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聖女として召喚されたので、期待に応えてみた結果  作者: 珠音


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実菜、決断する

「海竜様は何で遊びに来たの?」


肉を焼いてパンで挟んだだけの軽食を、皆でもぐもぐし始めたところで問い掛ける。


「理由がなければいかんか?」



そういう訳ではないけども。



「強きものは孤独じゃからのぉ」


肉だけをはふはふしながら食べていたメイメイが、揶揄するように代わりに答えた。


「そっかー、寂しいのかー。でも、それならシャーリン様も……ロイだって遊んでくれるんじゃないかしら」


「遊っ……あやつらは直ぐに儂を神格化しよるからな。面倒くさい事もあるんじゃ。

……それに、別に寂しい訳ではないぞ」


遊ぶという表現には些か引っ掛かったようだが、要はお友達が欲しいという事よね。と、実菜は理解した。海竜の最後の一言は強がりにしか聞こえない。


「でも、神様なんでしょう?」


「力があるというだけじゃ、別に神ではない」


「ふーん?」



神のような力を持っていると孤独になるのか……。

そういえばメイメイだって、何だかんだ言ってひとりが寂しいからついて来たようなものなんだろうしね。



そこで、実菜はふと顔を上げた。



「……カントラも?」


カントラだって強いはず。カントラは実菜が呼べば来ると言っていたけど、それ以外は何処で何をしてるのかは知らない。


「ホーリードラゴンの事か?ドラゴンは本来、群れで生活する習性の生物じゃがな、お前の連れは元々、怪我を負っていた事ではぐれドラゴンになっていたんじゃ。

一度はぐれてしまうと、仲間には戻れん。おかしな習性じゃな」



つまり、ひとりで何処かにいるのか。

元々仲間と一緒にいたのなら、たまには呼び出してあげた方が良いのかしら。ひとりは寂しいわよね。

……でもカントラって大きいのよね。海竜様みたいに小さくなれるなら呼んでも良いんだけど。



実菜が「うーん」と、唸り出したところで静加がお茶を淹れてくれた。


それを受け取る時、視界の端に白いものが見えた気がした実菜は思わず二度見した。



あれ?今、何かいたよね。ソファーの後ろかしら。



白いといえばメイメイもだが、メイメイは見える所にいる。白い何かが向かいのソファーの後ろに行ったように見えた実菜は、徐に立ち上がりソファーの裏側を覗き込み―――驚愕した。



「…………っ?!?!」



ソファーの裏側に、白く丸っこい塊があった。塊にはちっちゃな羽根が生えている。


「あらら、見つかっちゃったみたいね〜。何で出て来ちゃったのよ。私が実菜に教えるまで待てなかった?」


驚愕する実菜の背後から静加の「あ〜ぁ」と、いうため息が聞こえた。


静加の声を受けてか、その丸っこい塊がもぞもぞと動くと、ソファーの下の隙間から小さなとげとげした頭が姿を見せた。

もしこれが隠れていたつもりであれば、頭隠して尻隠さずどころか、頭以外隠れていない事になる。



「カントラッ?!」



実菜の声に白い頭が振り返る。小さい角に青いビー玉の様な瞳。間違いなくカントラであった。


「何でここにいるのっ?!それにどうしたのよ、この姿はっ?!あなた小さくなれたのっ?!」


実菜の腕に収まるくらいの大きさになったカントラを抱き上げ、矢継ぎ早に問うが、カントラは気まずそうに首を横に向け、実菜から視線を逸した。


「……我には……小さくなるという考えはなかったからな。考えが無かっただけで、出来ないというわけではない」


カントラが視線を逸したまま、ぽつりと返すと静加が笑い出した。


「実菜が全然呼び出してくれないから、寂しくなって海竜様の所に遊びに行ったのよね?

