買い物ですか?いいえ、尋問です
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読んでくださっている方、有難う御座います。
騒動があってから三日後、デイジーが第三魔導師団の研究室に顔を出した。何故だか魔導師団の団服を着ていた。瞳の色と同じなので馴染んで見える。
「遊びに来たよ〜」
リードに振り返られようが、他の師団員に訝しげに見られようが気にしないようで、躊躇いもなくこちらに手を振りながら近付いて来た。
「どうして団服着ているんですか?」
「何時の間にか師団長補佐官になったらしいよ」
「他人事ですか」
あまり深く考え無いのか、デイジーは研究室の室内を興味深そうに見回しながら答えた。
「ところでデイジー?」
「ん?」とデイジーが私と視線を合わせた。
これ、こんな所で聞いて良い事かしら?でもちょっと気になるのよね。
「デイジーが、日本で亡くなったのってお幾つだったの?……って、言いたく無ければ良いの!!」
好奇心には勝てず、周りには聞こえない程度の声で聞いてみたのだが、あっさり答えが帰ってきた。
「83歳よ」
「えっ!!!」
想定外の答えに驚きが隠せなかった。何となく同世代位だと思っていたのだ。
「崖から落ちちゃった」
テヘペロとか言う効果音が聞こえてきそうな仕草だ。病気とか老衰じゃないんだ。まぁ、うん、この人はそんな気がする。でも、崖から落ちるって、どんな状況よ?!
「セシルは知っているの?」
何となく聞いてみた。デイジーは、んー、と考える仕草をしてから「あの子は興味の無い事は気にしないみたい。聞かれないから答えてない」と答えた。
あの子!!彼女からしたら私含め、みんな孫みたいなものなんだろうな。
「お嬢様方?招待状が届いてますよ?」
リードが笑顔で話に入って来て一通の封筒を差し出した。何の招待だろうか?どこかしらのパーティーとかなら無理ですけど?少し警戒する視線をリードに送る。
「ウォーター侯爵令嬢からだよ。頼んでみたんだ。マナーの勉強したいって言ってたでしょ?三人だけのお茶会だよ、最初はそんなに畏まらないのが良いだろうって。」
私の不安を感じたのか、リードが説明してくれた。
そうだ、この国の礼儀とか最低限でも学んでおきたいと思ったのでリードに相談していた。王宮図書館で『淑女の礼儀』なる本を読んでみたのだが、どうにも眠くなる文章でなかなか頭に入って来ないし、やはり実技が欲しいところだったのだ。
「三人て、もしかして私も??」
デイジーが微かに目を見開いてリードを見上げる。
「勿論!デイジー嬢にも直接お礼を言いたいそうだよ。ジル・ウォーター侯爵の御令嬢からのお誘いだからね」
「あ!」
ジル・ウォーター!あの騒動の男性か!!
私は合点がいったが、デイジーはコテンと首を傾げる。外見が幼いだけに、この仕草はとても可愛い。……中身は83歳だけど。
結局、あの騒動は『何者かに操られていた』と言う事が認められ処罰は無い、と言うことらしい。あの気持ち悪い虫―――デイジー曰く寄生虫―――はジルの他三名の男性から出てきた。野次を飛ばしていたのがその三名なのでは?と勝手に想像してしまう。
そしてその四名共、第一王子派だということらしいのだが……。作為を感じるのは私だけでは無い筈。
今後、何事も無く過ぎたら良いと願いたくなる。
「はぁい!仕事、仕事〜〜!!」
リードがパンパンッと手を叩いて発破を掛けたところで、井戸端会議はお開きとなった。デイジーは少し口を尖らせたながらも大人しく帰って行ったが、結局デイジーは何をしに来たのだろう?団服を見せに来た訳ではあるまい?と彼女の出て行った扉を見ながら首を傾げたのであった。
お茶会は一週間後。私は悩んでいた。何しろ着て行く服が無い。研究室のお手伝い分のお給料が出るように、リードが取り計らってくれていたので普段着に関しては問題なく過ごしていたが、お茶会といったら少し気張るんじゃないかしら?
「ねぇ?僕は先程、仕事しようねぇ〜、という意味で声を掛けたつもりだったのだけれど?」
ボーッと考えていると、肩にドシッと手を置かれ、ビックリして見上げるとリードが笑顔で立っていた。目が笑ってないのが怖いです。
ハッとして正面を見ると火に掛けた鍋の中身が沸々と唸っている。慌てて鍋を掻き回す。
やば!!焦がしちゃうところだったわ!!!
