2人の密会?
デイジーとロイの2人の会話です。ロイ視点となってます。
「お疲れ様」
自身の執務机で書類に目を通していると、鈴の音の様な声が頭の上に降ってきた。ロイは書類から目を上げるとデイジーが一人で立っている。
一人でいるのが珍しい、と感じる位セシルと2人でいることが多いが「師団長は?」と聞くと「聖女の護衛で服を買いに行った」と淡白な答えが返ってくる。
しかし……服?!何がどうなったら買い物になる?今日は治療棟に行く事になるだろう。という話ではなかったか?そろそろ討伐にも出なくてはならないと言うのに。
本当なら出ている筈だったが、聖女の件で引き延ばされているのだ。その間にも要請は増えていく。
「実菜は治癒と解毒、両方出来る回復薬を5分位で作れる様になったよ。高回復も使える」
「えっ!ハイヒール!」
デイジーは淡々と報告する。
しかしこの短期間で、そこまで成長させるとは。
「後は浄化が出来れば、だな」
淡々とした報告に無難な返しをする。
「この部屋に結界を張ったよ。セシルでも破れない筈。話って何?」
師団長の執務室の半分程の広さだが、副師団長にも専用の執務室が用意されている。今居るのはその執務室だ。暗に人払いしてある。と、デイジーは言いたいのだろう。
ふぅ、と小さく息を吐くと覚悟を決めたように、ロイは視線をデイジーに合わせた。
「君は一体、誰だ?デイジー」
「それを聞いてどうするの?デイジーと言えばそうだし、違うと言えば違うわ。中身は別人よ」
数分とも感じる長い沈黙の後、デイジーがそれを破る。
「私が聞きたいのは、そういう事では無い。分かっているのでは無いか?いや、しかし、そうだな。これから話す事は国家機密に繋がる事でもあるが……君を信用しよう」
彼女が警戒するのには理由がある筈だ。まず敵では無い。という姿勢は示した方が良いだろう。
こちらも警戒している筈で、その警戒する理由に彼女がスパイである。という可能性も当然あるのだが、そうであって欲しくない。というロイにしては珍しく、希望からの判断だった。
「私は以前、マンガス商会を経営しているマンガス伯爵を追っていた。怪しい物を提供する、という噂のある店を経営し始めたので、その内部調査と他に詐欺の疑いでね」
そこで一旦言葉を止め、デイジーを伺うが何の反応も無い。
「マンガスは目ぼしい店を片っ端から強引に乗っ取って自身の商会を大きくしていったと我々は踏んでいた。時には不審な死亡事故が起こることがあったのでね。しかし、なかなか証拠が上がらない。そんな時マンガス伯爵の次男がグレイデル伯爵令嬢と婚約をした、という情報が入った。その繋がりでグレイデル商会も探っていたのだが、ある日そのグレイデル伯爵邸が全焼する事故があり、屋敷に居た者は全員死亡し、そして何時の間にかマンガスがグレイデル商会をも吸収していた」
デイジーは今も何の反応も無い。
やはり思い違いだったのか。ひと呼吸程、彼女を見つめる。
「……?」
何だ?違和感がある。何だ?何がそう思わせるんだ?
「……っ!!!」
刹那。ロイは息を呑み、零れんばかりに目を見開いた。
デイジーの髪が銀髪から徐々に、本当にゆっくりと金髪に変化していったのだ。それと同時に瞳の色もブルーからブラウンへ変わった。
髪と瞳の色が違うだけで、こんなにも違って見える物なのか?!!
―――――そうだ、グレイデル伯爵令嬢はこんな顔をしていた。
「誠意を見せてくれて有難う。変幻を解いたわ。私が姿と名前を変えたのは、この身体に入った時、この身体は殺されたんだ、と感じたからよ。犯人は分からなかったけど、生きている、と知られたら危険だと考えたの」
いつも無表情をロイに向けるデイジーが、笑顔を見せる。
「初めて笑顔を見せてくれましたね。しかし、焼跡から出た遺体は……まぁ、数は合ってましたが?それに…」
ロイは目を泳がせて、言い淀む。
「ロイはあの時、燃え盛る屋敷の中に居たわよね。犯人がハッキリしない内は貴方も容疑者だもの、警戒するわ。当たり前じゃない」
「えっ?!しかし…確認した時は、あの時、確かに…もう亡くなっていた、筈、だが?そうか、その後に身体に入ったという事か?」
あの日、マンガスがグレイデル邸を訪問する。という情報が入り、諜報員数人で屋敷を監視していたのだ。しかしマンガスが来る事は無く、本当に突然、爆発する様に屋敷に火の手が上がったのだ。
そう、まるで魔法を使った様に。
そしてあの時、屋敷の者は全員、脈も呼吸も止まっていた。自分が確認したのだ。しかし、全員がというのが妙なのだ。一酸化炭素中毒という結論にはなったが、誰一人逃げられなかったのは何故なのか。
「今はもうこの身体の、えぇと、何だったかしら本名は?まぁ、良いわよね、デイジーで。そのデイジーの記憶事態が薄れてきてる。記録としてはある程度は思い出すけど」
本名は確かクリスタだったと思ったが、確かに今は必要無いかな。
「どの程度、思い出せる?思い出せる範囲で構わない。教えてくれないか」
「あー、順を追っていくね。先ずはマンガスの次男が婿に来ると言う条件で婚約した。両親同士でどういうやり取りがあったかは、分からないけど、何故かグレイデル商会の権利がマンガスに渡っていた。それに立腹したデイジーの父親が話し合いの場を設けたのが、あの日。父親は騙されたと言ってたと思う。恐らく、あの日、あの時、皆眠らされていたわ。何故かは分からない。食事に睡眠薬でも入っていたとしたら、シェフか給仕かが操られていたかもしれない。あ、これは推測よ?」
デイジーは記録を読んでいるかのように、空の一点を見つめながら言葉を紡いだ。
「操られて?」
何処かで聞いたような話だが?
