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聖女として召喚されたので、期待に応えてみた結果  作者: 珠音


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プレゼンという名の……

なにはともあれ、仕事を始めて暫し経った頃、原先輩と水田先輩が席に戻って来た。


「神倉さぁん、コーヒー飲むでしょぉ?作って来たわよぉ」


実菜が顔を上げると、原先輩の手には紙コップ。

差し出されつい手を伸ばしたが、コップを手にしようとした時、ばちばちと気持ち悪い感覚が手に伝わった。



……何これ、気持ち悪いわ。まるで瘴気みたい。



伸ばした手を引っ込めた時、別の手がそのコップを攫った。


「丁度、良かった。俺も飲みたかったんだよ」


突然の第三者の介入に原先輩も「え?」と、驚いて、見るとコップを手にしているのは、久住先輩という男性社員。


「え?ちょっとぉ、待ってぇ。それ……」


原先輩が止める前に久住先輩は、ごくっと一口飲み込む。そして……。


「ごほっ!!がはっ!!」


吐き出した。


「おいっ!原!……お前、コーヒーもまともに作れないのかよっ?!ひでぇな、何が入ってんだこれ?!」


「な、何よぉ!!あなたが勝手に飲んだじゃないのぉ!」


久住先輩は咳き込みながら、手の甲で口を拭う。咳き込み過ぎて涙が滲んでいた。



何か入れてたの?!

まさか……仕事を断った仕返しで?!

嫌がらせにしても……子供じゃないんだから。

……でも、もう聖女でもないはずなのに、何で異変が分かったんだろ?



「おい。久住、何やってんだよ……って、うわっ、汚ぇっ!」


久住先輩が騒いだ事で周りの社員が集まって来た。


実菜の直ぐ近くの床に、コーヒーがびしゃっと溢れているものだから、まるで実菜がやらかした様な有様だ。


「俺じゃねぇよ。原が不味いもん入れたコーヒー飲ませるから……」


「違うわょぉ!こ、これは……神倉さんが、作ったのぉ!私は料理とかも上手なんだからぁ!不味い物なんか作らないわよぉ!!」


原先輩が顔を赤くさせて言い返していた。



いや、いや、いや!!!それは、誤魔化すにも無理があり過ぎるでしょう!



