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聖女として召喚されたので、期待に応えてみた結果  作者: 珠音


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死ねると思うほど恥ずかしくなる事ってあったりするよね

「いいなぁ……」


王宮の最上階のバルコニーで実菜は人知れず呟いていた。

その視線の先には大きなバルーンが街の上空に浮かんでいる。その白地のバルーンにはレイン様とリリー様が映し出されていた。


今日はお二人の婚姻の儀、お披露目パレードが行われている。最上階とはいえ、パレードの隊列は見えないが紙吹雪が舞っている辺りにお二人がいらっしゃるのだろう。そして、バルーンに映し出されているのは現在のご様子。生中継というやつだ。これであれば、遠くからでもお二人を見る事が出来る。


静加とセシルは甘い雰囲気が一切ないから何とも思っていなかったが、シャーリン様とロイに続きデイビッドとアリス、そして今日のレイン様とリリー様。

デイビッドとアリスも、今日婚姻の誓約書にサインした。もちろんレイン様とリリー様の後に、ひっそりとだったが。

本来、証人などは必要ないらしいのだが、何故か実菜は「証人になって欲しい」と、頼まれサイモン伯爵と共に二人の婚姻の場に立ち会った。

華やかな衣装などでは無く普段着ではあったが、慎ましく誠実に生きていこうという覚悟が感じられ、不覚にも感動してしまった。


そして、アリスのあの変貌ぶり。



孤児だったから知識が無かっただけで、ちゃんと教育を受けてれば最初からちゃんとしてたんだろうなぁ。

それにしたって、この短期間で変わるのは容易な事じゃないわよね。



「あれが愛の力というものなのね。そしてこれが……第一次結婚ラッシュというものかしら」


果たして、この国にそんな言葉が存在するかは不明だが、実菜がこの国において行き遅れだという事は明白だった。


「結婚されたいのですか?」


ふいに声を掛けられ、振り返るといつからいたのかバルコニーに出る窓の前でリュートが笑みを浮かべて佇んでいた。


「リュート、残っていたの?」


今日は殆どの者がパレードの護衛で王宮を離れている。静加も例外ではない。


「ええ、王宮ががら空きなのも問題ですし、そもそも俺はどちらかと言えば頭脳派ですし、それに……ここに聖女様もいらっしゃいますから」


そう言いながらリュートは実菜の隣に立ち、バルーンを眺めた。確かに火事場泥棒的な輩がいない訳ではないので、王宮はいつも通りの警備はされている。


「あのバルーンはリュートが作ったのでしょう?凄いじゃない、この短期間で」


バルーン自体は魔導師団の浮遊術で浮かせているのだが、撮影し映し出す魔導具はリュートが話を受けてから一ヶ月足らずで完成させた。


「はは。シズカがやたらリアルに注文してくるものですから、イメージし易かったのですよ」


「夜だったらもっとはっきりと見えるんでしょうね」


映画館のスクリーンみたいな感じなのだろう。周りが明るい所為で映像は薄っすらとしていた。


「夜だったら……なるほど。勉強になります」



もしかしたら、この魔導具を改良すればテレビの様な物が作れるのではないかしら。もう既にテレビ電話はあるしね。

あ、でも、それだと全て生放送になるわね。ニュースは良いけどドラマとかだと大変ね。



「で?ミナさんは結婚したいのですか?」


実菜がどうでもいい心配をしていると、リュートが先程と同じ質問を繰り返したのだが、実菜が黙り込んでしまった事で話を切り出すのに緊張したのか、その声が裏返った。しかし、実菜はそんな事は一切気にしない。


「結婚……相手がいればしたい。かな?」


別に結婚を否定している訳ではないし、かと言って誰でも良いわけではない。実菜は無難な返事をした。「いいなぁ」と、呟いてしまったのはそういう相手に巡り会えたんだぁ。良いなぁ。という感情である。


「なるほど……つまり、今はいない。という事ですか」


リュートは「ふむ」と、何やら考えるポーズを取ると、真剣な表情になり実菜を覗き込むようにして見つめた。それに気付いた実菜もリュートを見つめ返す。



こんな間近でリュートの顔を見た事なかったけど、意外と睫毛が長いのね。

うん。ユウリンと少し似ててよく見ると綺麗な顔だわ。イケメンと言っていいかもしれない。

それにしても、何でこんなに見られてんだろ。私の顔に何かついてる?

