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聖女として召喚されたので、期待に応えてみた結果  作者: 珠音


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思い出

ある晴れた日。

雲ひとつ無い青空の下、王宮の門を出た実菜は大きく伸びをした。


「ふーっ!!やっと出られるー!!

んー。気持ち良いわねぇーっ」


今日は休みなので、久しぶりに静加の家に遊びに行くところである。

実は、実菜の休みは特に決まってない。何故なら仕事をしてもしなくても特に問題はないとされている立ち位置にいるからで……つまりは用無し……と、考えるとヘコんでくるので、実菜はそこは考えないようにしている。

と、いうわけで実菜は静加の助手という形を取っている手前、休みを静加と同じ日にしていた。


そして、何故「やっと出られる」というボヤキとも取れる言葉が実菜の口から出たかというと、今日の実菜の装いに関係していた。

今日の実菜は町娘風のビスチェドレスを着ている。色も地味な焦げ茶色だが、実はこれは実菜の物ではない。


―――遡ること数刻。


休みにも関わらず、いつもの師団服で意気揚々と外に出ようとしていた実菜は守衛に止められた。


「聖女様、おひとりで外出されるのですか?」


「うん。そうだけど」


真面目な守衛は、供を付けなければ通す事は出来ないという。

実菜は一人行動も普通にしているので、何も考えていなかったが、それは王宮内に居たからか、と納得はした。

だが、今から誰かに頼むのも難しい。というか、面倒くさい。


「どうしても駄目かしら……だって、静加の家、すぐ近くなのよ?!」


静加の屋敷はここから十五分ほどなのだ。尚も食い下がれる実菜に、守衛も面倒になったのか「せめて服装を替えて下さい」と、言う。

つまり、変装して聖女だとバレないようにしてくれということを言い出した。

確かに聖女の師団服の色が白か黒なのは周知されている……実菜は専ら黒を着用しているが……一人のところを襲われる可能性を心配しているのかもしれないし、個人的に誰かと仲良くしていると知られるのも問題があるのかもしれない。


「でも、これ以外の服を持っていないのよ」


問題があるのかもしれないとは思いつつも、着替えに戻るのが面倒だった実菜は小さな嘘をついてしまった。これがいけなかった。


守衛がメイドを呼び、何やら話をすると、そのメイドが満面の笑みで実菜の腕を取った。


「お任せ下さいませ。聖女様」


何を任せるというのか。実菜は、にっこりと微笑むそのメイドに嫌な予感しかしなかったが、もう遅かった。



長い廊下を歩き、階段を上り、着いた先はドレッサーも置いてある衣装部屋のような所であった。しかも、かなり広い。



何ここ、王宮には洋服屋も入っているわけっ?!

ああ〜、これなら自分の部屋に戻った方が早かったよ〜。



実菜は天を仰いだが、時すでに遅し、後の祭りというやつだ。


いつの間にかメイドの数が五人に増え、実菜本人そっちのけで、きゃっきゃとはしゃぎながら服を選んでいた。

しかし、そのメイドの内の一人がどうにもメイドらしからぬ服装をしている。落ち着いたピンクベージュのドレスの袖はヒラヒラとして長く、スカートも床に着くほど長くふんわりしていた。


「まあ!これは……ケビンとはまだ婚約者だった頃、夏祭りにお忍びで行った時の物ですわ……懐かしい〜!!

ねっ!これなんてどうかしら?」


「王妃様、素敵でございますけども、今回は少しばかり通りを歩くだけでございますから……こちらなんていかがです?」


「そうねぇ〜」


耳に飛び込んできたメイドたちの会話に実菜はぎょっとした。瞬時に背中に冷たい物が流れる。


「お……ひっ……?!」



そりゃ、メイドらしいはずがないじゃないの!!……いや、でも……こんな所に何故?!

いや、待て待て。もしかしたら、あだ名という線もある?



そんなあだ名など、つけるだけで不敬罪に問われそうだが、実菜の口から思わず悲鳴の様な声が漏れた。

その声に、ピンクベージュのドレスの女性が振り返る。そのお顔は陛下と同年代を窺わせるが肌艶は良く、整った目鼻立ちは今でも美しさを保っていた。


「あらあら、ごめんなさいね。申し遅れましたわ。私、アイリーン·ウォーレンスです。ケビンの妻をしていますわ!

うふふ。はじめまして。ですわね、聖女様。

まさか、こんな形でお会い出来るとは思いもしませんでしたけど。うふっ!」



ケビンの妻って……妻って……それって、つまりお妃様って事だよねぇー!!うふっ!って、何よー!

いや、有り得ない、お妃様がこんな所に来るはずがない。

これは……そう!ドッキリよ、ドッキリ!!

うわーっ!!ってなった所でカメラが入って来て……こう……って、早くネタばらしに来てよー!!