そんで、二人して……何故か家に来たのよね」


「シズカ、儂は……遊びに行くという言い回しは……好かん!」


海竜がセシルの頭の上から抗議の声を上げた。


「じゃあ、何て言うのよ」


「会いに行く……じゃ」


「……一緒じゃない」


実菜は静加とやり合う海竜を見た。そして、その視線をテーブルの下で未だ肉と格闘しているメイメイへと移した。そして、今、腕の中にいるカントラ。



なんか……。



「……珍獣の館」


思わず呟いた実菜の言葉に海竜が素早く反応した。


「おい!今、珍獣と言ったか!それは儂らの事か?!この犬に化けている狐……ええい、ややこしいわ!この狐はそうかもしれんが、儂は聖獣じゃ!言い直せ!!」


「ちょっと!館って……あなた達まさかこのままここに住み着くつもりじゃないでしょうねっ?!」


実菜の一言でまた言い合いを始める静加と海竜。その静加には最早、海竜を神として敬う気持ちはなさそうだ。

そして、頭の上で海竜がぎゃんぎゃん吠えているのに我関せずでお茶を飲んでいるセシル。



セシル……あんた只者じゃないわね。流石、静加を嫁として迎えただけの事はあるわ。



しかし、それはセシルを旦那にした静加にも言える事なのだが、ここでは省くことにする。



「カントラ……ごめんね。寂しかったの?」


カントラは海竜と違い、抱っこされるのを嫌がらない。それどころか、首を伸ばし実菜の肩にぺとんと顎を乗せ、リラックスしているようにも見える。これも習性の違いだろうか。


