初めてのお茶会②
「私と殿下が婚約したのは10歳の時でしたわ。第一王子派のウォーター家と繋がる事で、第二王子派を抑える事が出来ると踏んでの事でしたから、完全に政略結婚でしたが、私も殿下も当たり前の事と理解しておりましたの。でも、昨年辺りからでしょうか、殿下の様子が変わってきまして」
そこでリリーは言葉を切り、何となく言いにくそうにしている。
「馬鹿そうな女の子とよく一緒に居るのを見掛けるけど、それは関係ある?」
デイジーがリリーの瞳を覗き込む様に首を傾げて問う。はぁ、と息を吐き、再びリリーが口を開く。
「ええ、そうですわ。平民から子爵の養子に入った事で昨年から学園に編入していらした方ですの」
「殿下がその方と浮気していると?」
「正直、私達の間に恋愛感情はありませんので、浮気くらいであれば何でも無いのですが、只、その御令嬢には貴族の常識と言う物が一切無いのです。ですから気になった時には注意をして参りましたの」
浮気くらいで、と言い切ってしまう所が気になりますけど?!結婚する人なんだよ?!本当に16歳なの?!
「その注意が、その御令嬢には意地悪をされている、と思わせてしまったようで、御令嬢から殿下へ、そして私が殿下から苦情を言われるようになってしまったのです」
ああ〜、あの殿下ならそうなる気がする。
「その事が私には違和感でしたの」
「え?!どうして?」
思わず実菜は声を上げていた。
だって、あの方ですよ?!何も分かってなくても不思議ではなさそうだけど。
その実菜の考えを読み取ったのか、リリーは苦い顔で言葉を続ける。
「殿下は確かに、そのう、頭が少し…不自由ですわ。でも貴族の常識、と言いますか、それを説明して理解出来ない程ではなく。寧ろ素直な方なので間違いには率先して注意をするような方でしたのよ?」
頭が…とは思ってらっしゃるのですね。しかし、意外だったわ。
「その御令嬢の御名前を伺っても?」
黙って聞いていたデイジーが不意に口を開く。
「ええ、アリス・クライマー子爵令嬢ですわ」
デイジーの片眉が上がる。
「ごめんなさい、話の腰を折ってしまって、続けて頂けるかしら」
デイジーはニコリと口角を上げてリリーの話を促す。
「有難う御座います。それで、そんな殿下の振る舞いが加速されていくばかりで、学園でも王宮でも何処へ行くにも、その御令嬢を連れて歩くようになり、しまいには貴金属やドレス等を幾つも貢いでいるようなのです。婚約者でもない異性に対してそこまでするのは流石に目に余り、陛下にも進言していたのですが、今では陛下のお声さえ無視されるようになってしまいましたの。」
「そのお金は、何処から?」
ここでも思わず口を挟んでしまった。だって、働いてもいない子供が、何故そんなお金を?って思うじゃない?
「税金ですわ…」
絶句だわ。確かに王族が使えるお金と言えば税金しかないのだろうが、陛下は何もしないのか?無視されて終わり?!何を考えているのよ!
「なので、陛下も流石に見過ごす事が出来なくなりましたの。このまま変わる事が出来なければ、廃嫡もお考えになっていらっしゃるわ。そこで私との婚約を解消して、私を第一王子殿下の婚約者に据えようという話になりましたの」
それを聞いて実菜はいくらか溜飲が下がったが、そう言えば第一王子殿下にお会いした事は無かったが、どんな方かが気になる所だ。
「そう言えば、第一王子殿下には婚約者様はいらっしゃらなかったのですか?」
殿下であれば、間違い無く成人までにいる筈だろうと思うが。
「ええ、勿論。いらっしゃいましたわ。お亡くなりになりましたけど」
「不審な事故死だと聞いていますが?」
デイジーの言葉に血の気が引く。
「それは、もしかして…」
リリーは微かに頷くと「確証がある訳ではありません」と濁す様に言葉を締めた。
「陛下としては私と第一王子殿下の婚約に向けて準備をしているのですが、第二王子殿下は陛下の言葉を理解していらっしゃらないようです。若しくはご自分の立場が悪くなる前に、私を悪者に仕立てたいのかもしれません。陛下としては卒業した後に、こっそり廃嫡するつもりのようですので」
成程。親心ですね。陛下にしたら、どんなのでも息子ですものね。
「リリー様、その御令嬢の常識外れな行動はどんなものがあるのでしょう?」
「そうですわね、初対面でいきなりファーストネームを呼び捨てにしたり、スキンシップが多いですわね。異性の腕に絡み付いている事が多いですわ。あとは…手ずから相手の口に食べ物を運んだり。ですかしら。男性に対してはどの方に対してもその様な対応ですが、女性に対しては見下した態度を取られるので、親しくして下さる方がいらっしゃらないの、ですので実は詳しくは存じませんのよ?」
それは……只の男垂らしでは?ないかしら?どちらにしてもキャバ嬢みたいな御令嬢ですね。
「売女みたいな御令嬢ですね」
デイジー!!辛辣っっ!思っても、口にしては駄目よー!!