眉を顰めるロイに、デイジーが視線を合わせる。
「そう、私が取り出したあの寄生虫。あれの魔力の繋がりの元を辿ったの。遠目で確認しただけだけどマンガス伯爵だったわ。飽くまでもあの騒ぎの時の虫は、ということだけど。その伯爵も操られているかもしれないし。それとマンガスの経営しているその店、怪しいわね。会員制だから私は行った事がないの。これも推測だけれど、デイジーの父親はもしかしたらその店でマンガスと交渉したのではないかしら」
他人の魔力は分かるが、違いまで分かるというのか?それを辿ったと?
ハハッ…最早何でもありだな。
「そこで何かしらあったと?」
「んー、薬物で意識を混濁させて要求を承諾させる。とか?」
デイジーは肩を竦める。例えば、と言うことなのだろう。
「あと、その虫だけど、立ち入り禁止の図書室で似たような事が書いてあるものを見かけたの。時間が無くて詳しくは見られなかったから近く確認しに行こうとは思っているけど」
「禁術という事か?」
しかし、そんな知識がある者がその辺に存在しているとは思えないのだが。やはり黒幕はとんでもない者の可能性があるな。
「それから、気になるのはウォルのことよ。パーティーの日、私が忍び込んで騒ぎが起きた時に逃げる様にコソコソ出ていくのを見掛けたのだけど。今は団でも見掛けないわよね?」
ロイは顔を顰めた。ウォルはあの時点で謹慎処分になっていた。ロイもあの日、ウォルの姿を見た気がしたので会場の外の警護に移っていたのだ。
彼女にも見られていたのか。しかし、誰にも気付かれず忍び込むとは……。
思わず、顰め面から苦笑いに変わる。
「私もあの日、ウォルを見掛け追った。しかし見付からず、気の所為かと思ったが気になったので宿舎も実家も馴染みの店も確認したが、見付からなかった。騒ぎになっても面倒だから表沙汰にはしていないが、今も行方不明だ」
「成程ね……」
「何か知っているのか?」
考え込む様子のデイジーに問う。
「ウォルの居場所は分からないけど、まだ何とも言えない。けど、もしかしたら…ウォルは、もう、やばいかも」
彼女の眉間に深い皺が寄る。
その様子にやばいとは、やばいという事だ、ということが窺える。
やはりこれは……。
しかしそこで急に彼女が遠い目をする。
「私、死体損壊罪で捕まっちゃうかしら」
唐突だなっ!!
あっ、もしかしたら、そういう事か?
「屋敷の焼跡から出てきたご遺体の数は合っていた。男女の判別すら出来ない程、焼けてしまっていたんだ。誰が何をどうしたかなど、誰にも分からない」
「……」
デイジーは、それには無言を貫いた。
「他にも気になる事があるのだが。実はつい先日まで、マンガス関係の事を忘れてしまっていたのだが。何か知っているか?」
デイジーが忘却の魔法を使ったとしても、もう驚く事もないが、そんな事をする理由が無い。逆に意図してそうしたのであれば、また警戒対象になるかもしれない。只、意見を聞こうとしただけなのだが、デイジーは急に目を泳がせ始めた。
「ま、まさか、君が?何故…?」
「ちが、違うよ!!その事は知らなかったけど、ロイが私に気付かない様に忘却の魔法を使ったんだけど、もしかしたら…忘れさせる範囲を…失敗したのかも、と」
後半、口籠って良く分からないが、真っ赤な顔をして弁明する彼女は初めて見る。デイジーの人間らしい一面を垣間見てロイは愉快そうに笑った。
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