表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女として召喚されたので、期待に応えてみた結果  作者: 珠音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

125/131

突然の吉報

――――翌日。



「私たち、結婚したの」



出勤した実菜は、部屋に入る前に森本部長に攫われるように給湯室へと連れて来られると、満面の笑みを浮かべた森本からそう告げられた。


「あ、そうなんで……ふぇえっ?!がふっ!!」


唐突な告白に絶叫しかけた実菜の口は森本によって塞がれた。


「もう!そんな大声出して驚かないでよ!」



逆に何で驚かないと思いましたか?



「だって、昨日の、きょ……えぇぇえ??」


今一度、森本の言葉を反芻してみるが、驚きしかない。

だが、森本を見れば微かに頬を赤らめて、「むふふ」と、仁王立ちしている。なぜか、ドヤ顔で。


朝イチで二人して区役所に寄って来たのだという。


「何があったんですか」


「ふふ!よくぞ聞いてくれました!!」



あ、長くなる?これ、聞かない方が良いやつ?

もう始業時間になるし?



だがしかし、逃さないとばかりに、がっしりと肩に腕を回された実菜は、砂を吐きそうなほど惚気を聞かされる羽目になった。


「善は急げっていうでしょ?」


そう言って、森本は片目をつぶった。



あ、なんか部長が可愛い。

見事に男を見せてくれた副社長は流石ですけど、それにしても昨日の今日って……。

まあ、幸せそうだから良いのだけど。



「……だから、神倉さんには感謝してるのよ!あなたのお陰で、兼元くんは自分の気持ちに気付いたって言ってたんだから!」


「確かに、部長に好きな人がいると知った時の副社長の顔は怖かったです」


森本はけらけらと笑った後、「喋ったわね」と、真顔に戻った。



やぶ蛇だった。



けれど、もちろん本気で怒っているわけでもなく、軽いデコピンの刑で済まされた。



「それで?あなた達はどうなのよ?本当はそれが聞きたかったのよぉ。神倉さんがそんな積極的だとは思っていなかったから!」


森本は聞きたいと思いながらも、結局は惚気が先行してしまっていたようだ。

「……あぁ」と、曖昧に視線を泳がせる実菜の視界に、強引に入るようにして森本が顔を覗き込んでくる。


「え、まさか、あなたが言ってた九条って、剣持くんではなかった……とか?ではないわよね?」


それなら二人になる必要もないものね。と、森本が言う。



私が言ってた九条?

私、そんな事を言ったかしら。



と、首を捻るが思い出せない。そんなことよりも、昨夜である。




――――昨夜。あのあと。


『式は、いつにする?』


恍惚の表情を浮かべて宣う剣持を、あろうことか実菜は突き飛ばし、逃げるようにして走り去っていたのであった。



だって、よく分からないけど、なんか嫌だったんだものっ!



それを思い出した実菜は両手で顔を覆い、その場にうずくまった。


「どした?!」


森本も実菜に合わせてしゃがみ込む。


「……私、もう終わりです」


「はい?!」



あの後、社長がどうしたのかは分からない。

でも、もう嫌われただろう。



生まれ変わり云々という話は抜きにして昨夜の出来事をかいつまんで森本に話した。

聞いている森本は微妙な表情だ。


「剣持くんの愛の告白を思い込みによるものだと思い込んでいる神倉さんが私にはよく分からないのだけど……」


森本は眉を顰めて首を傾げていた。疑問符が二、三個浮かんで見えるようだ。



生まれ変わりの部分を端折るとそうなりますよね。

でも、社長が『愛している』と言ったのは純子に、であって実菜(わたし)じゃない。



「いつか、本当の相手は私ではなかったと思われるのが怖くて……」


「本当の相手?何それっ?!」


「………」



それは分からないが、今の彼はラインハルトの気持ちに囚われているだけだろう。だから、私を純子として見ているだけにすぎない。

それがなくなったら、離れていくに違いない。

それを思うと、近くにいたいけどいたくない。

それを見ていたくない。



黙っている実菜に、「ふむ」と、森本が小さく頷くとおもむろにコーヒーを入れ始めた。


「まあ、そんな時はさ、コーヒーでも飲んで落ち着きましょうよ」


インスタントのドリップコーヒーだが、すぐに良い香りが漂い始めた。


森本が実菜にカップを手渡す。


「神倉さんが怖いと思う理由は分からなくもないわ。私もずっと、彼が離れて行ったらどうしようって、怖いと思って来たもの。だから、ずっと友達でいたのだもの。

でもね、『いつか』どうなるかなんて、誰にも分からない。私がいい例じゃない。そうでしょう?