すっかり混乱している実菜を見て、アイリーンはまるで悪戯を成功させたちびっ子のような笑みを浮かべた。


「私も、若い頃はよくお忍びで街に出掛けたのよ!良かったら好きなのを差し上げるわ」


「はぇっ?い……いえいえいえ、そそそんな、恐れ多すぎまふっ!」


テンパり過ぎて、どもるやら噛むやら、わたわたしている実菜がおかしいのか、アイリーンは扇で口元を隠し肩を揺らしている。



その後は、アイリーン自らがいくつもの町娘風ドレスを陛下との思い出と共に紹介してくれた。


中でも、一番地味とも言える焦げ茶色のドレスは、陛下との初めてのお忍びデートで着たもので、一番思い入れがあり、大事に仕舞って置いた服だという。

それを語るアイリーンは、嬉しそうに頬を染めて、まるで十代の少女のように見え、実菜はほっこりと胸が温かくなった。


「……だから、これなんかどうかしら?」


アイリーンはたった今、陛下との甘酸っぱい思い出を切々と語ったそのドレスを実菜の身体に当てたまま微笑んでいる。


「ええっ?!」



これは……これは、どっちなのっ?!素直に受け取って良いの?!それとも辞退すべきなのっ?!

だって、すごい大事に取っておいたって、今言ったよね?!



「素敵ですけど……でも、そんな大事な服を頂くのは……」


「何を仰るのっ?!聖女様は私の命の恩人ですもの。私の思い出などでは安すぎなくらいですわ!」


取り敢えず一旦遠慮をしてみたが、アイリーンに遮られた。

しかし、命の恩人とは、少し大袈裟過ぎやしないか。実菜はきょとんと首を傾げた。


「まあ!私ったら!お礼も申し上げず、ごめんなさいね!

その節はどうもお世話になりましたわ。ありがとうございました。お陰で今、私はこうして元気に生きていられますわ」


アイリーンが慌てた様子で礼を取るが、やはり実菜にはピンとこない。

見兼ねたメイド……恐らくアイリーンの侍女……が実菜へ改めて説明した。



アイリーンは産後の肥立ちが悪く、ずっと思わしくない状態であったが、十年ほど前からは起き上がる事も出来なくなり寝たきりになってしまっていた。

そこへ聖女様が現れ、回復薬をつくった。そして、その回復薬を飲んだところ、今までの体調が嘘のように元気を取り戻したのだという。


「ケビンがこっそり飲ませてくれましたの!」


アイリーンは、やはり嬉しそうに頬を染めて内緒話かのように両手を口に当てた。



別に、こっそりする必要はないのに。

でも、そう言った方が特別な感じがして嬉しいのかもしれないわね。

なるほど、大事な思い出を差し上げるくらい感謝していると、そういう事か。

ならば、受け取らない理由がないわね。



実菜は素直にそのドレスを受け取る事にした。


「うふふ。今日は久しぶりに若い方とお話出来て楽しかったわ!

私を心配した陛下から公務は止められてるし、リリーは忙しくて誘えないし、暇で仕方なかったの!」


元気になって暫く経つが、心配した陛下が部屋からも中々出してくれないのだという。なので、実菜へのお礼も出来ず、機を窺っていたのだとか。


陛下の意外な恋愛事情を聞きながら、実菜はのんびりとそのドレスに袖を通していたが、気付けば太陽は高い所まで昇っていた。






*****


「……という訳なのよ」


「ふーん?」


実菜は、静加、セシルご夫妻宅のエントランスで事の次第を説明していた。……何故かセシルに。

屋敷に到着した時にセシルが出て来て「遅かったね」と、言われたので説明するに至ったのだが、セシルの返事は素っ気ないものだった。


「陛下の前でお妃様の話をすると、陛下が沈んでしまうから、話に出さないのが暗黙の了解だったんだけど……なんだ、元気になってたんだ」



なるほど、そういえばお妃様の話は今まで聞いた事が無かった気がするわ。そういう事だったのか。

……うーん。それよりも……気になるものが今、目の前にあるのだけれど……。



「……セシル?」


「何?」


「ずぅーっと、気になってたんだけど……その頭に乗っているものは何?」


実菜は午前中の出来事を説明している間も、いや、セシルがエントランスに出て来た時から、ずっと気になっていたのだ。

セシルの頭の上にちょこんと乗っている緑色のイグアナの様な生き物が。


どこかで見た事のあるそのイグアナと、説明している間も目が合ったりしていたのだが、これは実菜にしか見えていないものなのか、それともセシルのボケなのか、もし実菜にしか見えていないのであれば下手に言って変人扱いされるのも嫌だ。

セシルが何も言わないのであれば、見えていないのであろうけど、気になり過ぎてとうとう聞いてしまった。まさか、気付いていないという事はないだろう。


「……頭?……って、あぁあっ!!!また乗ってんのか!」


セシルは実菜に言われて頭に手を当てた所で気付いたようだ。イグアナの腹部分をむんずと掴み、ベリっと頭から引き剥がした。



まさかの「気づいていない」が正解だった!!