実菜なら、何をしても何を言っても、文句も言わずにやられっ放しでいるとでも思っているのだろうか。

いや、以前の実菜であればそうだっただろう。自分が取り敢えず謝っておけばいい、とか思っていたに違いない。


実菜は既に呆れるを通り越していたが、それは久住先輩も同じだった。


「お前、本当に馬鹿だな。今、神倉さんに作って来たって言って、渡そうとしてただろうが。すぐバレる嘘つくなよ。これ、お前の所為なんだから、お前が掃除しとけよ」


「はぁ?!嫌よ!!」


原先輩は勢い良く言い返したが、周りのじっとりした視線に気付くと、居心地悪そうに視線を泳がせた。


「はぁ……俺、口直しに自分でコーヒー作ってくるわ。神倉さんも飲むだろ?一緒に行こうか」


「え?……えぇ」


何故だか、コーヒーを誘われた実菜は「コーヒー飲みたかったから、まあ、いいか」と、流されるままに久住先輩の後をついて行った。




「さっきさぁ、たまたまここ通ったら、あの二人が悪巧みしてるのが聞こえたんだよね。

あの二人は同期入社なんだけど……最初から、少し頭がおかしい奴らなんだよ」


給湯室で久住先輩は二人分のドリップコーヒーにお湯を注ぎながら言う。


「えっ?!それじゃ……助けてくれたんですね……ありがとうございます」


正直言って驚いた。久住先輩とは話した事もない。


「因みに、何が入ってたんですか?」


「多分……タバスコ?凄いむせたし、辛かった」


「うわっ!」


久住先輩は思い出したのか、苦い顔をした。


給湯室には調味料なんかも置いてある。これも社員が誰でも使っていい事になっているのだが、それを入れたのだろう。


コーヒーにタバコは聞いた事はあるが、タバスコとは……なかなか見ない取り合わせに、お気の毒さまとしか言いようがない。


「うん……神倉さん、今日みたいに顔を上げてた方が良いよ。可愛いんだし」


えっ?と、久住先輩を見ると横顔しか見えないが、その耳は赤い。


「照れるなら、言わなければ良いのに……」


「神倉さんて、意外と言うねぇ……でも、話しやすい人だったんだね。いつも、俯いてたし、喋らない人かと思ってた。

なんか今日は別人みたいな気がするよ」


久住先輩に苦笑された。



もしかしたら、少し太ったから……結構気にしている……別人に見えるかもだわね。

それに、確かに話し掛けられないように下を向いてる事が多かったし、あまり喋らないようにしていた事も事実だ。


でも、それだと、今回みたいに助けてくれる事もなかったかもしれない。


コーヒー吐き出して、馬鹿にされて、床を掃除する。


そんなの、絶対に嫌よーっ!!



「話し掛けにくかったから、今まで何も言わなかったけど、あの二人と一緒で仕事やりにくくない?大丈夫?」


脳内で実菜が叫んでいると、久住先輩が遠慮がちに実菜を見遣った。



……私、実は、凄く職場の人間に恵まれていたのではないだろうか……あの二人にさえ最初に出会わなければ。






コーヒー片手に席に戻ると、原先輩も水田先輩も仏頂面で机に向かっていた。床が綺麗になっていたので掃除してくれたのだろう。


どちらにしても、味方がいると実感出来た今、楽しく仕事が出来そうな気がして来た。






思っていたよりも平穏な時間を過ごし、午後三時を回った頃、原先輩が部長に呼ばれていた。

何か、きゃっきゃっとやっているが、実菜はなるべくそちらを見ないようにしていた。

だが、原先輩が楽しそうに席に戻ったところで実菜も呼ばれた。


めちゃくちゃ嫌だが、呼ばれてしまったなら行くしかない。実菜を見送る原先輩のにやにや顔を見ると腹が立つので、出来るだけ見ないようにして部長の所まで行くと、物凄く嫌そうな顔で迎え入れられた。


「副社長が呼んでいる。今すぐ副社長室まで行ってくれ」


「え……副社長……ですか?」


今朝の件で何か言われるのかと思ったが、想定外だ。全く身に覚えがない。

実菜が問い返すと、更に嫌そうな顔で返された。


「副社長だ。君……何をしたんだ?どうでもいいが、儂の顔に泥を塗るような事だけは止めてくれよ?話によると、君はどうにも仕事が出来ないらしいからね」



だぁあぁ〜っ!!!誰が、仕事が出来ないだって?!

その話とやらは誰から聞いた?!

少なくとも、お前のお気に入りよりは出来てるわいっ!!



沸騰しそうな腹をどうにか抑え、実菜は部長の話を受け流し、頷いた。



だけど、副社長とは……私、何かしたかしら?



副社長室は二つ上のフロアにある。階段を上りながら実菜は不安になって来た。



もしかして、あの二人が何かしたのかしら?身に覚えがない事でクビとか、絶対に嫌なんだけど……。



折角、仕事が楽しくなりそうだった矢先の事である。そんなアホな理由でクビは絶対に避けたかった。





何故に自分が呼ばれたのか、見当もつかぬまま実菜が副社長室のドアをノックすると、「どうぞ」と、若そうな男性の声が返ってきた。



そういえば、この会社の社長も副社長も若いのだったわね。



社長は学生起業家だ。副社長も同級生だと会社概要には載っていた。

実菜は興味はなかったので、あまり見ていなかったが、二人共イケメンだと入社式で同期入社の新入社員たちが騒いでいた気がする。



そういえば、まともに見るのはこれが初めてかもしれないわ。



「………」


ゆっくりとドアを開けた実菜は目の前の人物にフリーズした。


「やあ、突然呼び出したりして悪かったね。中へどうぞ」


部屋の中で副社長の机から立ち上がって、実菜を迎えてくれたのは、あの色黒のグレーのスーツの男性だった。


「……ふ、副、しゃっちょ……?」


「……?……早く中へどうぞ。神倉実菜さん」


「は……はひ……」



ひ、ひぇっ、名前、知って?!……って、そりゃそうか?

