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聖女として召喚されたので、期待に応えてみた結果  作者: 珠音


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逢瀬

休日の昼下り、実菜は緊張した面持ちで公園のベンチに座っていた。


「会って話したい」と、剣持に連絡したのは実菜だが、会ってもらえないかもしれないと思っていた。だが、返事はすぐに来た。


そして、会う場所として剣持が指定してきたのは、何故かあの公園だった。


約束の時間より早く来てしまった実菜は、取り敢えず空いていたベンチに座っていたのだが、周りを見れば、同じくベンチに座って日向ぼっこをしている老夫婦や散歩している人、ジョギングしている人に走り回っているちびっ子。



結構、人がいる。



それらの人達が自分たちを見ているとは思わないが、これから剣持と話をする内容を思うと出来れば人目の無い場所が良かったと実菜は思うのだった。



『ぽんこつ』



森本の声が蘇る。


先日、森本に話を聞いてもらった後、思い出したのだ。


ジュアンの呪い(?!)が解け、ラインハルトの事を鮮明に思い出した今。



ラインハルトって、そんな感じの人だったかもしれない。



と。



騎士だったのに全く怖い雰囲気とかなくて、むしろ優しくて。

勘違いしそうなくらい純子にも、優しくて。


もしかして、と期待する場面は何度もあった。

そう、何度もあったのだ。でも、その度に期待した純子がただ羞恥心を煽られ撃沈して終わるという状況だったのだ。


そして、焦れに焦れた純子が、彼の逃げ場をなくした状況を作った上で求婚するという強行に及んだのだった。


彼は優しいから、人目があるところで純子の求婚を断わる事はしないだろう。


そう、純子は確信犯であった。


もしかしたら、剣持も言っていたラインハルトの愛の言葉は、優しいが故に言ってくれたものではないかとさえ思えてしまう。

いや、実際そうだったのかもしれない。

それもあっての実菜の不安だったのだ。



……だとしたら、やっぱり、ぽんこつとかではなくて、私のことは本当には好きではないのかも。


義務?


義理??



「……はぁぁぁ」


気持ちがへこんだ実菜はベンチに座った状態で、己の膝に突っ伏すように蹲った。



いや、でも、待って!

ラインハルトと結婚した後、すぐに静加も生まれたわけだし。

……そうよ、仲は良かったわ!



少し自信が出てきた実菜は、勢いよく上体を起こした。



あぁあ……でも!だから、それが彼の正義感とか、義務感とかから来ていたものだったら……?



「……それこそ、申し訳ないわ」


一瞬で自信を失った実菜は、今度は両手で顔を覆うと俯いた。



いや、でも、純子みたいに結婚してしまえばこっちのもんよね!

そうよ!何と言っても言質は取れているのだし。

部長の言うように、大事なのは「今、どうしたいか」よね!



「……要は、勘違いだったと思わせないようにすればいいのよね」


少し悪い顔をした実菜は顔を上げ、拳をぐっと握った。



ああ……でも、この間の私の態度で嫌われているんだ。

そして今日、何も無かった事にされるんだわ。きっと。



「……終わった」


しかし、現状を思い出した実菜はベンチに右手を着くと、右腕にもたれるようにして「よよよ……」と、ばかりに項垂れた。


些か情緒不安定な行動をしている実菜は、目の前を通過する人達の注目を密かに集めていた。

斜め正面のベンチに座る老夫婦などは、目を瞬かせて実菜を見ているのだが、残念ながら実菜は気付いていない。


見られていることに気付いていない実菜が顔を上げると、公園の入口に、初めて会った時と同じダウンジャケット姿の剣持が見えた。



来た。どうしよう。今更、緊張してきた。



実菜が立ち上がって小さく手を振ると、それに気付いた剣持がはにかんだ笑顔で走って来た。


「ごめん、待った?」


「いえ、着いたところです」


まるで、恋人同士のようなやり取りに、胸がきゅっ、となったが、同時に心の中で首を傾げた。



この笑顔はどう解釈をしたらいいの?

この間の事、怒ってはいないのかしら。どういう心情?

それとも、大人の対応をしてくれているだけかしら。



二人してベンチに座ると、まるで、それが合図であったかのように剣持が口を開いた。


「この間のことなんだけど……」



挨拶もそこそこに、早速きたわ!!



真剣な表情の剣持に、実菜も構えた。


「もしかしたら、俺の気持ちがちゃんと伝わってないのかもしれないと思って……」



んっ?!

何か思ってたのと違うっ?!