「いつでも呼べと……念を押しておいたのに……思えば、ジュンコもそうであったな……」


放って置いたら眠ってしまいそうな雰囲気のカントラに、思わず赤ん坊にするように背中をぽんぽんしてしまう実菜であった。




「……んで?何で急に遊びに来たいなんて言い出したのよ?」



人心地着いたところでソファーの向かいに座る静加が切り出した。揶揄を含んだような声色なのは、実菜が海竜にした質問と同じだからだろう。

実菜は用があってここへ来た。だから海竜もそうだろうと思い質問した。静加には実菜が何をしに来たのかもバレているようにも感じる。


実菜は腕の中で眠る……結局、カントラは眠ってしまっていた……カントラを覗き込む。



決心して来たつもりだったけど……気持ちが揺らぎそうだわ。



実菜の微妙な緊張を感じ取ったのか、カントラが目を覚まし、実菜を見上げた。


「何をそんな、世界の終わりみたいな顔をしてるのよ?」


静加に言われ、実菜は無言で静加を見つめた。静加も見つめ返す。二人とも無言だったが、先に口を開いたのは静加だった。


「自分で決めたなら、自分で言いな」



やっぱり、静加にはバレているのか……。



実菜は意を決して口を開いた。


「私……日本に帰ろうと思う」


「うん。……五十点」


意を決して言葉にした実菜は静加の返しにずっこけそうになった。


「……何なの?その点数は」


賛成するでも反対するでもなく、点数とは。相変わらず静加の言動は理解出来ない。


「帰ろうと思った理由を言わないからよ」


何だそれは。と、思ったが実菜は口を噤む。


元はと言えば問答無用で召喚されて来たのだから、帰れるのであれば帰るのが当たり前といえば当たり前である。

ただ理由を言わなかったのは、確固たる何かがなかったからだ。


「実菜は前に……日本に居場所がないって言っていたわよね。今は、この世界に対して同じ様に感じてるんじゃないの?」


そういえば、そんな事を言った事があった気がする。

あれは、アガギア領に行った時だったか。実菜はその時の事を思い出していた。


この世界に来る前の日本にいる時「ここに居て良いんだろうか」という、何とも言えない気持ちを持っていたのは確かだ。

そして今は「居場所がない」というのとは少し違うが、静加の言う通りこの世界に対してそういう何とも言えない気持ちを持っている。


「出来れば、何でそう感じているのかを気付いて欲しかったんだけど……きっと、それも自己防衛本能なんだろうね」


やはり、静加の言う事はよく分からない。だが、黙り込んだ実菜を見て、静加が笑い出した。


「だけど、実菜はその場になれば、ちゃんと気付けるんじゃないかとも思うよ……良いんじゃない?帰れば」


「うーん……反対されるのもどうかなって思うけど、軽く賛成されるのも寂しいわね」


静加の言い方は、まるで近所に行く事に対して「良いんじゃない?」と、言っているようだ。


「ミナ……何処かへ行くのか?」


カントラはずっと実菜を見上げ、見つめていた。


「うん。元いた世界に帰るわ」


もちろん、今日、今、帰れるわけではない。

召喚術を使うには陛下の許可がいる。もしかしたら許可が下りる事はないかもしれない。



正直、ここまでカントラが寂しがり屋だとは思っていなかったけど……でも仲間もいるから大丈夫よね。



「そうか……何処に行っても……我を呼べ」


カントラは言うが、この世界からすれば異世界である。果たして声は届くのか。それとも、いつもカントラたちがいる空間では関係ないのだろうか。


実菜がそんな事を考えていると、実菜を見上げるカントラの瞳がみるみるうちに潤んでいった。


「え、ちょっと……?泣いて……?」


小さくなったカントラの小さな瞳から涙が溢れ出し、両目から大きな涙が零れた。零れた涙は、実菜の膝に落ちる頃には塊となり、二粒の青く丸い石の様になっていた。


「餞別だ。持っていろ……我の事を忘れるな」






それからは早かった。


陛下からは何かしらの条件等が出されるかと思ったが、拍子抜けする程あっさりと許可は下り、日取りも決まり、忙しく挨拶回りをし、魔導師団の皆とお別れ会をして、気付けば帰国?の前夜になっていた。


実菜は自室のベッドに仰向けに寝転がり、カントラからの餞別を手に眺めていた。



一年……くらいいたのかしら。日本に戻ったら……もう、私のこのトンデモな力は無くなっちゃうのよね。

もう少し、暴れておけば良かったかしら。



この期に及んで、実菜はほんの少しだけ惜しいような気持ちが出て来た。

しかし、直ぐ頭を横に振る。



駄目駄目!もう決めたんだから。

……よし!使い納めだ!!



実菜はベッドから勢い良く起き上がると、立ち上がった。






翌朝。


実菜は最初に着ていた服を着る。ボータイブラウスに厚手のカーディガン。コートとマフラーもあるが、ここでは暑いので着ない方が良さそうだ。



そっか、あの時は二月だったのよね。本当に丸一年ここにいたって事か……今二月だものね。

この国は寒暖差が日本ほどではないからそんなに寒いとは思ってなかったけど……帰ったら辛いかもね。

……ていうか、嘘でしょっ?!スカートがきついんですけどっ?!……太った?!