この人が副社長??何だっけ、兼元……そう、兼元副社長!

ひあぁあ〜っ!!副社長の顔くらいちゃんと確認しておけば良かったぁああ!!

しかし、そもそも何であんな所にいたんだ?!

そして、何故に?何故に呼ばれた?!

まさか……まさか、睨んだから?睨んだからクビなのかっ?!そうなのかっ?!



クビになる事前提で、すっかり動揺した実菜が、あわあわしながら中へ入り、副社長の机まで行ったのだが、副社長にくるっと身体の向きを変えられ、応接セットのソファに座らされた。


「早速で悪いんだけど、神倉さん。今日、時間空いているかな?」


副社長は向かいのソファにどかっと座ると、歯を見せてにっこりと笑う。色黒の肌に白い歯がやけに目立った。


「へ?……時間?ですか?」


動揺したままの実菜は考えた。時間とはどういう事なのか、と。


「少し聞きたい事があってね。外で話をしようかと思ったんだ」


「外で……?」


「そう」


何故わざわざ?今、ここで話をするのでは駄目なのか?色々とある疑問に実菜は思わず眉を顰めてしまったが、黙っている実菜にそれを肯と取ったのか「じゃあ」と、副社長は続けた。


「直帰出来るようにして、すぐここに戻って来てくれる?」


「……はい?今……ですか?」


「そう。私は今から少し仕事があるけど、それが終わるまでここで待っていて欲しい」


「でも私も、まだ仕事が残っていて……」


定時まで、まだ二時間程ある。それまでに終わらせようとしていたのだ。


「今日中でなくても大丈夫だろう。悪いけど、切り上げて来てくれ。周りに何か言われるようであれば、副社長命令だと言えば良い」


「……分かりました」






副社長の意図は分からないが、そこまで言うなら大事な話なのだろう。それに、どうやらクビ宣告ではなさそうだ。

実菜が直帰の許可を取りに……非常に嫌だが……部長に報告しに行くと、案の定「何を言っている」と、顔を顰められた。


そんな事を言われても副社長命令なのだ致し方ない。だが、部長には通用しなかった。何故だ。


「今日、これから神倉君には原君のサポートをしてもらう予定だから、帰るのはそれからだ」


「原先輩の……サポート?」


振り返ると、何やら書類を抱えた原先輩がドヤ顔で立っていた。


「原君の企画プレゼンのサポートだ」



……だ、そうだ。



奇しくも、今朝、給湯室で言っていた企画の事だ。最終プレゼンの予定は明日だったはずだが、急遽、今日になったとか。そんな無茶な話があるかと思ったが、どうなっても先輩の事なのでどうでも良い話だった。

しかし、自分が関わるとなれば話は別だ、何より副社長との約束がある。


無駄だとは思いつつ、副社長に呼ばれている事を再度伝えてみた。


「優先順位を考えろ。先輩が困っているんだぞ?」



……だ、そうだ。



部長の優先順位がどうなっているのか知りたいところだが、何を言ったところで無駄なのだろう。

今度こそクビかもしれないと思いつつ、またも実菜は二人の言う事に従ってしまった。


一つ上のフロアの会議室に入ると、ロの字にセッティングされたテーブルに既に専務、常務、が正面。それと横には別部署の部長と主任が着席していた。


手前のテーブルに、原先輩を真ん中にして実菜と部長が着席した。


「遅くなりまして……」


部長が申し訳なさそうに言うが、始まる気配はない。よく見れば正面のテーブルの真ん中が不自然に空いていた。まだ誰か来ていないようだ。


急なプレゼンだからなのか、何なのか、専務と常務はこちらの部長と原先輩にじっとりとした視線を送っていた。

この会社はアプリ開発が母体となっている。その関係なのか社員の年齢層は比較的若い。服装も比較的ラフ。それは専務と常務にも言える事で、つまり若者が年寄りを睨んでいるような感じで違和感があった。


