師団員騒ぐ
実菜は目の前の2着の団服に瞬いていた。デザインはよく見る団服と変わらない。のたが、生地の色が白色と黒色で作られていた。その隣には同じ生地で作られたであろう2着のローブが置かれている。
「どっちが良い?!」
セシルが「どうだ!!」と言わんばかりの得意顔で問うてくるが、相変わらず理由が良く分からない。
実菜は今、討伐の打ち合わせ、という名目で第一魔導師団の師団員執務室を訪れていた。
室内の中央の机の上に団服とローブが置かれ、それを取り囲む様にデイジー含む師団員達がわらわらとしており、その輪を掻き分ける様に中に連れて来られ、それらを目の前にしている。という状況である。
「えぇと、どっちが、と言いますと?」
「実菜の師団服!白か黒かで意見が別れててさ。本人に決めて貰おうって事になったの」
デイジーが両方の団服を持ち上げ、楽しそうに説明してくれるが、普通は決めてから作らないか?!ローブの背中部分にはデカデカと国旗の刺繍まで入っている。相当な労力だとみられた。
「やっぱり聖女様は白色でしょ?!白一択しかないって!!」
「何を言ってるんだ?いつも白色だから黒色が良いんだろ?!それに聖女様の色は黒なんだから!!」
師団員達も各々意見を持っているようだ。決してセシルの思い付きでは無い。という事は分かった。
分かったけど……
実菜は眉を顰める。こういう、どうでも良いようなイザコザでも実菜は苦手だった。「こちらを選べはあちらは立たぬ」と言う事だ。
『さあ、どっちだ』と言わんばかりの師団員達を前に、実菜は選択を迫られる。
「白色は聖女らしくて、公の場には良いと思います……」
白色派の者達が目を輝かせた。
「ですが、討伐など外に出向く時には黒色が良いかと思います……」
黒色派の者達がうんうんと頷く。
「ですので、用途によってどちらかを着用する、という事で、2着とも採用にしたいと思います!」
実菜は宣言するかの様に声を上げた。悩んだ末、出した答えだ。実際どちらも捨てがたい、と感じたのだ。
「バランスが取れてて良いと思うよ」
デイジーが実菜に賛同してくれる。賛同理由が良く分からないが。
「じゃあ、2着採用で決定〜!!取り敢えず今回は討伐だから黒色の方ね」
セシルの鶴の一声で決定すると、輪を作っていた師団員達から拍手が上がる。それを横目にデイジーがサクサク団服を箱にしまい、実菜に手渡す。
ん?待って、今、2着ずつ箱に入ってなかったか?替え用も作っていたの?もしかして、最初から両方とも決定してたんじゃないの?
デイジーにジト目を向けると「大丈夫だよ〜、運ぶの手伝うから!」と返ってくる。そういうことじゃない!と思ったが、団服4セットとローブ2着。結構な量である。
「じゃ、送って来るね〜」
「え、打ち合わせは?」
「実菜は言った通りに動いてくれれば大丈夫だから特に無し!」
もしかして、団服取りに来ただけ??
そう言う間にもデイジーはスタスタ歩き出す。仕方ないので実菜もその後に続く。回りに居た師団員達が「聖女様、討伐宜しくお願いします」とか「自分、一緒に行きます」とか、その他諸々声を掛けてくれるので、実菜は執務室を出るまでずっとペコペコしていた。
ふぅ。廊下に出ると思わず溜息が出た。
「あはは。実菜は人気者だから〜。皆、話がしたいんだよ。討伐期間は覚悟しといた方が良いね〜」
「デイジー、他人事だと思って」
「収拾がつかない時には助けに行くから安心して」
……私達、魔物討伐に行くんですよね?魔物、連れて行くんですか?
****
―――――魔物討伐出発当日の朝。
王都の北方にアガギア山脈という険しい山があり、その麓にアガギア高原と呼ばれる領地がある。今回はそこに向かう。何も無ければ馬車で1日で到着する。ということだ。
出発は裏門から出る決まりが有るらしく、そこに馬車が3台と馬が4頭、用意されている。皆もそこに集合しているのだが……
「俺が先に馬車だ!」「いや、お前いつもじゃないか!」「たまにはおれだろ?!」
揉めてる……
馬車を挟んで前後に2頭の馬を置くらしいのだか、残った1人は馬車に乗る。彼等は誰が最初に馬車に乗るのか揉めているらしい。
それなら先に疲れる馬に乗ってた方が良くないか?