「最近薬草が取れなくなってきてるから本当に無駄にしないでよね〜」
私の焦った様子を苦い顔をして見ていたリードだったが、ふと思い出した様に声を掛けてきた。
「そういえば、明日は休みにしていたよね?予定でもあるの?」
「いえ、別にないですよ?」
「じゃあ、出掛けるから空けておいて?」
「え?!良いですけど、どちらに?」
「お茶会用のドレスを選びに?」
「えっ?!リードが選んでくれるんですか?!」
「いや、選ぶのはミナだけど、一人では街に行けないでしょ?護衛してあげるって事!」
なるほど……そういえば、いつもメイドさん達に用意して貰っていて自分で買いに行った事はなかったな。折角だから、ここは甘えておこうか。
「ありがとうございます。明日楽しみにしています」
明日の10時に正門で待ち合わせることにし、その後は久しぶりのショッピングに今からワクワクしながら仕事に集中する事が出来た。
―――――――――なのに。
何故だろう、約束の場所にカイル団長がいるわ。しかもこれは普段着よね?きっと。白い開襟シャツに黒いスラックス。お休みなのかしら。
私、何となくで本当に申し訳無いけど、この方苦手なのよね。リード、早く来て!!じゃないとかなり気不味いわ!
「あの、おはよう御座います?マスタング団長」
色々動揺して思わず疑問形で挨拶してしまった。
「おはよう御座います。聖女様」
おぉう!呼ばれ慣れない呼び名で呼ばれムズムズした!!
「あの、ここで何されているのですか?」
正門でポツンと立っていた体格の良いカイルは結構目立つ。
「リードに聖女様の護衛を頼まれたので、貴女を待ってました」
「えぇっ?!そうなんですか?リードはどうしたんですか?体調崩したとか?」
「いえ、急用が出来たとかで急遽私が。すみません、私で」
申し訳なさそうにカイルが頭を下げてくる。
いやいや、待ってそんな謝らないで!コッチは気不味いだけだから。
「謝らないで下さい!でも、マスタング団長のお手を煩わせるのは申し訳無いので今日は帰りますね」
それでは、と帰ろうとした私の腕がガシッと掴まれた。見上げると恐いくらい真剣な顔をしたカイルの瞳が目に入る。
「私の事は気にしないで下さい!もし貴女が嫌で無いのであればお供させて下さい!」
嫌ですっ!!
どうしよう、恐いわ。私、こういう強引な位真っ直ぐなタイプ苦手だったのね、男性と接する機会が少なかったから知らなかったわぁ。でも私こういうの断れないのよ〜!もう〜〜〜!!!
リードーーーー!!!!
「ドレスを見に行くんですよね。行きましょうか」
カイルは門に着けてある馬車の扉を開けた。カイルは実菜が是とも否とも伝える前にエスコートするべく手を差し出す。
えぇ、えぇ。断れないんです。行けば良いんですよね。行けば。
実菜は覚悟を決めて、カイルの手を取ると馬車に乗り込んだ。
「この馬車は誰の物なんですか?」
「リードの私用の物です。家紋は入ってませんので、中の人間を推測される事はないかと思います」
「リードのですか」
「……あの、聖女様。リードとはどういったご関係ですか?」
「……え?」
か、関係?!上司と部下?ちょっと違う、かな?手伝い、だものね。でも、お給料頂いてるし、上司で良いのかな。
カイルを見ると眉間にギュッと皺を寄せて返事を待っているようだ。
その表情、どんな感情よ?!と思いつつ実菜が答える。
「上司、でしょうか?セシルからリードの仕事を手伝うように…」
「セシル!!」
「ひっ!!」
話の途中でカイルが大きな声を出したので、びっくりして実菜が肩を竦める。
「すみません、セシルとはどういったご関係ですか?」
「……は?」
質問しておいて、その答えの腰を折って更に質問するって、どういう人なのこの人は?!しかもセシルと私って。召喚した人とされた人って知ってる筈よね?
「セシルは、私をこの国に召喚した人で、私はされた人です」
「いや、そういう事では、私が聞きたいのは関係であって…」
首を捻りながら実菜が答えると、彼の期待したものではなかったらしく、ごにょごにょしている。
何故かしら、凄く疲れた気がするのは?尋問されている気分だわ。
「聖女様、あの2人はまだ独身なんですが?」
「はあ、知っています。あの、マスタング団長、それよりも聖女様っていう呼び方、止めてもらえませんか?恥ずかしいんです」
「何とお呼びしたら宜しいですか?」
「皆さん実菜と呼んでくれて…」
「えっ!!!」
「ひっ!!」
今度は何?!びっくりするのよ。何で急に大きな声を出すのよ、この人は。体育系だからなの?
「では……私の事はカイルと呼んで下さい」
「はあ、分かりました」
カイルは俯いて赤い顔でそう言うと、その後は目的地まで黙っていたが、実菜も遠くを見ていた。
早く帰りたい。あの人とだったらこんな事無いのに…。
実菜はボーッとしていたので、自分がそんな事を思った事に気付いてもいなかった。
次の日の朝、第三魔導師団の研究室にリードの名を呼ぶ実菜の大きな声が響いたと言う。
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