あ!!もしかして、リュート……。



リュートは暫し実菜を見つめていたが、意を決して口を開いた。

が、実菜も同時に口を開いた。いや、実菜の方が若干早かった。


「誰か紹介でもしてくれるのっ?!」


不意をつかれたリュートは表情を崩し、視線を泳がせながら口をぱくぱくとさせている。


「ふぇっ?いや……そうではなく……あの、うー……あ、そうそう。ユウリンは凄く元気になりましたよ。今度、家に来ませんか」


「そうなんだ!今度、静加と行くわ。元気になって良かったわね!」


「……ええ、まあ……そうですよね。二人セットですよね」


リュートの誘いに満面の笑みで答えた実菜だったが、何故か死んだ目をして実菜から視線を逸らし意味不明な事を呟くリュートに、流石の実菜も違和感を覚えた。



どうしたのかしら、今日のリュートは随分と表情が豊かだわ。というより、情緒不安定?

……あ!!そうか、久しぶりに徹夜とかして疲れているのね!

なぁんだ、そんな事なら早く言ってくれれば良いのに。本当にリュートは遠慮しぃなんだから!



「リュート!任せて!しっかりヒーリングしてあげるからね!」


「……何で、そうなったんです?」


笑顔で両手をわきわきとさせている実菜に、リュートが恨めしそうな視線を送った。


「違うの?」


「……もう、いいです。血迷った俺が悪いんです……俺の事は忘れて下さい」


「はい?」


「いや、違った。俺の事は気にしないで下さい」


「え?ごめん、何の話をしているの?」


「何でもないんですー!!」


すっかり困惑した実菜はリュートの腕に手を伸ばしたが、リュートはそれを振り払うようにしてバルコニーから走り去った。


「……て、おーい」


ぽつんと残された実菜の手が虚しく宙を掴む。



やっぱり疲れているんじゃないの?それとも私が何か悪い事を言っちゃったかしら。

それにしても……なんだか、フラレた気分だわ。



実菜は伸ばした手を見つめると静かに戻した。







*****


リュートはバルコニーから離れ廊下まで来ると、ふらふらと廊下の壁に張り付くようにしてもたれ掛かった。



そうだ、よく考えたら……いや、よく考えなくても……彼女は聖女なのだ。特別な存在だ。相手も特別でなくてはならないはずだ。俺で良いはずがない。



「……しかし、気付かないものかな」


静まり返った廊下で独りごちるリュートに返事を返す者はいない。



いや、男女の機微云々に疎くても仕方ない。何故なら彼女は特別な存在だから。感覚も特別なのだ。



リュートはそう己に言い聞かせ、べとっと頬を壁に押し付けた。ひんやりとした壁が熱を持った頬を冷やしてくれて気持ち良い。



確かに特別な存在だと思っていたからこそ、今まで何のアプローチもせず見守っていたし、頼るなんて以ての外だったのに。

アンニュイな雰囲気に思わず……。



リュートは気恥かしくなり、壁をどんどんと叩いた。


「……馬鹿な事を口走らなくて良かった」



そもそも、あの天然風味が良くない。しっかりしていそうで、中身はすっかり抜けてるし……守ってやらなければって思うじゃないかっ?!そうだろうっ?!