実菜がひとり首を傾げていると、頭の上を盛大な溜息が師団員達に向かって通過して行った。
「馬鹿者が!!馬車は女性と男性で分ける。余った奴は私と師団長と乗るんだ!」
ロイの怒号に師団員達はぶうぶう言いながらも、今度は大人しく誰がどうするか決めていた。
「すみません。魔導師団は女性が居ないので、はしゃいでしまって」
ロイの言葉にデイジーは目を剥いて口を開きかけたが、その前にロイはふいっと何処かへ消えて行く。
上手く逃げましたね。それより、そういう打ち合わせはしていなかったのですね。
何とか落ち着き、やっと出発する。パカパカと先に2頭が行くとセシル達の馬車、実菜とデイジーの馬車、荷物用の馬車、そして最後にまた2頭が行く。結構な行列となった。
「今回行くところが、少し狭い道があるらしいんだ。じゃなければ、全員乗れる大きい馬車にしたんだけど」
馬車の揺れに慣れた頃、デイジーが説明してくれる。
なるほどね。小さい馬車を選んだって事ね。この馬車は一応6人用だって聞いたけど、男性は無理だろうと思う狭さだ。私達2人だとちょっと贅沢な気がするけど。
暫く走り王都を抜けると、田舎道と言った雰囲気の景色に変わる。天気も良いし、ピクニックでもしたい気分になっているところへデイジーがブチ壊す。
「知ってるとは思うけど、実菜には今回、瘴気の浄化をして貰いたい。というのが最終的なところなんだ、けど私としてはそれに加えて魔力を感じ分ける練習をして欲しいの」
魔力を、感じ分ける?
「魔力は人によって違う。属性なんてのもあるし、強さも流れ方も、個性みたいな物だと言えば分かりやすいかな」
ううっ、そんなデイジーみたいな事を私にしろと?
「出来無いと思う人には言わないわよ。出来ると思うから言ってるの。それに最初から出来るとは思ってないから安心して?練習だって言ったでしょ?」
思いっきり不安そうな顔をした実菜を気遣ってか、デイジーはそう言ったその後は他愛も無い話を弾ませた。
正午を過ぎる頃、広場の様になっている場所で馬車がゆっくりと止まると、俄に外が騒がしくなる。
「この辺りで一度、休憩を兼ねた昼食にしましょう」
ロイが馬車の扉を開けてそう言うと、実菜とデイジーの手を取って馬車から降ろしてくれた。
普段から休憩所にされているのか、大きく平らな石がテーブルの様に置かれていて、程良い大きさの切り株が椅子の様にその周りに置かれている。
「前に討伐に来た時に領主が用意してくれたんだ。休めるように、って。良い人なんだよ」
セシルはそう言いながら、師団員達が荷物用の馬車から出して来た食材を石のテーブルの上に置いていく。その間に師団員2人は手慣れた様子でブロックを積み、その上に大きな鉄板を乗せると他の師団員が拾って来た枯れ木をその下に敷き、火炎魔法であろうか、火を点ける。
「バーベキュー……」
セシルが、持っていたサッカーボール程の包みを開けると生肉が出て来た。「それ、大丈夫なの?」と聞くと、氷魔法で凍らせてたらしい。「丁度良い解凍具合だ」と返事が返ってきた。
意外な事に、セシルは調理担当らしい。その肉を適当な大きさに切ると、続いて玉ねぎとトウモロコシも切って次々と鉄板の上に乗せていく。
暫くすると、ジュウジュウという肉の焼ける音と共に、香ばしい良い匂いが漂って来る。
「聖女様、こちらをどうぞ」
お肉と玉ねぎ、トウモロコシを乗せた皿を1人の師団員が実菜に差し出す。そこへ他の師団員達も各々皿を持ちやって来た。
「いや、こちらの方が美味しいです!」「この肉のこの焼き目…」「僕が持って来たのが一番大き…」
「うるさ〜い!!実菜は自分で取れるの!あんた達は先ず自分の分を確保しなさい!!食いっぱぐれても知らないわよ!」
実菜が口を挟む間もなくデイジーが割って入り、仁王立ちで一喝すると、実菜をその場から連れ去る。「デイジーさぁ〜ん、ずる〜い」等と声がした気がしたが、デイジーには関係ないようだ。
鉄板の前まで来ると、デイジーは実菜の手に木で出来た簡易的なお皿をテシッと乗せる。自分もお皿を2枚取ると、その3枚のお皿に順番にポイポイッとお肉、玉ねぎ、トウモロコシを乗せ、こんもりとさせる。何故か1つには玉ねぎが乗ってない。
実菜が首を傾げていると「こっち行こう」とデイジー。黙って付いて行くと、未だ食材をいじっているセシルの所だった。
「まだ食べてないでしょう?」とデイジーが食材の乗ったテーブルに先程のお皿とフォークを置く。
成程、玉ねぎ抜きはセシル用だったのね。
「有難う。あ、玉ねぎが無い。よく分かったね」
「いつも弾いてるじゃん。玉ねぎ以外にすれば良かったのに」
本当に、何で自分が食べられない物にしたんだ?
しかし2人の雰囲気が本当に自然で、生暖かい気分になる実菜であった。
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