察しが悪かったり、空気が読めなかったり……人はそれを天然とよぶ事がある
リードとリュートとか、ロイとロイドとか……何で似たような名前にしてしまったのだろうと思う今日この頃。
何度も読み返しましたが、間違えていたら申し訳ありません。
翌日、第三魔導師団の研究室。
実菜は目の前の作業台で作業をするロイドを眺めながら頬杖をついた状態で不貞腐れていた。
ロイドは「この状況には既視感があるなあ〜」と、思いながら上目使いに実菜の様子を窺っていた。
昨日のあの後、特に仕事の無い実菜は直帰させられていたのだが、自室で一人になったところで冷静になり気付いてしまったのである。
私、ハブられたんじゃねっ?!
と。
実際、実菜は蚊帳の外に置かれ、事前には何も知らされる事はなかった訳で、つまりはそういう事なのかもしれないが。
そんなに、私って信用出来ないかしらっ?!
と。
要するに、今、実菜はイジケている真っ最中なのであった。
「あの……聖女様?何かあったのですか?」
この空間の居心地の悪さに耐えられず、とうとうロイドが口火を切ると、待ってましたとばかりに実菜は勢い良くロイドを睨み付けた。言っておくがロイドは一切、何も、1ミリも悪くは無い。
睨み付けられたロイドは思わず「ビクッ」と、身体を仰け反らせた。
「そうなの!聞いてよ、ロイド!!酷いのよ!あの静加の奴が〜!!」
「……シズカさんが?」
実菜は興奮していた為、ロイドがチラッと実菜の背後を見やった事には気付いていなかった。
「そうなの!昨日……ふがっ?!」
調子良く話し出そうとする実菜の口が背後から何者かに塞がれた。
「だーれだ?」
それをするなら塞ぐのは目でなければならない。ロイドは思わず吹き出していたが、ロイドが笑った事が、更に実菜を苛つかせた。
「もう!ふざけないで!……ロイドもいちいち反応しない!静加が調子にのるでしょ!」
パシっと手を叩かれた静加と、怒られたロイドはきょとんとしている。ロイドについてはすっかり八つ当たりであり、とばっちりであった。
「何をそんなに怒っているのよ。それに今、陛下の言を破ろうとしてなかった?」
静加に言われ、実菜は少し冷静さを取り戻した。実菜は今、陛下により箝口令が敷かれた内容をぺらぺらと喋ろうとしたのである。
内心「やばっ、忘れてたわ!!」と、思いはしたが、だがしかし、実菜は今、イジケ虫となっているのである。故に素直ではなかった。
「そんな事ないわ!私は今、皆に除け者にされた事に腹を立てているだけよ!」
「……昨日は文句なんて言ってなかったのに、急にどうしたのよ」
実は、静加としても罪悪感が全く無かった訳ではなかった。だが、実菜はすんなり受け入れている様子だったので安堵していたのだが、今日になってコレである。静加は困惑していた。
「怒りの沸点に到達するまで時間掛かり過ぎじゃない?」
静加の指摘はご尤もである。実菜は鼻息を荒くして返す言葉を考えていた。
が、肩に重みを感じた事でその思考は掻き消えた。
「お前ら……騒ぐなら、また放り出すぞ?!」
リードであった。リードは実菜と静加の肩を「がしっ」と掴み笑顔で小首を傾げていた。笑顔であるのに恐怖を感じるのが不思議である。
「やっだ〜、リードってば、私たち騒いでなんかいないわよ。ねぇ、実菜?」
「そ、そうよ〜。リードったら、やぁねぇ〜」
両手を頬に当て、やたらとくねくねしている静加につられ、思わず実菜も同じ動きでリードをジト目にさせた。
「……今日は病院に行くんじゃなかったのか?」
ため息混じりにリードが言った病院とは、以前視察で行った精神病院の定期訪問の事である。決して実菜や静加が受診する訳ではない。今では定期的に、調合した薬を届けに行っているのだが、実菜からしてみると静加の実験場となっているようにも思えなくもなかった。
しかし、静加に言わせると、あの病院の患者は気の流れが悪いとか何とか、それを薬でバランスを取れるようにすれば良いとか何とか……結果、毎回、一人一人の薬が変わるので実験しているように見えるのだとか何とか。
何れにせよ、実菜の理解は乏しかった。
「そのつもりだったけど、その前に今日はリュートに話があるのよね」
静加はそう言いながら背中に背負ったままのナップサックをリードに見せた。
「何だよ、その荷物。だけど残念だったな。リュートは昨日と今日と休みだ」
ナップサックをぽんぽんと叩きながらリードが残念な事実を告げた。
「え!何で?」
