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聖女として召喚されたので、期待に応えてみた結果  作者: 珠音


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ウォン家

ウォン家の応接室はやたらと静まり返っていた。


「はは。シズカ、俺が何を知っていたって?」


リュートが取り繕うように笑うが、その笑いは乾いていた。ティーカップを手に取りお茶を飲み干してしまうと「おかわりを淹れましょう」と、言って立ち上がる。


「ソフィアの屋敷の壁に細工をしたのもあなたなのでしょう?その時、何も気付かなかったと言うの?」


入口に置かれたワゴンの上のティーポットに手を掛けたリュートの背中に向かって静加が言葉を投げ掛けた。


「そりゃ、衝立てで隠されていたら、何も分からないでしょう?」


「……衝立てで何かを隠しているのは気付いていたのね」


リュートは持ち上げたティーポットを静かに下ろすと、ゆっくりと振り返った。


「シズカ……君は、何が言いたいんだい?そもそも、人には他人には隠したい事の一つや二つはあるものでしょう。それをいちいち暴きたいとは思わないのですよ。

それとも仮に俺が、その隠していた『何か』を知っていたとして、それが罪になるとでも?」


口調は穏やかではあったが、苛立ちは隠せないようでリュートの呼吸は荒くなっていた。


「ミハイルは聴き取り調査で、同じ話を繰り返していたそうよ」


静加はリュートの問いには答える事なく、更に話を続けた。


「彼女は蘇ったのだから死んでない。つまり自分は彼女を殺してない……まぁ、お祖父さんとお祖母さんは殺している訳だから殺人者には変わりないんだけど……ソフィアに関しては、その一点張らしかったわよ」


リュートは眉を顰めて静加の話を聞いていたが、ちらっと静加と実菜へと視線を向けた後、ティーポットからカップへお茶を注ぎその場でお茶を飲み干した。

しかし何故、静加はリュートにこんな話をするのか。気付いた時点でリュートが止めていればこんな大事に至らなかったとでも言いたいのか。


リュートはソファに座り直すと、腕を組み静加を見据えた。


「まどろっこしいのは、もう止めてくれないか。何が言いたいのか、はっきり言ってくれ」


静加は「あ、そう?」と、言いながらナップサックをゴソゴソと探ると麻袋を取り出した。


「何それ」


実菜が麻袋の口を開こうと手を伸ばすと、静加にぺちんと手を叩かれた。


「今から出すから慌てないの!」


そう言いながら静加が麻袋から取り出したのは鉢植えだった。両手の平を広げたくらいの丸い鉢に土が入っていて、その中央にはピラミッドの様な形をした水晶が埋め込まれていた。


「……本当に何それ」


鉢植えに土まであるのに植物が生えている訳ではない。それよりも、この結構な大きさの物が出てくる静加のナップサックが謎である。




もしかしたら異次元と繋がっていて、いくらでも物が入れられるのかも。




そんな訳はないと思うのだが、実菜が思わず静加のナップサックに手を伸ばすと「何してんのよ」と、再び静加にぺちんと手を叩かれた。


「いや、異次元ポケット的なリュックなのかと思って」


「まぁ、似たような物ね。中は広いわよ」


想定外の静加の言葉に実菜は驚愕した。


「え!何それ、聞いてない!」


「もう!話が進まないじゃない!実菜は黙ってて!」


リュートは二人のやり取りを見て、苦笑いするしかなかった。


「まぁ、二人は仲が良いという事だよね。それで……この鉢植えが彼女の部屋にあった事と俺がどう関係しているの?」


リュートは話を進めようとしたようだが、実菜は苦笑いしたままのリュートをじっと見つめた。


「彼女って、ソフィアの事よね?これ……ソフィアの部屋にあった物なの?私、こんな物、初めて見たけど」


「……え?」


リュートは驚いた様子で実菜をじっと見つめ、静加へとその視線を移した。


「そうね、実菜は全く気付いていなかったわね。これはソフィアのベッドの下に置かれていた物なの。それにそもそも、私はこれがどこにあった物かなんて言っていないわよ?」


リュートは一度目を見開くと、含み笑いをしている静加を睨むように見据えた。


「そんな顔をしないでよ。私は別に言葉を誘導した訳じゃないわ。でも、そうね……これがどこにあった物か知っているという事は、見た事があったのか、若しくは……何に使う物か知っているという事ね」


「……使う物……道具なの?」


実菜は下手に触ろうとしてまた静加に叩かれないように腕組みをしながら、まじまじとその鉢植えを眺めた。こうしてみても、至って普通の鉢植えである……中央に埋め込まれた水晶さえなければ。


