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聖女として召喚されたので、期待に応えてみた結果  作者: 珠音


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ご近所トラブルの原因は色々だよね

入院患者って以外と忙しいんだ……という事を学んだ今日この頃。

少し間が空いた上に視点が「誰だお前?」という状況から話が始まります。混乱させてしまうと思いますが、宜しかったらぜひどうぞ。

時は遡り、実菜と静加がウォン家に到着する少し前。


ウォン家の斜め向かいに建つ屋敷では、その屋敷の女主人カミラ·カサブランカがその庭の剪定された木々を査定するかの如く確認して回っていた。


彼女は決して草木や草花を愛でる様な事はしない。何故なら彼女は、花の近くに居ると鼻水が滝の様に流れ出る体質だったからだ。愛でるどころか、憎むべき存在であった。そんな彼女がカサブランカ家に嫁に来るとは滑稽である。彼女はこの名を嫌っていた。


しかし、彼女は庭が殺風景なのも嫌であった。まるで「私は貧乏人です」と、言っているような気持ちにさせられるからだ。

庭が緑一色なのも殺風景といえばそうなのだが、草花よりは樹木の方が幾分と身体は落ち着いていた。


「これは……まあまあね」


カミラは丸いシルエットに刈り込まれた植木を舐めるように確認すると、次の植木の査定に移った。

彼女は決して植木を愛でているわけではない。植木職人の粗を探しているのである。少しでも歪な所があれば、鬼の首を取ったようにその職人を責め立てる。彼女はその責め立てる瞬間が好きであった。故にこの屋敷の植木職人は定着することがない。


「奥様、今日はお庭でのお茶会の準備で宜しいですか?」


メイドがカミラに声を掛けた事で、やっと植木から視線を周囲に移した。


「そうね、今日は天気も良さそうだし……それにしても、もうそんな時間なの?」


カミラがメイドの持っている懐中時計で時間を確認すると、いつもより時間が過ぎている事に気付いた。


「あら、遅いわね。皆、どうしたのかしら」


カミラの旦那は高級飲食店を幾つも経営している経営者である。カミラが毎日の様にお昼を兼ねたお茶会を開き、そこに招く相手はその部下の妻たちであった。つまり、そのお茶会に遅刻するという事は、自分の旦那の評価を下げる事に繋がる。


「全員が遅刻なんて……有り得ないわ」


その時カミラはメイドが青い顔をしている事に気付いた。


「あなた……気分でも悪いの?」


カミラに声を掛けられ、メイドはビクッと肩を震わせた。カミラの様な人間は人のミスを突くのが好きなのである。そして、それを察する事にも長けていた。


「……私を騙したのね?」


メイドをイビるネタが出来た事で、言葉とは裏腹に嬉々としてメイドに声を掛けた。

カミラは自分の気が済むまで嫌味を言い続ける性分なのである。このメイドも、今まで散々な嫌味を言われ続けていた。なら、いっその事クビにして欲しいと思う事もあるが、顔の広いカミラの事である。周りに何と言って触れ回るかわかったものではない。次の就職口の事を考えるとそれも怖かった。


カミラは震えながらふるふると頭を横に振るメイドを睨み付けると、自身の持っている懐中時計を億劫そうに取り出し、メイドの持っている懐中時計と見比べた。


「一時間も違うじゃないの!あなた、馬鹿じゃないの?!」


一時間は流石にやり過ぎだが、メイドは時間に遅れないよう自身の時計の時間を早めていただけなのだ。そして、その時計で時間を確認したのはカミラ本人であり、彼女の勝手である。

しかし、カミラは気弱な態度の人間を責めるのが好きだった。何故なら気弱な人間は、好きなだけ罵倒しても言い返して来る事がない。自分は傷付くことは無く、相手を傷付ける事が出来るのだ。


「そもそも、あなたは……」


この時もカミラは、メイドに罵声を浴びせてやろうと意気揚々と口を開いたが、馬車の走る音が聞こえると、ハッとして屋敷の前の道に注意を向けた。


「あら、お客様かしら」


時間は早いがお客が来たのなら、それはそれで早急に対応しなくてはならない。お客が来たのに準備が整っていないなど、恥晒しも甚だしい。

カミラは焦ったが、しかし、カミラの視界に入って来た馬車は屋根の無い、荷馬車の様な馬車だった。この屋敷のお客でその様な馬車で来る者はいない。


カミラはホッとしたのも束の間、その馬車に乗っている人間の品定めを始めた。


「あれは……魔導師団の団服ね。もう一人は……黒い団服?しかも二人とも女性だわ」


カミラの情報網はかなりの物であった。お茶会での情報も然る事ながら高級飲食店には上位貴族が来店する。酒などが入れば余計な事まで漏らしてくれるものだ。カミラは各家の事情にまで精通していた。