ハッキリ言えば食っちゃ寝生活をしていたのだ。これで太らないはずがなかった。

お腹を引っ込め何とかホックがはまったところで、静加とセシルが実菜を部屋まで迎えに来た。いつもと変わらない雰囲気で。

静加が召喚術の要領で送り出してくれるのだという。


「この世界に来た時と同じ日に送るからね〜」


実菜の服装に少し驚きはしたものの、静加の軽い雰囲気に、実菜は本当に「ちょっとそこまで行ってくる」みたいな錯覚を起こしそうであった。



同じ日に帰れるなんて、タイムマシーンみたいね。

でも、それなら助かる。

行方不明になった人間が突然現れる事になるもんね。



召喚術を施す部屋は決まっており、セシルに案内され向かったのは地下。

実菜は一度ここに来ているはずだが、なにぶんあの時の記憶は曖昧になっている。

静加と二人で「ほぇ〜」と、お上りさんになっていると奥に人影が見えてきた。


「遅かったではないか」


「陛下っ?!お妃様っ?!」


人影は陛下とお妃様であった。実菜を見送りに来たという。

二人はにこにこしながら寄り添っていた。お妃様が元気だと知られた以上、隠す事はないのだろう。



ひぇえー。そんな、見送って頂けるほどの者じゃないんですけど〜。

あ、でも、ちゃんと帰ったのか見届けないといけないのか。帰ったと見せ掛けて、という事もあるでしょうからね。



「息子の不始末により、申し訳なかった。息子に代わり責任を持って見届けよう。

そして……ミナ、そなたの功績は後世まで語り継ごう」



あ、そういえば、私の召喚てデイビッドが関わっていたのよね。その辺、もう忘れちゃってたけど。

それにしても功績って……改めて言われると恥ずかしいんですけど。



実菜がむず痒くなっていると、そんな気持ちを知ってか知らずか、セシルは奥の部屋の扉に手を掛けた。


重々しいその扉を開くと、その部屋の床の中央にはでかでかと魔法陣が描かれているのが見えた。



「さて、ご準備は宜しいですか?」


部屋に入ったところで、セシルが実菜に問う。


結局、静加とセシルのお陰で感慨深いなんて気持ちには一切なる事はなかったけど、それが「らしく」て良い。


「ちょっとだけ待って」


実菜はそう言うと、ポケットを弄る。目的の物を手に取ると、静加の手を取りその手にその物を乗せた。


「……これ?」


「二つあるから一つは静加にあげるわ。何でも浄化しちゃうし、はね返しちゃう力を付与しておいたから」


「何でもありね」


昨夜、カントラの餞別の石に付与したのだ。静加は何でも出来ちゃうから要らないかもしれないけど、実菜は記念に何か贈りたかったのだ。

もちろん、実菜の分の石にも付与してある。それがこの世界ではない場所でどう働くかは分からないが、要は思い出の品が欲しかったのだ……この世界での出来事を忘れない為の。


「ありがとう。大事にするわ」


静加はきょとんとしたが、直ぐ笑顔になり、青い石をポケットに仕舞った。


「私からは……お願いがあるの」


静加はそう言うと、石を仕舞ったポケットとは別のポケットから封筒を取り出した。

今度は実菜がきょとんとした。


「何これ?」


「餞別でなくて申し訳ないのだけれど、これを息子に渡してくれない?出来れば手渡しで……駄目なら一応、住所も書いてあるから」



そうか、養子の息子さんにしたら、養母が突然亡くなった事になるんだものね。

手渡しって事は、経緯も説明して欲しいって事かしら。



「任せて」


実菜は、少し厚めのその封筒を素直に受け取ると頷いた。


「これが餞別になるように祈ってるわ」


静加が言うが、やはり最後まで静加の言葉には疑問符が飛ぶ。





セシルに促され、実菜が魔法陣の中央に立つと、静加がその陣の端に手をつき魔力を込め始めた。

次第に陣が赤く光り始め浮かび上がっていく。



あれ?ちょっと待って、私……何処に帰るの?

いや、日本なんだけども。静加が言っていたのは日付の事だけだったわね?

自動的に私の部屋に行くの?

それとも……?



「ちょっと、待っ……」


確認しようと実菜が口を開いた時には、赤い光りは眩い白い光りへと変わり、螺旋を描きながら上へ上へと昇り出していた。風が巻き起こっているのか、静加の髪やローブが激しく靡いていた。


光りの螺旋は実菜を包む様に回り始め、無重力の中にいるような感覚になる。

そんな中、実菜は大声を張り上げた。



「私、何処に着地するのーっ!!!」



しかし、実菜の声は虚しく眩い光りと風に掻き消され、静加には届いていない。

完全に光りに飲み込まれる瞬間、静加が手を振っていたように見えた。



「言葉が足んないのよー!!!」



気付かなかった実菜も悪いのだが、実菜の叫びは無重力の様な、どこかに引っ張られる様な形容し難い光りの空間に溶けた。

最早、異世界ではなくなってしまいますが、最後までお付き合いして頂けたら嬉しいです。


お読み頂き有難う御座いました。

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