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聖女として召喚されたので、期待に応えてみた結果  作者: 珠音


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先輩

誤字脱字報告ありがとうございました。

助かりますm(_ _)m


実菜は頭の中で入念にシミュレーションをしていた。

ほぼ一年ぶりの出社である。自分の手掛けていた仕事すらうろ覚えになっていたのだ。緊張度合いでいえば初出社のそれである。




あの後、無事にマンションまで帰って来た実菜だったが、鍵もスマホも無いという事に部屋に着いてから気付くという間抜けさ。


運良く、下の階に住む親子に遭遇する事が出来たので管理会社に電話してもらい、事なきを得たのだが。


それはいいとして……実菜は久しぶりに短くなった髪を撫でた。


「軽くなったのは良いけど……寒い」


髪の毛って意外と暖かいのね。とか思いながら職場の入っているビルへと足早に入って行った。



大丈夫、大丈夫。覚えてる、覚えてる。



流石に職場のフロアは覚えていた。次は職場の人間である。何せ実菜は人の名前を覚えるのが苦手だ。関わりがなくなると、すぐに忘れてしまう。

なので顔は覚えていても名前が出て来ないという事はよくあった。



最悪、名前を呼ばずに話をしよう。



覚悟を決めてドアを開けると、既に数人が出社していた。その、ひとりひとりの名前を頭の中で確認しながら自分の机に着く。


机の引き出しを開け、ファイルに綴じられた書類を確認した。



あ、そうそう。これは、朝一でやろうとしたやつ。んで、こっちは提出して……これは、データを転送すればいいやつ……。



実菜が記憶を辿りながら、ひとつひとつ確認していると、声を掛けられた。


「おはよぉん。神倉さん」


「おはよう……ごさいます」


気持ち悪いほどの猫撫で声に振り返ると、記憶にない女性が二人。にやにやしながら立っていた。



誰っ?!誰だっけ?この人たちの記憶が全く無いんですけどっ?!



あなた達は誰ですか?と、聞くわけにもいかず、冷や汗をかきながら実菜が軽く混乱していると、二人は至っていつも通りといった感じで書類の束を実菜に差し出した。


「これぇ、今日の私達の分ねぇ。よろしくぅ」


「……はい?」



ん?なんの事だ?私たちの分。という事は、この人たちの分という事よね?何で私に渡すの?



「やっだぁ、神倉さんたらぁ、とぼけちゃってぇ。いつも通り、私たちの仕事からやってねぇ。あ、終わったら、データ転送忘れないでよぉ?この間、忘れてたでしょぉう?

優しいから許してあげるけどぉ、次は怒っちゃうわよぉ?」


「………」



……なんか、無茶苦茶な事を言ってないかしら?この人たち。



未だ二人の事が思い出せない。こうなったら記憶喪失にでもなったフリをするしかないか。

ぽかんとしていたら実菜の机にその書類を置こうとしていたので慌てて止めた。


「あの、ご自分の仕事でしたら、ご自分でされて下さい」


「っ?!」


二人が信じられないものを見る目で実菜を見た。


「やっだぁ……あなたの為に仕事を手伝わせてあげてるんじゃなぁい」


少し引きつっているようにも見えるが、変わらず気持ち悪い話し方でのたまう二人。


「ですが、自分の仕事もありますので……自分の仕事が終われば手伝いますから」


しかし、実菜は折れない。



久しぶりの仕事なんだから、人に構ってなんていられないのよ。勘弁して欲しい。

そして、あなた達は誰なんだ?



「原さん、水田さん。後輩より仕事が遅いなんて、恥ずかしくないの?」


「呆れた」と、いう声と共に、救いの神の様に割って入って来た人がいた。



あぁあっ!!そうだっ!!この二人は原先輩と水田先輩だっ!!……何で忘れてたんだろう?!



実菜のいる部署は、三人か四人で机を固めて島を作るスタイルだ。

この二人……原先輩と水田先輩……と、実菜とでグループになっていた。

そして、救いの神は森本主任。通称お局。


二人を思い出した事で、芋づる式に記憶が蘇って来た。


実菜が全くの新人だった頃に、早く仕事を覚える為と称して二人が自分の仕事を少し実菜に割り振ったのが始まりだった。最初は少しだけだったのが、少しずつ増え、半分になり、全部丸投げになるまでそう時間は掛からなかった。



……あれ?これって……私が……残業続きだったのって……。



実菜は全身から力が抜けそうになった。



ほぼ三人分の仕事してたら、そりゃ、終わらないでしょ!残業して当たり前じゃないのぉーっ!!

全部、私に丸投げって、何なのこの二人!!


……断れなかった、自分の所為か。


っぅわぁあーっ!!一年前の自分をぶん殴って、蹴っ飛ばしてやりてぇーっ!!



しかし、元々が波風立てたくない性格な上に、新人の実菜には断れなかったのである。そして、度重なる寝不足により思考力、判断力は低下し、それが当たり前になって……そして、悪循環。



……って、それって、ほぼマインドコントロールじゃないかぁーっ?!


……恐るべし、睡眠不足。



がっくりと膝をつきたい気持ちを抑え、気が付くと原、水田ペアは曖昧な事を言いながらお局から逃げる様に部屋を出て行った後だった。


「言えば言えるんじゃない!かっこ良かったわよ!」


そう言って、お局……もとい森本主任が実菜の肩をばしばしと嬉しそうに叩く。



あれ?この人、こんな人だったかしら?



森本主任はスラッとしてスタイルもよく、髪型もショートボブ。ザ·バリバリのキャリアウーマンという雰囲気だ。


たけど中身は陰険で、裏では嫌がらせをして気に入らない人間は辞めさせていく。という話だった。

確かに、実菜にも「席を替えるか」とか、他にも何か言って来たのだが、それは虐めやすい席にする為だとか聞いた。



はて?その話は誰から聞いたのだったかしら?