リリーは一瞬、キョトンとしたが意味を理解するとみるみる顔が赤くなってしまい、持っていた扇で顔を隠していた。
「あ、すみません。口が滑りました。因みに、何故その御令嬢は急に養子になられたのでしょう?」
「子爵の庶子だったようですわ。確か…そう、お母様が病死したらしく、引き取る形での縁組だったと聞き及んでいますわ」
まだ目元が少し赤いリリーは思い出す為か、顎に人差し指を当てながら、デイジーの問に答える。
「そうですか、教えて下さって有難う御座います。ところでリリー様は、普段常に身に付けている物などは御座いますか?アクセサリーとか」
ん?またデイジーの『唐突』が出たかしら?
今度は何をする気でしょうか。
「アクセサリー…ですか?」
んー、と顎に手を当てながら考えるリリーのその指に指輪が嵌っているのが見えた。
「リリー様。その指輪はどうですか?」
実菜の声に、あ、とリリーが大事そうに目を細め、指輪を見る。
「これは学期末試験で一番を取れた時に、お父様がお祝いに下さった物ですわ」
「それを今、ほんの少しだけお借りする事は出来ますか?」
突然のお願いに案の定リリーはキョトンとしている。
「デイジー。理由をお話しないと!リリー様が驚いてますよ?」
「大丈夫ですわ。今だけですものね。どうぞ」
少し慌てたようにリリーが指輪を外し、デイジーに渡す。それを受け取ると、今度はそれを実菜の手の平に乗せ、指輪を挟んでもう片方の手の平を上に乗せる。
「えぇっと、デイジー?どうしたのかしら?説明して欲しいのだけれども?」
「うん、この指輪に付与をしようかと思ったのよね。リリー様、第一王子殿下の婚約者になる事に不安がお有りでは?」
リリーはデイジーの言葉にビクッと肩を揺らし、デイジーを見つめる。
「ええ、お恥ずかしいお話ですが」
「でも、その不安を乗り越えるだけのお気持ちもお持ちですよね?」
リリーが目を見開く。実菜は話に付いて行けず傍観を決め込んだ。
「はい…元婚約者様の件も御座いますので、もしかしたら私も、と思わない事も御座いません。ですが、ずっとお慕い申し上げていた方ですので…」
耳まで赤く染めて、聞き取るのがやっとな小さな声で告白するリリーがとても可愛い。
「という事で、こんな可愛らしいリリー様に御守りを作ってあげたいとは思わないかい?実菜」
いや、思うよ?思うけどさ。
「悪意と瘴気を払い、幸せを呼び込む魔力をこの指輪に付与してみようか?!」
無茶振りが過ぎるわっ!!!
だがしかし、リリーは目をキラキラさせ、頬まで紅潮させて実菜に期待を寄せている。
実菜は、はぁ〜、と心の中で溜息をつくと覚悟を決める。
「私は出来る!!」と心の中で唱えると、目蓋を閉じて呼吸を整える。
悪意と瘴気を払い、幸せを呼び込む…
忽ち実菜が光を放ち、それが指輪を包む両手に集中する、次第に光が弱まり消える頃、実菜は目蓋を開いた。
上手くいったと思うわ。
デイジーは楽しそうに、うんうんと頷いたが、リリーは目を見開いて口をポカンと開けて実菜を凝視している。
指輪を見ると紅いルビーが、より鮮やかになったように感じた。思い込みかもしれないけど。
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