魔物討伐ですか?いいえ、入団試験です②
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懐中時計で時間を確認する。
「そろそろ出発するぞ?」
「はい」
緊張しているのか、いないのか。終始無表情で全く感情が読めない。その辺に散歩に行くかの様な気軽な歩みでデイジーは森の中に入って行く。少し開けてロイも森に入って行った。
数メートルも行けば木々が生い茂り薄暗くなってくる。決して平坦では無いその獣道を前を歩くデイジーはサクサク歩いて行く。時折、鳥の鳴き声の様なものも聞こえてくるが可愛いものでは無い。
あの鳴き声はキメラの群れかもしれないな。
半年程前の試験ではこの森はマンイーターとスライム位しか出なかったと思ったが……。
そんな事を考えていると、前を行くデイジーの右手側の茂みの奥からスルスルと植物の太い蔓が伸びて来るのが見えた。
人食い植物のマンイーターか。彼女は気付いていない様だな。捕まると厄介だが……ギリギリまで様子を見るか?
相変わらず正面しか見ずにスタスタ歩くデイジーが心配になった。が、彼女の脚に蔓が届くか。という瞬間、一瞬にしてそれが灰になり茂みの奥の方で「ギィイィィィ……!!!」と耳障りな叫びと共に黒い煙の様な瘴気が漂って来た。時を同じくしてロイの左背後からも断末魔が響く。ハッと振り返ると瘴気が漂っている。
まさか!私も狙われていたのか?!
デイジーに気を取られ全く気が付かなかった。ヒヤリと冷たい物が背中を伝う。
デイジーを凝視する。何事も無かったかのように始めと変わらぬ歩調で進み続けている。振り返りもし無い。まるで、その必要は無い。とでも言うように。
ロイは混乱していた。
何が起きた?何をしたのだ?瞬殺だったぞ?と言うより……彼女がやったんだよな?!
森の中心部に差し掛かると急に視界が開けた。ロイは眉を顰め、思わず歩みを止めた。
こんな広場のような場所は無かったはずだが……?泉があるという事は中心部に違いはないはずだが。まあ、今は瘴気の溶けた『瘴気の黒い泉』なのだが。
辛うじて生えている草も黒く変色している。瘴気により木々が枯れ、腐ってしまって赤黒い地が顕になってしまった。ということか。
……半年程度でここまで酷くなるとは。
「バシュンッ」
頭上で小さな爆発音の様な音がし、ハッと我に返る。
しまった!私としたことが!今は集中しなければ!!
見るとデイジーに向かって四体のスライムが飛び掛かろうというところだった。が、先程の爆発音と同じ音を出しながら全てのスライムが消滅した。勝手に消滅した様に見えた。
まただ……。彼女は何をしたんだ?
デイジーは立っていた。立っているだけ、の様に見えた。が、静かに振り返りクリっとした蒼い瞳でロイを見つめ、鈴の音の様な声で言葉を紡ぐ。
「副師団長様?ぼんやりしていると、危ないですよ?」
――――――この少女は、何者だ?!
「ああ、すまない。少し考え事をしてしまった」
かなり動揺しながらも、嫌味とも取れる彼女の言に何とか言葉を繕う。
当たり前ではあるが、彼女が魔物を倒しているのだ。確かに強い魔物ではない。ではないが、指一本動かさずに複数の魔物を倒すなど……しかも無詠唱。
そもそも詠唱しない、と言うのは集中力を要するし、力が弱まる事が多い。よって好き好んで無詠唱で戦う者は皆無と言って良い。
どういう術なのかは正直自分には分からなかったが、必要最低限の力で倒した様に感じた。―――師団長など、この森を全焼させる気か、という様な雑な火炎魔法ばかり使うというのに。
相当な高等技術なのではないだろうか?
若いとは言え、こんな逸材が今まで注目されていないのは不自然だ。―――――隠れていたのか?何故?