「まどろっこしいのは止めてくれないかと言ったはずでしたが?」


リュートの表情からは感情は読み取れないが、言葉からは落ち着きのない、焦りのようなものが窺えた。


「ああ、そうだったわね。これは、専門家に言わせると、まじないの一種だそうよ……それから」


「まじない?」


静加は首を傾げた実菜に向かって頷くと、再びナップサックをゴソゴソとして一冊の古びた冊子を取り出すと、テーブルの上に放った。


「これは、ミハイルの自宅を捜索した団員が押収して来た物よ」


ミハイルの自宅には物がほとんど無く、生活感というものが全く無かったという。唯一、調査が必要と考えられ、押収されたのがこの冊子だった。


「……これは、どこに……」


リュートが冊子に手を伸ばし、手に取った。


「ミハイルの自宅……机の引き出しが二重底になっていて隠されていたそうよ」


静加はリュートの動きを監視するような視線を向けながら説明すると、リュートの手からその冊子を取り上げる。 


「まどろっこしいのは嫌なのよね。じゃあ、聞くけど、これはあなたがミハイルに渡した物ね?」


「……ミハイルがそう言ったのか?」


目を見開いてリュートが静加に問い返したが、静加は何も答えない。


「これは……我が家の物だが……盗まれたんだ」


何も答えない静加に、渋々といった感じでリュートが返すと静加は満足そうに頷いた。


「ふーん、そう。そこはミハイルの証言と一致しているわね。

ミハイルはソフィアの事をあなたに相談する為にこの家に来た時に盗んだと言っていたわ」


「……やっぱりか」


嘆息したリュートに静加の視線は冷たい。


「でも変なのよ。このボロボロの冊子には『禁書』と書いてあるのに、ミハイルが言うには応接室に無造作に置いてあったらしいのよね」


リュートの家に『禁書』なる物が存在する事も不思議だが、そんな物が誰の目にも止まる場所に置いてあるのはおかしい。これではまるで盗んでくれと言わんばかりだ。静加はつまりはそう言いたいらしい。


「ああ、ごめんなさい。まどろっこしいのは嫌だったわね。つまり、あなたがわざとミハイルにそれを盗ませたんじゃないかと、そう思っているのだけれど?」


静加がそこまで言ったところで、実菜は我慢が出来ずに手を挙げた。


「ねぇ、どうしてわざわざその本を盗ませる必要があるの?その本は一体何なの?」



「それは蘇りのまじないが記された本じゃて」


「うわぁっ?!」


実菜の疑問に部屋の入口の方から答えた者がいた。自分たち以外の人間が居るとは思っていなかった実菜とリュートは揃って声を上げ、入口を見やるとそこには老女メイメイが立っていた。


「ばあちゃんっ?!……いや、違うか。すみません、死んだ祖母に似ていたもので……って、いやいやいや!!あなたは誰です?!どうやって入って来たのですか!!」


メイメイを認めたリュートの感情は忙しい様子だった。どうやらメイメイはリュートの祖母と似ているらしい。確かに老女メイメイはどこにでもいそうな老女である。


どうせ静加が連れて来ていたのだろうと静加を見ると案の定、彼女は視線を反らした。


「ふぉっふぉっ。細かい事は気にするでない。私はさっきシズカが言っていた、まじないの専門家じゃよ……どれ」


メイメイは老女らしからぬ動きで冊子をさっと受け取ると、ぱらぱらと捲り「ふむふむ」と、尤もらしく頷いた。


「これは、蘇りのまじないの簡易版じゃのぅ」


「簡易……版?」


メイメイの言葉にリュートは眉を顰めた。


「お前さん、この本をどこで手に入れたんじゃ?」


「この本は我が家に伝わるまじないの一つで……」


リュートは実菜や静加を窺いながら、言い難そうに口籠った。


「ほぅ……お前さん、リンリーの子孫かぇ?」


「リン……リー?……確か、この国に移り住んだ曾曾……祖母さんが、そんな名前だったと聞いていますが……あなたは……一体、誰です?」


リュートは警戒心を隠す事もなく、メイメイを睨み付けた。


「そんな顔をするでない。私はリンリーの友人とでも言うておこうかの。彼女の一族が今で言うアンドロワ帝国から秘密裏にこの国に亡命するのを手伝う代わりに、彼女の容姿を拝借しておる。お前さんのお婆に似ていても不思議ではない」


「……は?友人?いや、でも……だって……」


リンリーという名の女性はとうの昔に亡くなっている。その容姿を拝借するだの、その人の友人と言われて納得しろというのは色々と無理があった。

明らかに混乱しているリュートに、メイメイは更に話を続けた。


「それにワン一族がウォンと名を変え、この国にいる事が知られても、もう追われる事はあるまいて。安心するがええ」


「そんな事まで……知って?」


「じゃから、私が亡命を手伝ったと言っておるじゃろうが。まじないの事も全てリンリーから受け継いでおるからのぅ。お前さんより詳しいのは確かじゃ」


リュートは呆然とメイメイを見つめ、現実を整理しているようだった。


「では……その……簡易版というのは?」


リュートはメイメイの話を受け入れる事にしたようだ。というより、禁書とまでされているものが簡易版と言われた事が気になっているようでもあった。


「……その前に、年寄りに椅子を勧めるとかはないのかのぅ?……あと、お茶じゃ。茶菓子があるとなお良しじゃ」


このメイメイの発言に、リュートは静加にジト目を向けた。


「この人……シズカのご親戚?」


実菜が思わず吹き出し、それを静加が軽く小突き、お茶と茶菓子を用意するなどして、メイメイの話が始まるまで暫しの時間を要する事となった。


用意された茶菓子をもぐもぐとし、それをお茶で流し込み、勿体ぶった咳払いをすると、ようやくメイメイは口を開いた。


「昔々の話じゃ……帝国の時の王は不老不死の身体を所望していた」

お読み頂き有難う御座いました。

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