私と兼元くんだって結婚したけど、明日には別れているかもしれないのよ?」


実菜が手にしたカップに、ぽたっと雫が落ちた。


森本と兼元は、ずっと変わらない関係でいたいから結婚したのだという。それなら普通、友人のままでいそうなものだが、それが二人が答えとして出した『善』なのだろう。



善は急げ。



じゃあ、私にとっての、善って何だろう。



「じゃあ、剣持くんが他の女と結婚したとして……」


「嫌!それは、絶対に嫌です!!」


前のめりで否定する実菜に、森本は苦笑してキッチンペーパーで実菜の目元を軽く拭いた。他に手頃な物が近場にはなかった。


「じゃあ、それでいいじゃない。『いつか』を恐れるより、『今』を、どうしたいか考えた方が建設的よ?」


「でも、いきなり結婚て……」


「あはは。まあ、それは私もびっくりよね。私たちの場合は友人の期間が付き合ってたようなもんだけど、あなた達は違うものねぇ。

因みに、プロポーズは何て?」



ん?プロポーズ?



「………」


因みに、兼元から森本へのプロポーズは、「お前が他の男と結婚なんてしたら、正気でいられなくなりそうだから俺と結婚してくれ」だったそうな。



よく考えたら、私からは好きって言ったけど、社長からは純子に対してしか言われてなくない??



――――私、告白すらされてなくないっ?!



「え、嘘でしょ?……いきなり、結婚式の日取り??」


俯いた実菜を見て、森本の顔が引き攣った。

森本が「兼元くんが言ってたのこれかぁ」と、天を仰ぐ。


森本が、がしっと実菜の両肩を掴むように手を乗せた。


「いい?神倉さん。よく聞いて。剣持くんの名誉の為に先に言っておくけど、彼は仕事は出来るの。学生の頃なんて、本当に文武両道だったわ!!」


「……は、はぁ」


森本が何を言いたいのか分からず、実菜は頷くしかない。


「でもね……女性関係は、これだけは、どうやら、残念ながら……ぽんこつらしいの」



ぽ、ぽんこつっ?!



「私も、兼元くんから聞いただけだったけど、今、それがよく分かったわ。そうね、それなら、神倉さんが剣持くんとの将来に不安を抱くのも頷けるわ」


森本はひとり頷くと、実菜の両手を取る。


「でも、大丈夫!ぽんこつだけど、良い人なのは間違いないから!見捨てないであげて!ねっ?!」


「は……はあ」



それでは、私の取るべき『善』とは、いったい??