庇護欲とはまた違う……。



「……これも庇護欲なのか?」


今まで妹だけを見て来たリュートもまた恋愛経験が多い訳ではない。実菜に対する感情は妹に対する感情と同じ感覚だろうかと悩み始めた。


「それは分かり兼ねますが……」


誰も居ないと思っていたリュートは、突然背後から声を掛けられ、飛び上がるほど驚き振り返ると衛兵が訝しげな表情で立っていた。


「先程から何をされているのでしょう?」


いつから見ていたのか、衛兵はリュートを不審者として声を掛けたようだ。

衛兵は狐の様な切れ長の目を細めてリュートを見つめている。



これは……死ねる。



へばりついていた壁から離れ、静かに姿勢を正すと、そうリュートは思った。






*****


リュートが去った後、実菜は再びバルーンへと視線を向けていた。

と、そこへぴょこんと白猫が現れ、実菜の目の前の手すりに飛び乗ると、ちょこんと座り込んだ。


「あら、猫?……じゃ無いわね。何してるのこんな所で。犬は飽きたの?」


「ふぉっふぉっ。やはりバレたか。面白そうじゃったからの、暫し見てたんじゃ」


「あのバルーンが?まあ、この国では見ない物だものね」


「………」


猫メイメイは何も言わず、ただ細長い尻尾をくねくねと振っていた。


「可哀想にのぉ……男として見られていない事を突き付けられ、それでも言うべきか言わざるべきか……引導を渡されなければ悶々とするもんじゃて」


「何の物語なの、それ?」


この国にも小説等の雑誌はある。ご婦人の間では平民だった少女が奇跡を起こし、王子様と結婚する。などという、いわゆるシンデレラストーリーが人気らしいとか。


「お前さん……さては悪女というやつじゃなっ?!」


メイメイはぷらぷらとさせていた細長い尻尾を鉤状にして、びしっと実菜へ向けた。


「だから……何の話かって聞いているのよ」


自分に向けられた尻尾をぴんっと人差し指で弾くと思わず嘆息した。



今日は何かしら、リュートといい、メイメイといい。メイメイはきっと変な物語を読み過ぎたんだろうけど……。



「まぁ……なんじゃ、あれじゃな……」


そう言いながらメイメイは実菜の手に尻尾の先をちょんとつけた。


「独り者同士、仲良くしようではないか」


「………」


「ん?人間はこうやって慰め合うのではないのかの?」



なんかちょっと違う気がするけど……まさか、慰められてたの?!私?!

確かに行き遅れですけども?

全然モテませんし?

……あぁあっ!!まさか、リュートも慰めてくれてたのかしらっ?!全然、意図がよく分からなかったけれど!!

あっ!気晴らしに家に来ませんかって事だったのね?!

まぁ、それはそうと……。



「……まさか、メイメイに慰められる日が来るとは思っていなかったわ」


実菜はショックを隠しきれなかった。

この国では結婚出来ないと人間性に問題がある。とまではいかないが、遠巻きにされがちだ。昔の日本とちょっと似てる。でも、だからといって……。


「結婚するってそんなに大事なことかしら」


「なんじゃ、悩み相談かぇ?」


笑った猫メイメイの口の中に小さい牙が見えた。このくらいの牙なら可愛らしいのに。


「そうじゃないけど、さっき「結婚したいのか」と、聞かれてから思ったの。

結婚したいと思わない相手とするなら、しない方が良いんじゃないかなって」


「いつかそういう相手が現れるまで待ってる。という事かぇ?」



そういう言われ方をされちゃうと「白馬の王子様が現れるのを待ってる」と、本気で言ってる痛い子みたいで嫌なんですけど……。



「お前さんは、ずっとここにおるんじゃな?」


「へ?」


単純に、探そうとしなければ会うこともないと言いたかっただけかもしれないが、メイメイの意味深な物言いに実菜の胸がざわりとした。



……ずっとここに?

何だろこれ……大事な事を忘れている様な気がする。



何かを取りに別の部屋へ行ったのに、何を取りに来たのか忘れてしまった。というような、分かっているのに思い出せない。もどかしく、もやもやとした気持ち悪さを実菜は感じていた。


気分を変えようと視線を街に移したが、いつの間にかパレードは終了し、街の上空に浮かんでいたバルーンは消えていた。

お読み頂き有難う御座いました。

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