「黒い団服は……確か、聖女様が白か黒の団服をお召しになるという話だったわね」


カミラは眉を顰めた。魔物は完全に討伐されたと聞いている。もしかして、討ち損じた魔物の生き残りがその辺にいるとでもいうのだろうかとも思ったが、それにしては少人数すぎる。

カミラに見られているとも知らず、二人の女性は馬車から降りると、きょろきょろと辺りを見渡している。何かを探しているようだ。カミラはにんまりと口角を上げると、その女性たちに近付いた。



「魔導師団の方々がいらっしゃるなんて……何かありましたの?」


カミラは二人に不信感を抱かせないよう、あくまでも何かあったのかと心配しているおっとりした女性の雰囲気を醸し出していた。

カミラに声を掛けられ、二人が振り返る。二人とも長い黒髪だが、一人は金色の瞳。聖女と思われる女性は瞳まで黒かった。


「ああ、あの……同僚の……ウォンさんの家に来たのですが……」


魔導師団の女性がカミラに答えた。

彼女の口振りから、これ以上の詮索は不信感を抱かれるとカミラは判断した。カミラは勘が良いのである。



この女は相当気が強いようね。それにしても金目だなんて……昔は多かったようですけど、最近では珍しいわね。

どちらにしても、二人とも庶民出のようですわね。品が無いですわ。



カミラは失礼な品定めをしながらも、愛想の良い微笑みを浮かべていた。


「ほほ。この辺りのお屋敷は似ていますものね。ウォンさんのお屋敷でしたらあちらですわ」


カミラが優雅な所作で斜め向かいのウォン家に手の平を向けると、二人ともカミラに礼を言いそちらに向かって行った。

程なくしてガラの悪い声が聞こえてくる。静加の声だった。


「まあ嫌ですわ。品の無い女性は最早女性としての価値も無しですわね」


カミラは微笑みを浮かべたまま小声で独りごちると、屋敷へと戻って行った。



それにしても、あの黒目の女性は間違い無く聖女様ですわね。そのような方がわざわざ自らの足を運ぶだなんて……一体、何をしにいらしたのかしら。



カミラは屋敷に戻る道すがら、ウォン家の娘の姿をここ一ヶ月程見ていない事を思い出した。



そういえば、あの家の娘は病弱だったわね。



ウォン家を振り返ると、既に二人の姿は屋敷の中へと消えていた。

カミラはウォン家を見つめながら、にんまりとほくそ笑む。


「本日の議題が決まりましたわ」




*****


「カミラ様、本日も見目麗しくて羨ましいですわ」


「ほほ。ルイーザ様も今日のお召し物に負けずお美しいですわよ」


小一時間が経った頃、カサブランカ邸の庭園では四人の婦人による不毛とも言える応酬が行われていた。婦人たちは、このやり取りを一通りしないと気が済まないのである。いや、これを含めた一連のやり取りが挨拶とも言えた。


「……そういえば、カミラ様。道端に荷馬車が止まっていたようですけれど?」


お互いを褒め合い、庭園を褒め、テーブルクロスを褒め、茶器を褒めと一通り終え、席にティーカップが置かれたところで一人の婦人が口を開く。


「お気付きだなんて流石ですわ。あれは、魔導師団の方々が乗って来た物ですの」


待ってましたとばかりに嬉々としているカミラの様子に、これが本日のネタであると三人の婦人は理解した。

傍目には優雅に見えるお茶会も、蓋を開ければ只の井戸端会議。噂の応酬。そして、カミラの意見に上手く乗れ無ければ仲間外れとなり、旦那は左遷、酷い時はクビとなる。

三人の婦人はそれとは見せず、カミラの発言には常に緊張していた。


「魔導師団……ですの?」


ルイーザが眉を顰めた。カミラは食い付いてくれてありがとうと言わんばかりの微笑みをルイーザに向けた。


「そうなんですのよ。どうも、向かいのウォン邸にいらしたみたいですわ……師団員の方と、聖女様がお二人で」


カミラは意味深に『聖女様』を強調した。


「確か、あのお屋敷には魔導師団にお勤めの息子さんがいらしたと記憶しておりましたけど……聖女様ですか?」


ルイーザの隣に座るルチルという婦人がカミラの話の意図を探りながら首を傾げた。


「その様ですわ。私も聖女様のご尊顔は初めて拝見致しましたけれども、あの黒い髪に黒い瞳、黒い師団服。間違いありませんわ」


全てが黒い実菜は、カミラには異様な者として映っていた。


「まあ!カミラ様、凄いですわね。宅の息子は騎士団員ですけど、まだお会いした事も無いと申しておりましたわ!」


ルチルの隣に座るサリーが大袈裟に驚いている。取り敢えずカミラを持ち上げておこうとしたようだ。


あなたの息子は騎士団と言っても訓練生で、まだ正式ではないでしょう。と、カミラは腹の中で思いながらも褒められる事は悪くは無かった。


「でも……何をしにいらしたのでしょう?聖女様は……病院を転々と訪問される事はあるようですけれど、その他はずっと王宮にいらっしゃると……私用で外に出る事は無いと聞いておりますわ」