元々、緊張感がある場ではあるのだろうが、何というか、異様な雰囲気が漂っていた。


何とも言えない雰囲気に緊張していると、会議室のドアが開き、誰かが入って来た。


「……副社長」


えっ?と、部長と原先輩も副社長を目で追っている。いつも、社長と副社長は決定した企画を確認するだけなのだ。今日に限って参加するようだ。


副社長は、ちらっとこちらを見て実菜がそこに居る事に気付いただろうが、想定内の事であるかのように、驚いた様子はなかった。


「……さて、プレゼンを聞かせてもらう前に……神倉さん。君は、何でここにいるのかな?」


「すみません!彼女の報告が遅いので、聞いていなかったものですから!」


副社長は実菜に質問したのだが、実菜が答えるより早く部長が答える。しかも、「仕事が出来なくて困ったものです」とか付け加えていた。


「聞いていなかった……では、木根部長。あなたはいつ、何の報告を受けました?会議室に入る前?後?」


「え?それは……」


木根部長とは狸の事である。狸は答えられず視線をうろうろと泳がせた。


「まあ、聞いたというのであれば、現時点では知っているのですね?それなのに何故、彼女をここに留まらせているのでしょう?

……どちらにしても、神倉さん。あなたは退席して頂いて結構ですよ」


狸の返事を待つ事なく、副社長が実菜を促した。


副社長は給湯室での会話を聞いているはずだ。自分がいなくて大丈夫かと一瞬思ってしまったが、これから始まるプレゼンは実菜のものではない事になっている。そもそも、実菜自身、その内容をしっかりと覚えていない。


だったら、退席するのが自然だ。実菜にしてもそれは願ってもない事で「はい」と、立ち上がったのだが、「待って下さい」と、原先輩が声を上げた。


「急でしたのでぇ、神倉さんにサポートをお願いしたんですぅ。彼女も手伝いたいと言ってますぅ」


上目遣いに副社長を見つめながら原先輩が言う。


「それは、あなたのお願いが私のお願いよりも重要だという事ですか」


「……え?」


「神倉さん。原さんが言っている事は本当ですか?」


実菜に火の粉が降って来た。原先輩が実菜を睨み上げている。この期に及んでまだ自分の思い通りになると思っているらしい。


きっと、一年前とかだったら先輩を優先したりしてたんだろうなぁ。と、冷めた気持ちで先輩を見返した。


「いえ、私はすぐに副社長からの言葉を報告しました。ですが、優先順位は副社長よりも先輩の方が上だと言われてここに連れて来られました」


「何言ってんのよぉ!あんたは黙って「はい」って言ってれば良いのよぉ!」


「はい」と、言った時点で黙っていない事になるのだが、それは置いておいて。


原先輩が実菜を座らせようと立ち上がって身体を押さえ付けた。この場でそんな行動に出る先輩には引くしかないが、他の者たちも同じだったのだろう。互いに囁やき合っているのが視界の端に見えた。


さすがの部長も慌てて止める。「どうしたんだ。君だけでも大丈夫だろう?」と、言っているところから、先輩の仕事を全て実菜がやっているという事までは知らないようだ。


副社長はこめかみを揉み込んでいたが、実菜と視線が合うと「退席しろ」とでもいうように視線を動かした。

何故か専務やら常務にも同情的な視線を送られ、戸惑いつつも実菜は席を立った。


実菜は最終プレゼンなど、した経験はない。



プレゼンて、あんな感じなのかしら。皆に睨まれる様にじろじろ見られて……針のむしろに座る思いだわ。



出来ればあんな場所に立ちたくはないなぁ。と、思う実菜だった。

お読み頂き有難う御座いました。

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