しかも「また」って、何?!



「気付かなかったの?頭に乗ってんのに?」


セシルの感覚はどうなっているのだ。と、若干呆れつつそのイグアナをセシルから受け取り抱き上げた。


「……なんだ、無視しとるのかと思ったぞ」


言いながら、抱っこされるのには抵抗があるのか、いやいやと胴体を捩らせ暴れていた。これには既視感がある。


「やっぱり、海竜様だったのね。どうしてここにいるの?シャーリン様は?」


「鏡があるからな。何かあれば分かる」


「遊びに来たの?」


「遊っ?!……まぁ……そんなところじゃな」


実菜の腕から逃れるのを諦めたのか、大人しくなった海竜は実菜の腕にこてんと頭を乗せた。


「なんかコイツさ、直ぐ僕の頭に乗ろうとするんだ。何でかな?」


セシルが不思議そうに言うが、実菜に聞かれても困る。それよりも、喋る生き物に馴染みすぎているセシルの方が不思議だ。しかもコイツ扱い。

実菜はじっとりとセシルを見つめたが答えが出るわけではなかった。


「そうだ、静加は?」


屋敷に到着してから結構な時間が経っているが、肝心の静加がまだ出て来ていない。


「あー、ミナが遅かったから庭の方に出て行ったと思うけど?」


セシルがそう言いながら庭の方に向かう。実菜はその後に続いた。

直ぐに、しゃがみ込んだ静加の背中とメイメイのお尻が見えた。静加の両側に引き抜かれた草が積み上げられているのを見るに、草むしりをしていたようだ。

そのむしられた草の量に、相当待たせたのだという事実が表れていた。


「シズカー!」


セシルの呼び声に、静加が首だけ振り返りセシルを見上げた。


「あ!セシル!見て見て!この葉っぱ……すごく丸くないっ?!」


「本当だー」


「ね!この石も……めちゃくちゃハートの形!!」


「本当だー」


楽しそうに葉っぱや石を見せつけている静加に対し、気のない返事を返すセシル。気のないというより、戸惑っているようにも見えた。



そりゃ、そうよね。だから何?って、話だもの。

そんなの集めてどうするのかしら。

それに付き合って返事してくれてるだけでも良し。って、感じよ。



しかし、セシルの態度に不満があったらしい静加はじっとりとした視線をセシルに向けたと思ったら、次第に頬を赤らめそして膨らませていった。

これにセシルは本当に戸惑った。


「ちょ、あれ?怒ってる?何で?」


「……ふーっ。そりゃ、そうか。馬鹿みたい」


静加は何やら小さく呟いた後に実菜の存在に気付き、手を振った。


「あっ!実菜!遅かったじゃない!ふた仕事くらい終わっちゃったわよ!」



うーん。ひと仕事ではなく、ふた仕事。そんなに待たせて悪かったわよ。

その前に私は聞きたい。その葉っぱや石をどうするのかと。



静加は手にしていた葉っぱと石をぽいっと落として立ち上がると、気の毒なほど戸惑っているセシルを置いて、こちらに向かって来た。



捨てるんかいっ!!



「静加……セシルは良いの?」


「うーん。良いよ」


振り返れば、セシルは未だその場で立ち尽くしていた。



「もうこんな時間か……何か軽い物でも作るから座って待っててー」


エントランスに入った所でそう言うと、静加はキッチンへと入って行った。

実菜は言われた通りソファーに座ろうとしたのだが、その実菜の肩を、セシルがちょいちょいとつっついた。


「ねぇ、僕……何か怒らせる事をした?」


エントランスに留まるよう実菜の腕を掴んだセシルが泣きそうな顔で問う。

先程の静加の態度の事を言っているのだろうが、実菜にだって分かりはしない。


「えー……と。どうなのかしらね。もしかしたら何もしてなかったから?とか?」


適当ともいえる返しをするとセシルは眉を顰めた。


「何をしたら良かったの?」



だから、それは知らんて!!



「女とは謎の生命体じゃ。知ろうとしても無駄じゃ」


再びセシルの頭に飛び乗った海竜が知ったふうな事を言う。

セシルは、もう慣れてしまったのか海竜をそのまま好きにさせていた。


「海竜様は何か身に覚えがおありで?」


実菜の揶揄に、伏せなのか、ふて寝なのか海竜はセシルの頭に顎をぺとっとつけると、無言で目を瞑ってしまった。



「ちょっとーっ!!そっちで、ごちゃごちゃ何やってんのーっ?!」


キッチンの方から静加の声が飛んで来た。その声に焦ったセシルが慌てて走って行く姿が何だかおかしくて笑ってしまった。

お読み頂き有難う御座いました。

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