ルチルの甥は王宮で財務官をしている。どちらかと言えば、聖女は軍務寄りに属する存在ではあるが、彼女の動きは王宮に属する者であれば、大体は把握している。

カミラは自分の思い通りの話の展開に機嫌が良かった。


「そうなの……そこのウォン家のお嬢さん、お身体が悪いみたいなの……ここ一ヶ月は姿を見ていないのよ」


カミラの様子に安堵していた婦人たちだったが、その言葉に本日の槍玉に上げる標的を理解した。

しかし、ここからが慎重に行かなければならないところだった。三人はこっそりと視線を交わした。

カミラの性格を考えたら……自分が適任だろうと、ルチルが口を開く。


「まさか……そのお嬢さんの所へ聖女様が?でも、聖女様のお力は平等に使われるべきですわよね」


カミラが満足そうな微笑みを浮かべてルチルを見つめた。


「個人的に聖女様を頼ったのだとしたら、その魔導師団である息子さんの……職権乱用……ですわね」


カミラの様子にそれが正解と判断したサリーがそれらしく話を合わせた。ルイーザもこくこくと頷き、同意している事をアピールしていた。

婦人三人衆にとって、聖女が何をするかなど正直どうでも良かった。カミラの機嫌を損ねない事。それが最重要課題なのだ。


三人衆の考えを知ってか知らずか、カミラは満足そうに大きく頷く。


「ええ……あのお嬢さん、いつもお辛そうにされていたから、聖女様のお力で元気になればとも思ったのですけれど……よく考えたらそのお力は国の物ではないのかしらと思いましたの」


さもウォン家のお嬢さん、つまりユウリンを心配するかのような素振りでカミラが嘯く。

三人衆の内心は白けていたが、ここで何も言わない訳にはいかない。


「カミラ様、お優しい事ですが職権乱用は良くありませんわ」


「そうですわ。お辛いのはお嬢さんだけではございませんもの!」


「……あら、どなたかウォン邸の窓から出ていらっしゃいましたわ」


カミラのご機嫌を取るために口々に言葉を発していた三人衆であったが、ウォン家のサロンらしき部屋の窓から庭へと出て来た二人の女性の姿にルイーザが目を留めた。


二人の女性とは静加とユウリンなのだが、二人は向かいの屋敷から見られているとも知らずに、大きく円を描く様に両腕を上げたり下ろしたりしている。


「あれは……魔導師団の方ですわよね?女性だったのですのね。では、あの白いワンピースの方がお嬢さんかしら」


「何をされているのかしら」


カミラと三人衆が見ていると、どうやら魔導師団の女性の声は大きいらしく、声がこちらの屋敷にまで響いて来た。


「……もう少し、ゆっくりよ!そう!!上手!!これを続ければ、健康を取り戻す事間違いなしよ!!」


三人衆は思わず顔を見合わせた。尚も静加の声は響いて来る。


「健康だけじゃなくて、美容にも良いからね!!」



「……美容……ですって?」


「あの、珍妙な動きが?!」


カミラは五十歳を目前にしていたが、三人衆はまだ三十歳前後である。静加のこの発言に図らずとも激しく興味をそそられてしまっていた。

良く見れば、お嬢さんの頬に赤みがさしてきたような気さえして来る。


「あの魔導師団の女性が、健康体操の指南にいらしただけなのかしら」


ルイーザは思わずそうぽつりと呟いてしまってから、ハッとしてカミラを盗み見た。

目を釣り上げ口を真一門にしているその様は、明らかに不機嫌であり、怒りさえ感じ取れる。三人衆はその場に凍りついた。



途中までは順調でしたのに!あのガラの悪い、品の無い女の所為で台無しですわ!!



カミラはウォン家の兄妹が嫌いだったのである。もっと言えば、その両親も嫌いであった。

理由はといえばウォン家は庭の至る所に花を植えていたという、至って単純なものであった。

かつて、文句を言いに行った事さえある。その為、今ではバラだけになっているのだか、それでさえ気に食わない。

故に今回の件は、その息子を失脚させるまではいかずとも、王宮に悪い噂を立てる位は出来るのではと期待したのだが、そんな雰囲気でも無くなってしまっていた。


凍りついたカサブランカ邸の庭園には、その場に似つかわしくない元気な静加の声だけが響いていた。

お読み頂き有難う御座いました。

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