それ以上ロイには関せず、デイジーが歩き出そうとした時だった。
「うわあぁぁぁ〜〜!!!」
「助けて〜〜!!!」
ウォルとシェーンの叫び声が聞こえてくる。何故、入口方面から聞こえるのか。思わず舌打ちが出る。
しかし安全を優先しなければならないのは事実。助けに行かなければならない。デイジーを振り返り「ついてきてくれ!」とだけ声を掛け、二人の声のする方へ走り出した。
暫く走ってから気が付いた。
えっっ?!彼女がついてきてない!!
置いてきてしまった?!彼女の足に合わせていなかったのは不味かったな。
魔法技術は高くても体格は少女だったことを思い出し、もと来た道を戻るが彼女がいない。
いくら足が遅くても流石に遅すぎる。泉まで戻ってしまうぞ?
案の定、泉の側にしゃがみ込むデイジーが見えた。具合でも悪くなったか?まだ距離がある所為かこちらに気付いていないようだ。ロイは声を掛けようとして――――――目を見張った。
その場に立ち上がり、何かを捧げるかの様に両手を掲げたデイジーの両手から眩い白い光が溢れ出し、次から次へと泉へ零れ落ちる。
零れ落ちた光は泉を光で満たしていき、やがて泉自体が白い光を放っている様に見えた。
その光が弱くなり消えると泉の水が透明に変化していた。が、次第に濁っていき元の黒い泉に戻ってしまった。
「……なるほどな」
彼女は考え込むように腕を組み呟くと、暫し泉を見つめていたが、こちらに歩き出したところで声を掛けに行く。飽くまでも今ここに戻って来ましたと言う体で、だ。一応、気配は消している。見ていた事は気付かれては居ないだろう。
今度はちゃんと彼女を伴い二人の元へ向かうと、入口近くでマンイーターの蔓に捕まって宙に浮いていた。
デイジーの身長と同じ位の大きさのヒマワリに似た花だが、ヒマワリで言えば種が出来るところがパックリと開き鋭い牙が光っている。
正に今、喰われようとしているところだった。正直な事を言えば、ウォルのことは是非喰って欲しいところなのだがそれが許されないのが残念でならない。
「デイジー嬢、マンイーターを灰にしてくだ……」「ボワンッ!!!」
本当に無意識に口に出てしまったのだが、言い終わる前に一瞬でヒマワリが炭と化していた。相変わらず彼女は無表情を貫いているが。
圧巻……としか言いようが無い。
もう感心するしかない。
蔓も瘴気と化した事でウォルとシェーンが空から降ってくる。恐らくシェーンは捕まった時点で気を失っていたと思われる。ウォルは直ぐシェーンを介抱していた。今、忙しいので聞く耳持てません。とでも言いたげだ。
いや、そんな事で私は誤魔化されないからな。
「ウォル」
ロイの低い声が響き、ウォルの肩が飛び上がる。ギギギ……、とゆっくり振り返りロイの顔を仰ぎ見る。今度こそ有耶無耶にはされないからな。
流石に受験生の前で叱る訳にもいかず、王宮迄の道程を魂の抜けた様な顔のシェーンとウォルを見ないようにした。視界に入れたら怒鳴り付けてしまう。
大方は入口付近で私達が通り過ぎるのを待ち、頃合いを見計らって入口に戻って来る予定だったのだろう。入口と出口は近い。グルッと一周して来るようなものだからな。
王宮に戻るとシェーンには、不正と取れる試験内容だったとし、今回は見送りとの旨を伝え帰らせた。納得した様だったが、元々の顔色が悪い所為で感情が分かりにくい。しかしこれで抗議文でも送ってくるようであれば、少し内情を探る必要があるかもしれない。
デイジーには書類の連絡先に通達するとし、帰らせた。
彼女は浄化をした。いや、正確にはしようとした。なのだが……。
「……これは報告案件か。」
ロイは帰って行くデイジーの後ろ姿を見つめて呟いていた。
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