――――その頃、社長室では。


「……きのこを栽培するなら、山に帰れ」


ノックもせずに入室して来た兼元に、剣持が暴言を吐かれていた。


俯いてデスクチェアに体育座りしている剣持がゆっくりと顔を上げると、その顔には薄っすらと隈が出来ていた。


「兼元か……何だよ」


「その様子じゃ、フラレたみたいだな。無理して会社に出て来なくとも良いのに」


「……笑いに来たのか」


再び俯く剣持に、兼元は居心地悪そうに部屋の中をうろうろとしていた。


「まだ何かあるのかよ?」


俯いたまま剣持が問う。


「あー、今のお前には非常に言いにくいのだが……俺、結婚したから」


「はっ?!いつっ?!」


剣持が顔を上げて兼元を凝視すると、兼元は視線を逸らして「今日」と、言いにくそうに言う。


「何だよ、それ」と、剣持は己の膝に突っ伏した。


暫くはきのこを収穫する気がなさそうな剣持に、そっとしておこうと思った兼元は「じゃあな」と、部屋を出ようとした。



「……好きって、言ってくれたんだ」



ぽつりと、剣持が呟く。


「俺のことを好きだって、実菜が言ったんだ」


じゃあ、何できのこの山が出来ているんだ?と、兼元には疑問符が浮かぶ。


「なのに、実菜は俺を突き飛ばして逃げて行ったんだ……何でだと思う?」


「どんな状況だよっ?!」


いや、彼女は恥ずかしくて逃げたのかもしれない。兼元はそう思い直した。


「お前は何て答えたんだよ」


「答え……というか。式はいつにするか聞いたら突き飛ばされたんだ」


「………すまん。悪いが状況をイチから説明してくれないか」


実菜の告白からいきなり一足飛びで結婚の話を始めた剣持に説明を求めたのだが、剣持は実菜に連れられ、店を出た辺りから説明し始める。そして、剣持が見たという夢の話をし始めた辺りから全く要領を得なくなった。


なぜ、そこで夢を見た話が出て来る?

なぜ、夢に出てきた恋人を、顔が違うのに神倉さんだと断定した?

それに、神倉さんが錯乱した理由もよく分からない。


兼元は混乱した。


「剣持、悪い事は言わない。もう一度、神倉さんと話をしろ。彼女が理解してくれるまでだぞ?悪いが、俺はお前が何を言っているのか分からん」


「何でだ?!」


「お前が今言った事を俺の理解で言うなら、夢の中でお前と恋人だった人に神倉さんが似ていたから、神倉さんに向かって、その夢の中の彼女に対してした愛の告白をした?

そして、神倉さんの意中の相手を無理矢理聞き出して……それが自分だったから、結婚したい?」


兼元は剣持が言った事を反芻しながら兼元なりの解釈で言う。

だが、やはり夢と現実を混同していると思われる部分は解せない。「剣持、相当疲れてるんだな」と、いうのが本音だった。


「おい。変な受け取り方をするなよ」


「いや、そのまんまだろ?つまり、お前は夢に出てきた女性と結婚したいと言っているように俺には聞こえる。神倉さんがどう理解したかは分からないが、逃げたということは少なからずお前の気持ちは伝わってはいないってことだろう?」


「普通、伝わるだろ?」


「じゃあ、神倉さん自身にはお前は何て言ったんだ?」


「え、だって、純子と実菜は同じ人だから……」


兼元の視線がじっとりとしたものに変わった。


「それはお前の夢の中の話だろ?神倉さんも同じ認識なのか?違うだろ?だとしたら、神倉さんは別の女を好きな男から結婚を迫られたようなもんだぞ?」


「いや、でも……」


剣持は言い淀んだ。

実菜も同じ夢を見ていたらしい事を言っていたのだからそんな事はない。とは、思ったが兼元の言うことが正しいとするならば、実菜に突き飛ばされた事も辻褄は合う気がしてきた。


「兎も角。もう一度、チャンスをもらって話をしろ。そこでもフラレたら、きっぱり諦めて普通に仕事をしてくれ」


それだけ言い残し、兼元は去って行った。



実菜は純子だった事もある。という言い方をしていた。という事は生まれ変わりとか、そういうものなのかもしれない。という漠然とした感じでいた。



だとしたら、俺の気持ちはそのまま実菜への気持ちってことで伝わるよな?

だって、純子と実菜は同じ……ん?同じ?

……俺とラインハルトは同じ人間か?



剣持が夢で見たのはラインハルトという男のごく一部の人生だ。彼が自分とどこまで同じかなんて分からない。似ているかもしれないが、少なくとも違う人間であることは間違いがなかった。



確かに違うけど、でも、実菜を好きだという気持ちも間違いはない。



無性に実菜に会いたくて仕方ない。会って伝えたい。



もし、本当に気持ちが伝わっていないのであれば、誤解する隙がないくらいに伝えたかった。




実菜から「休みの日に会いたい」と、いう連絡が来たのはその日の夕方だった。

お読み頂き有難う御座いました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