構えていた実菜は、剣持の様子に拍子抜けしてしまった。いきなり、ばっさりとフラれるわけではないらしい。


「あの、そのことなんですけど……」


その前に、伝えておかなければならない。話を続けようとする剣持を制して、実菜は先ず純子とラインハルトの生まれ変わりの話からすることにした。


純子が確信犯的にラインハルトに求婚したこと。

そのラインハルトに影響されて、純子の生まれ変わりである実菜を好きだと思い込んでいるのだろうということ。


実菜が話をしている間、剣持は終始きょとんとしていた。


「話は分かった。分かったけど、この間も言ったけど、どうして俺がその男に影響されていると思うの?」


「だって……」


「じゃあ、実菜は俺のことを好きって言ってくれたけど、それも影響されているからなの?」


実菜は激しく首を横に振った。


「じゃあ、同じだよ。俺も影響されているわけじゃない」


「でも……」


「俺が君を愛してるって、どうしたら信じてくれるの?!」


尚も食い下がろうとする実菜に、剣持は語気を強める。怒っているからではなく、困っているからだ。

しかし、強目の口調に思わずたじろいだ。


「し、信じてる、けど……」


「信じてないじゃないか」


「そんなことないわ!」


「じゃあ、なんで結婚してくれないんだよっ?!」


「するわよっ!!」


「……えっ?」


「えっ?!」


剣持の勢いにつられて、売り言葉に買い言葉的な感じで思わず言い返してしまった。

だが、それが実菜の本音でもある。


「……したい、ですよ?」


念を押すように言って、上目使いに剣持を窺うと、目を見開いて実菜を見つめている。その頬が次第に赤味を帯びていった。


「じゃあ……何の問題もないじゃないか」


嬉しそうに破顔した剣持が実菜の手を取った。


「……だって、ジュアンとして……純子の次の人生では近くにあなたがいなかったから、本当は好きじゃなかったんじゃないかしら。もう会いたくもないんじゃないかしら……って、思って……怖かったの。不安だったの」



そうか、この申し訳無さと不安はジュアンの抱えていたものだったのか。



自分の口から自然と出て来る言葉を聞きながら、実菜は感じていた。

そして言いながら、「なんて重い女なんだ。逆に怖がられるのでは?」と、実菜は頭の片隅で思ったが、それは杞憂だったようだ。剣持は実菜を引き寄せると強く抱きしめた。


「ごめん。やっぱり俺は君を泣かせてしまうらしい」


少し身体を離すと剣持が実菜の目元を親指で拭う。


「……本当に、私でいいんでしょうか」


「実菜がいいんだよ。だって、夢のに出て来た純子が実菜だとは感じてたけど、やっぱり違う人間だ。顔だって違うし……笑顔とか、目がくりっとしてるところとか、ちょっと不機嫌そうな表情とか、驚いた表情とか、話している時の仕草だって、実菜の方が可愛いって夢の中で比べて思ってた。それに唇だって、実菜の方がぷくってしてる」


そう言って、剣持は親指で愛おしそうに実菜の唇をなぞった。


「つまり、夢を見る前から実菜の事が好きだったんだよ」


なんとも幸せそうに剣持が微笑んだ。


「あ、あぁあああの!……もう……」



モウ……オナカイッパイデス。



彼のお好みに合っていたのは良かったが、居た堪れずに、実菜は軽く剣持の胸を押した。

だが、びくともしない。


「あはは。もう、逃さないよ」


しっかりと実菜の腰を左腕でホールドしている剣持は、右手で優しく実菜の髪を撫でた。


「逃げたい?」


意地悪そうに聞く剣持に、実菜が首を横に振ると、髪を撫でていた手の平を実菜の後頭部へと滑らせた。



これはっ!!

この雰囲気はっ?!

もしかしてっ?!



