これはゴミですか?いいえ、贈り物です
視点がころころしてすみません。
朝、何時ものように研究室に行くと、入ってすぐの机の上に大きな木箱が置かれていた。何処ぞの紋章が入っていて赤と金で彩られ見るからに豪華なそれは、地味な室内で異様な存在感を放っていた。
「これは何ですか?」
「何でしょうね?僕も今来たところでわからないんですが」
近くにいた師団員に聞いたが分からないと言う。
「これは海を超えた東のアンドロワ帝国からの贈り物だそうだよ」
私達の遣り取りが聞こえたらしく、リードが近付いて来て答えてくれた。
「アンドロワ帝国?」
「東はかなり大きな大陸でしたよね。僕は行った事はないですが。確か帝国軍がその大陸の殆どを侵略して従属国にしたとか」
リードの言葉に師団員が顔を顰めながら誰に言うでも無く言う。恐らく、知らないであろう私に説明しようとしたのだろうけど。
「そう、あそこは軍部が強いからね。一度、陛下が招待を受けた時に護衛として行った事があったけど、皆人柄は良さそうだったよ?」
リードがズレたメガネを直しながら、暗に野蛮では無いよと言いたかったのか、補足する様に言葉を続け、木箱の蓋を開ける。
「正確には贈り物の一部。だけどね。帝国の特産は黒耀石、それと織物だったかな?黒耀石と、織物は王族が管理するみたいだね。でも一緒に贈られたこれは使い道が分からないって事で研究室に来たんだけど……」
と言って箱の中を見遣る。釣られて実菜も中を覗き込む。更に小さな箱が幾つも入っていた。
「うちの国ではどれも取り扱った事の無い物で持て余してる」
リードは苦笑いでその小箱の一つを開けて見せてくれた。木屑?枝を細切れにしたような物がたっぷり入っていた。他の小箱を開けたが同じ様な物や木の葉が入っていた。でもどれも乾燥させてある。
「嫌がらせでない事は分かってはいるけど、説明書らしき物も無いし、取り敢えずこれが何なのか調べるところから始めないとだね」
これ、もしかして……?
実菜は小箱を取り上げて箱の側面や、ひっくり返して裏を調べてみた。
やっぱりだわ!これ、きっと生薬よ!箱に名前が書いてある。
でもまさかの漢字が使われているとは……まぁ、漢字っポイてところだけど。
多分これは……芍薬じゃないかしら?!飽くまでも字の雰囲気だけど。
昔、お祖母ちゃんが生きてた頃は葛根湯をわざわざ煎じてくれてたなぁ〜。最近なんて薬局で顆粒になって売ってて、楽になったものよね〜。
思わず遠い目をしていたらしい。リードの「大丈夫?」と言いたげな生温かい視線に気付き、顔が熱くなる。
「あの、これ少し貰って試してみても良いですか?」
「え?これが何か分かるの?」
「ん〜、多分?確実では無いでので、実験みたいなものですが」
「まぁ、良いよ。好きに使って」
「ありがとうございます」
何度かお祖母ちゃんと一緒に煎じた事があったから懐かしくてやってみようと思ったのだ。
思ったのだが……。
多分、生薬の種類は合ってるはず。多分だけど。何せ子供の頃の記憶だ。確か6つの生薬を使ってた。それぞれの効能を説明してくれてたけど、流石にそれは全く覚えて無い。
こんな事になるなんて予想仕様がないけど、もっとちゃんと覚えておけば良かった。こうなって初めて無駄な知識って無いんだなぁ、と思う。
出来上がりをちょっぴり舐めてみたら、何かちょっと違うような?これで良いような?
コクンと一口飲んでみた。後味は葛根湯だ。少し濃いのか?その疑問に答えをくれる人はここには居ないのでこれでいい事にしよう。
「ミナさん?何、渋いカオしてるんですか?」
「リュートさん。また徹夜を?」
「あ〜、気付いたら今でした」
このボサボサ頭のリュートは魔道具担当の師団員で、夢中になると寝食を忘れるタイプだ。よく徹夜をしている。結果的にそうなる。と言う事らしいが。
「で、その手に持ってるお茶?は何ですか?」
「あ、これは、祖国で風邪を引いた時とかに飲む物なんです」
「っ!!へぇ〜!俺の妹が身体が弱くて、よく風邪引くんですよ。で、最近も体調崩してて、それ少し貰っても良いですか?これから帰るんで」
「ああ、良いですよ。」
多分、大丈夫よね?悪くなる事は無いでしょう。
あまり深く考えずに実菜は回復薬用の小瓶に入れてリュートに持たせてあげた。
「来たよ〜」
お昼になる頃、またデイジーが研究室にやって来た。暇なのか?!
「毎日こっちに来て大丈夫なんですか?」
「ん〜、お昼一緒に食べようと思って……って、これ、何?」
回復薬を煮ている隣の机に置いたままの葛根湯のカップを指差している。
「あ、それ?記憶を頼りに作ってみたんだけど……」
と、言い終わる前に彼女はそれを手に取り、匂いを嗅いでからペロッと舐めた。
「どう??かしら」
渋い顔のデイジーに恐る恐る問う。
「もしかして、葛根……?のつもり?」
「う、うん」
デイジーは無言のまま、これまたそのままにしていた煎じた小鍋の中身を見遣る。
「これ、分量は幾つで計算した?」
「えっとぉ〜、計算…?」と、言い淀む。それに全てを察したのか、はあぁ〜〜、と息を吐きながらこちらを見た。ごめん、何となくでやりました。
「まぁ、飲んだとしても健康体なら何の影響もでないでしょうから良いとして…」
「え?!」
「え?」
一瞬、時が止まった。
「よく風邪を引く、身体が弱いっていう人にあげちゃったんだけど……」
「……ま、まぁ、死にはしないわよ。ところでこの国には生薬って見た事なかったんだけど、どうしたの?」
し、死なない…?その言葉に物凄く不安を覚えたが、デイジーにアンドロワ帝国から贈られたあの派手な木箱を見せた。
「アンドロワ帝国ねぇ……。もしかしたら、聖女の力に肖りたいのかもね。」
デイジーは先程の小鍋の中身を捨て、新たに幾つか生薬を入れ煎じながら呟く様に言った。
「聖女の?何で?」
「知らない?今、あの国は流行病で大変らしいから。でもここで恩を売れればこの国も安泰ってとこよね」
「安泰?」
「安泰って言うか、強い帝国と軍事協定でも結ぶ事が出来れば有事の際は護って貰えそうじゃない?若しくは攻めて来ないでぇ〜的な?その他諸々?その際の何かしらの要求が聖女の浄化、若しくは癒しの力とかかは分からないけど?難しい事は偉い人達に任せるけどね〜、面倒事だけは避けて欲しいわ」
おぉう!!ここでも『思惑』が!本当に勉強って大事なんだねぇ……。ボーッと生きてんじゃねぇよー!って事よね。叱られちゃうわ。誰にとは言わないけど。
「じゃ、お昼行こっか?!」
あ、その為に来たんでしたね。
デイジーは暇そうにしていた師団員を掴まえて、身振り手振りを交え交渉し、私の仕事を交代させた。彼の名誉の為言っておくと、暇そうに見えただけで決して暇では無い。
一時間程で戻ると彼に伝えると食堂へ向った。
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