他にも、あの人は実菜をこう思ってるとか、この人はこう言ってたとか、だから付き合うなとか。



……誰から聞いたのだったかしら?



ほぼ、ここのフロアの社員全員が実菜について悪く言っていると言われていた。だから、実菜は全員に嫌われていると思っていたのだ。



間違いなく……あの二人だったわね。何かと付き纏ってたものねあの二人……私を孤立させたかったわけか。

孤立させた方がいう事きかせやすいものね。

でも、そんな面倒な事をするより、普通に仕事した方が早いでしょうに。



実菜とて、全てをまるっと信じ込んでいたわけではない。どちらかといえば、どうでも良い、他人事として聞いていた気がする。「誰とも関わらなければ良いんでしょ?」くらいな感じで。



自分の事なんだから、もっと真剣になれよぉーっ!!



実菜は一年前の自分に突っ込んだ。

いつか静加に言われた「傍観するな」とか、「他人事にするな」と、いう言葉が身に染みる。



でも、あの時はまともな精神じゃなかったんだよぉーっ!!



実菜は誰に言うでもなく、頭の中の誰かに言い訳した。


「神倉さん、どうした?気分でも悪い?」


顔を上げると、黙り込んでいる実菜を心配した森本主任が、顔を覗き込んでいた。


「まぁ、あの二人は古狸のお気に入りだから、これからも何か言ってくるとは思うけど、今みたいに言い返しな。それでも駄目なら、私を頼れ!」



おお!かっこいいです、主任!!



主任は実菜がこれからの事を心配していると思ったらしい。

古狸とは部長の事である。七十歳くらいのお爺さんだ。何故そんな人がここで部長をしているのかは謎だが、このお爺さんはおだてられるのが大好きだ。

原先輩と、水田先輩はそちらのスペックは非常に高い。故に、大のお気に入りなのである。


「主任、ありがとうございます!」


森本主任が目を丸くして実菜を見返した。


「なんか、今日は……目が生きてるね」



……私、どんな人間に見えてたんだろう。





ふぅ。と、実菜は机に向き直る。


しかし、以前、部長に言われた「儂の若い頃は徹夜が当たり前だった」とか、「先輩の仕事も率先してやるもんだ」なんて言葉を思い出して、「あんたが助長してたのか!」と、むかむかしていた。



「……コーヒーでも飲も」



このままでは仕事が手に付かない。気持ちを切り替えようと実菜は席を立った。

この会社は、社員がいつでも飲めるようにと給湯室にはコーヒー、紅茶、緑茶等が常備されている。

実菜は給湯室に向かった。




「……なんかぁ、今日、神倉どうしちゃったのぉ?って、感じ?生意気だったよねぇ。いつも「はい」しか言わないのに」


給湯室の手前で聞き覚えのある声が聞こえて実菜は廊下で立ち止まった。


「多分、お局に何か言われたんじゃなぁい?仕事終わったら手伝ってやる、なんて生意気よねぇ」


原先輩と水田先輩だった。二人は給湯室でさぼっていた様だ。


「どぅするぅ?仕事してると、髪巻いてる時間がなくなっちゃうんだけどぉ」


「あんた、髪巻くの下手だもんねぇ」



おい、おい。あなた方は何をしに会社へ??

……この人たち、何でクビにならないんだ??



正気を保った今の実菜は、この二人には呆れるしかなかった。

その時、ぽかんとしていた実菜の口が後ろから伸びて来た手に塞がれた。


「っ?!」


驚いて振り返ると、グレーのスーツを着た男性が人差し指を口に当て、「しーっ」の仕草をしていた。



いや、しーって……誰……でしょう?このフロアでは見た事ない気がするけど……でも、どこかで見たわね。



体育会系といった精悍な顔つきで、色黒。厳つい感じがするが、どこで見たかは思い出せない。


実菜が、じっと見上げていると、慌てた様子で実菜の口から手を離した。


そんな二人に聞かれているとは知らず、給湯室の中の二人は盛り上がっていた。



「この間の、私のプレゼンだけどさぁ、一次は通ったらしいよぉ」


「えっ、なにそれぇ、どんなやつぅ?」


「知らないよぉ、神倉にやらせたもぉん」


「ずるぅーい。私のもやらせたのにぃ」


「ほぉんと、神倉さまさまだよねぇ。仕事しなくても給料貰えちゃうって感じぃ?」


「えー、じゃぁ、狸に怒ってもらうのはなしにしてやるぅ?」


「それは、駄目でしょぉ。生意気なのは許せないもぉん」


「だよねぇー。でも、狸にバラされたらどぉするぅ?」


「馬鹿な古狸なんてぇ、ちょっとごますってあげれば良いんだから、ちょろいちょろいぃ。それに、あいつよりうちらの話の方を信じるわよぉ」


「あははぁー。確かにぃ」




……こいつら、プレゼン企画を一度に三つも考えるのが、どんだけ大変だかわかってんのかぁーっ?!


むかつく、むかつく、むかつくぅーっ!!!



実菜が地団駄踏みたい気持ちを抑えていると、隣で話を聞いていた男性が、しっしっと実菜を追い払う仕草を見せた。



え、何よ。帰れって言うのっ?!他に何を言うか聞きたいんですけどっ!!



むっ、とした表情を見せてみるが、男性は変わらず追い払う姿勢を崩さない。


実菜は、むぅっと、しながらも仕方なく席に戻る事にした。



あいつらの所為で、コーヒーが飲めなかったわ。



気持ちが切り替わるどころか、ストレスが溜まっただけだった。

お読み頂き有難う御座いました。

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