近付いてくる剣持の顔に、一気に心臓が跳ね上がった。「夢の中では良いところで目が覚めちゃったんだよね」とか、剣持が何やら呟いているが、実菜はそれどころではない。

恥ずかしいやら、期待に胸を膨らませるやらで忙しいのだ。


「……実菜、愛してるよ」


そう言って、剣持が首を傾け、お互いの唇が更に近付いた。


そして―――――。



「ねーっ!!お兄ちゃんとお姉ちゃん、ちゅうするっ?!ちゅうするのっ?!じゃあ、パパとママなのっ?!」


唇が重なる瞬間。不意に足元から声を掛けられ、二人は飛び上がった。そして、離れた。


「へっ?!」


見れば、そこには、四歳くらいの男の子がしゃがみ込んで、にこにこしながら二人を見上げていた。


呆気に取られる二人をよそに男の子は嬉しそうに話し続けた。


「あのねー、ぼくのパパとママはねー、ちゅうしてるよ。おしごといくまえとかねー、あと、ケンカしたときにねー、パパがごめんなさいしたあとにねー……ぅきゃっ?!」


その時、猛スピードで走り込んで来た人影が男の子を掻っ攫って行った。

その人影が走り去って行く瞬間、「お、ぉおおおお邪魔しましたぁああぁあっ!!!」と、叫んでいたので人攫いではないだろう。

恐らくは男の子の母親である。遠くの方で、「恥ずかしいから、やめなさい!」と、叱る声が聞こえた。


呆気に取られていたが、その事件があったお陰で実菜は、自分たちが周りから注目されていることに気付いた。


ジョギング中の人とか、ゆっくりと散歩している人たちとかが、二人の座るベンチの近くにさり気なく立ち止まり、ちらちらとこちらを見ていた。



心なしか、この辺りの人口密度が高い気がする。



だが、実菜が周りを見渡すと蜘蛛の子を散らすように通り過ぎて行った。


斜め正面に座っていた老夫婦も生暖かい視線をこちらに向けていた。


「お若いの、プロポーズが上手く行って良かったのぅ」


お爺さんが楽しそうにこちらに声を掛けてきた。隣のお婆さんなどは頷きながら、小さく拍手を送ってくれている。


「あ、ありがとうございます」


剣持がペコリと頭を下げ、ご丁寧にお礼を述べた。


「婆さんや、若い頃の儂らを見ているようじゃったのぉ」


「そうですねぇ、お爺さん」


「そうじゃ!婆さんや、久しぶりに一緒に昼寝でもするかのぉ?」


「いやですよぉ、お爺さんたら!」


老夫婦は仲良く手を繋いで楽しそうに笑いながら去って行った。


それを笑顔で見送る剣持。



……って、いや、いや、いや、いやっ!



「まさか、今の、見られ……?いや、聞かれて?」



恥ずかしっ!!恥ずかし過ぎるっ!!

いやーっ!!顔から火が出そうよっ?!



「もしかして、気付いてなかったの?」


平然としている剣持を、思わず上目使いに睨み付けてしまった。


「何で……気付いてたなら、何でこんな所で……」



愛が、どうこう言うのよ?



「人目があるところでプロポーズしたら、実菜は断われないんじゃないかと思って」



しれっと彼が何か言っている。



「怒らないでよ。でも、実菜の話だと、純子も同じ事をしてたからおあいこだね。だけど、気付いてなかったのなら意味がなかったな」


確かにそれについては何も言えない。

言えないが、実菜はじっと剣持を見つめた。無言で見つめられた剣持はたじろぐ。


「……えっと?」


「そしたら、ちゃんと言って欲しいです」


「え、何を?……えーと、式はいつにする?」


「違いますぅーっ!」


むうぅ、と、実菜が口を尖らせた。しかし、剣持は小首をかしげるばかりだ。


「だから、その……プロポーズの……言葉を、ですね。ちゃんと言って欲しいなぁって」


言ってて恥ずかしなった実菜は、もじもじとしながら「駄目、ですか?」と、上目使いで小首をかしげた。

次の瞬間。実菜は剣持の腕の中で唇を奪われていた。



……へっ?!

何が、起きているの?!



突然の出来事に呆然としていると、「ちゅっ」と、微かなリップ音をさせて柔らかい感触が実菜の唇から離れていった。

少し身体を離した剣持は何故だが不機嫌そうな表情をしていた。


「もう!さっきも思ったけど、その表情を他で見せたら絶対駄目だからな!」


「へ?あの……はい。はい?」


突然、唇を奪っておいて何を怒っているのか。

何を怒られているのか分からぬまま、きょとんとしていると、剣持は「はあっ」と、息を吐き真顔になった。

実菜に向き直ると、「じゃあ、えっと」と、言って小さく咳払いした。


「俺は、実菜と一緒にこれからの人生を歩んでいきたい。実菜以外にこんな気持ちになることは絶対ない。だから、俺と結婚して下さい」


「……はい」


実菜が返事をすると、破顔した剣持が再び実菜を抱きしめた。


「一緒に幸せになろうね」


剣持は言うが、実菜は何とも言えない気持ちでいた。



なんか色々……うん。そうね。

私がお願いしたことだし。

とても嬉しい。嬉しいのだけれど。


……ムードが。



今もちらちらと通り掛かった人たちに見られているのだ。

本当に何でこんなところにしたんだ。と、純子がしたことを棚に上げて思う実菜であった。



でも、私たちは少し特殊だから、まぁ、いいか。



理想と現実は違うんだと学び、開き直った実菜が、剣持の胸に顔を押し付けて抱き返すと、実菜のつむじに剣持の唇が押し付けられた。

お読み頂き有難う御座いました。

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