルは視線をゾンビに向ける。つられて実菜もそちらを向く。そこには変わらずゾンビを抑えているデイジーがいるが、デイジーが動きを見せた。
「ダアッ!!」という声と共に、何かを放り出す様な仕草をするとゾンビが吹っ飛び、大きな木の幹に叩き付けられる。その瞬間ゾンビの身体に無数の矢の様な物がダダダダッと刺さり、ゾンビの身体が木に貼り付けられる。
「はあっ、はぁっ、はぁっ、はーっ!」とデイジーは肩で大きく息をする。
「頭も心臓も撃ち抜いたのに!何で死なないのよ」
それでも尚、ゾンビは何事か呻いている。
「マ、オウ、サマイッタ、ココイル、セ、イジョ、クル」
「まおう?魔王という事か?」
呻き声に混じる言葉を理解し、セシルが呟く。
眉間を撃ち抜かれているというのに目玉をギョロギョロさせながら呻き続ける。
「セ、イ、ジョ、コロ、セ、セイ、ジョ」
2つの目玉がギョロリと実菜を捉えた。
「コロ、セ、コ、ロス、コロス、コロスー!!」
「「しまった!!」」
セシルとデイジーが反応したがゾンビの動きの方が早かった。ゾンビの身体から赤黒く太い、触手の様な物が腕や胴、脚から身体を突き破るように無数に飛び出す。その触手は周囲の木々をバキバキと突き破りながら実菜に向かってくる。
「ファイアーボール!」
セシルが叫び炎の球を幾つも放ち触手を焼くが、触手は直ぐに再生し伸びてくる。デイジーも切り刻んだりしているが、同じだ触手は再生し続ける。
「本体は何処なのよ。きりがないわ」
デイジーが呟く。きりがないと思ったのは触手の方も同じだったのか、標的をセシルとデイジーに切り替えたようだ。一斉に2人に触手が向かう。
「ぐっ!」焼き払い損ねた触手がセシルの腕を掠め、セシルが顔を顰める。ローブが破れ、濃紺のローブのその部分が濡れた様に濃くなる。
「セシル!」
一瞬気を反らしたデイジーに新たな触手が迫る。
「危ないっ!!」
思わず実菜はその触手に向けて手を伸ばした。
「パシュンッ」
「?!」
伸ばした実菜のその手から光線の様なものが発され、触手に当たる。それが当たった触手は再生出来ないのか、ジュウジュウと縮こまっていく。
実菜を守っていたジョンとトイが思わず実菜から一歩後退った。
な、何か出た……。
実菜はじっと手を見る。
いや、呆けてる場合じゃないわ!今の感覚を忘れない内に!
実菜は視界に入る触手に片っ端からパシュパシュと光線を浴びせていく。
「実菜!本体に!身体に当てて!!」
デイジーのその言葉に実菜はゾンビ目掛けて何発も光線を撃ち込む。
あは、何か楽し〜い。
実菜はランナーズハイの様になっていた。
「不味い。駄目だこの子、暴走してる。セシル!!止めてあげて!」
「はいはい」
セシルもそのつもりだったのか、パシッと実菜の手を掴むと彼女の顔を覗き込んだ。
「聖女様。もう十分かと」
セシルに言われ、実菜は我に返るとカクンと膝から崩れ土の上に膝を着く。
あれ?脚に力が入らない。あ、やっぱり師団服は黒色にして正解だったわ。泥汚れは白だと目立つものね。
「自分の限界は知っておこうね〜」
そう言ってセシルは胸ポケットから回復薬を取り出し実菜に手渡す。どうやらまた魔力切れを起こしたらしい。本日2本目の回復薬をコクコクと飲み干すと、直ぐに立ち上がる事が出来た。
「回復薬って凄いですね」
「そういうの自画自賛て言うんじゃない?」
「それよりセシル。こんなのんびりしていて大丈夫なの?それに腕の怪我は?!」
「うん。君がアチコチ浄化の光を飛ばしてくれたからすっかり治ったよ。浄化と治癒をしながら飛んでく光りをあれだけ放つって本当に凄いね。アレも動かなくなったし、魔物も一匹残らず居なくなったんじゃない?」
そう言ってセシルはアレが貼り付けられている木を指差す。そこではデイジーが木からアレを降ろしていた。動かなくなったということで恐る恐る近付いてみる。
「実菜の力は凄いね〜。外見が人間に戻ったよ」
デイジーの言う通り紫色になっていた皮膚が元に戻り人間らしい姿、ウォルになっていた。
「でもどうする?念の為火葬にした方が良いと思うんだけど、この国って土葬?」
「ああ、一応ね。感染病で亡くなった遺体以外を焼く時は教会の許可がいる。取り敢えずロイと相談するか」
そう言うとセシルは落ちていた枝で横たわっているウォルを囲む様に円を描くと、手を翳し呪文を唱える。すると円が光りウォルを乗せて宙に浮く。そのまま森の外まで行くようだ。
「ねぇ、私とデイジーの魔法ってこの国の魔法と何か違わない?」
森を出るまでの道すがら、デイジーにコソッと問う。
「うん。多分違うよね。勿論この国のやり方でも出来るけど。異世界の人間だからかもね、理屈は分からないけど。だからこの国の魔法使いでは浄化出来ないのかもよ?」
「異世界人だから……」
あれ?何かしら、何か引っかかるわね。
その時、森の外の景色が広がる。戻って来れたようだ。森の中に居た時は分からなかったが空が真っ青に見える。すっかり瘴気は消えたようだった。
「師団長?!何ですそれは?ウォル??何があったんですか。瘴気が晴れたから上手く行ったのだとは思いますが」
「取り敢えずコイツを放置されてた馬車で運ぶ。話はその後」
とセシルは馬車の方へ行く。それにロイが付いて行った。
「ねぇ、あの馬車、馬いなくなってたわよね?」
「どうしてもあれで運びたいなら私も手伝うけど、私が屋敷に飛んで行って馬車を連れてくる方が早そうね」
苦い顔で実菜の疑問にデイジーが答えた。
お読み頂き有難う御座いました。