静加が勢い良く振り返った事で、ナップサックに手を乗せたままだったリードは危うくコケそうになっていた。
「急に動くな!……んー。これ言って良いのかな……俺が言ったって言うなよ?」
リードは考えるポーズで眉を顰めた。
「言わないから、焦らさないで早く教えてよ」
「別に焦らしている訳じゃ……あいつの妹さんの調子が悪いんだってよ。元々身体が弱いらしいけど……」
リードは実菜をちらっと見た。それを見た静加も実菜を見た。二人に注目された実菜はきょとんとした。
「……そんなに悪いの?」
そう言いながら静加は、きょとんとしている実菜からリードへと視線を移した。
「ああ、結構悩んでいる感じは以前からあったな……けど、真面目だからな。個人的な事は頼めないと思ってるんだろうな。まぁ、実際に大っぴらには出来ないけど……」
「あれ?でも私、昨日リュートに会ったわよ?」
実菜は昨日の、出会い頭にぶつかりそうになった事を思い出していた。
「……ああ、昨日、相談に来たからな。暫らく休暇を取りたいという事だったけど……取り敢えず今日は休みにさせたんだ」
なるほど、急に長期休暇は取れないという事か。しかし、それにしてもリュートは何故あんな所にいたのだろうか。
そう考えていたところで、ふと視線に気付き実菜が視線を上げると、リードが何とも言えぬ表情で実菜を見つめていた。
「何よ?」
「……いや、別に」
別にと言うわりにはリードの表情は変わらずだった。そして、静加は爆笑していた。
「あはは。実菜はそういう所があるから……だから、下手に作戦に参加させられないのよ」
そういう所とはどういう所だ。実菜は口をへの字に歪ませた。
「いつの間にか下がってたけど、また上がって来たわ」
「あはは。何がよ」
「溜飲」
「あははっ!そんな簡単に上げたり下げたりしないでよ!」
とうとう静加は腹を抱えて笑い出した。もしかしたら、昨日のオリオンと良い勝負なのではないだろうか。
「……シズカ、もう、良いだろ?そろそろその辺にして出掛けろよ」
むぅ。と、口を尖らせている実菜に気を使ってか、リードが定期訪問に行くように促した。
ガタゴトと静加の操縦する馬車は実菜を乗せ、病院へと向かっていた。ロイドは今日は午後から学園に用事があるとの事で、さっさと帰って行ってしまったので今日は二人だけでの行動である。
今日の馬車は屋根の無い小さめの物で、操縦席と座席がかなり近く余計な壁が無い分、会話もし易い。
「今日が晴天で良かったわ。曇りだと寒いくらいよね」
「まぁね。でも、どんな天気でも操縦者は関係ないわ」
確かに、屋根があろうが無かろうが、操縦者は外にいるのである。天気は関係無かった。
もしかしたら、今日このタイプの馬車を使ったのは、同じ思いをさせてやろうという静加の魂胆かもしれない。そう思って聞いてみたが、単純に会話がし易いからだと笑いが返ってきた。
どうにも今の実菜は卑屈な考え方に偏っているらしい。
「……あれ?道がいつもと違うんじゃない?」
いつもは市井を突っ切って、ひたすら森に向かって行くのだが、今日は住宅街へと向かっているように感じる。
「うん。ちょっとリュートの家に寄り道ね」
「あぁ、そういう事……って、ええっ?!」
先程、確かにリュートに話があると静加は言っていたが、休みの日に突撃する程の早急な事なのだろうか。どうやら病気らしい妹さんもいるらしいし、迷惑なのではなかろうか。実菜はそこまで考えてハタと思いついた。
「ねぇ、その妹さんの体調が良くないって……私が治せば良くない?」
突如、静加が爆笑した。
「あははっ!そうね……きっと……そうだと思うわ!」
静加は涙を流すほど笑っていて、馬が驚いて暴走してしまわないか心配である。
「何がそんなにおかしいのよ」
「別に……ただ、実菜は自分で気付かないと駄目なのねって、思っただけよ」
実菜は馬鹿にされてるのかとも思ったが、静加が嬉しそうに頷いているところを見ると、そうでもないらしいと思い直した。
「……さて、住所によると、この辺なんだけど」
笑いながらも静加はしっかり操縦していたらしい。こじんまりとした屋敷が並ぶ住宅街で馬車を止めた。
「そういえば、リュートの住所なんてよく知ってたわね」
「ああ、さっき名簿を盗み見して来たのよ」
「個人情報ダダ漏れね」
「一蓮托生よ」
実菜はいつの間にか共犯にされていた。それは良いとして……いや、あまり良くないが……周りは似たような屋敷が並んでいてどれがリュートの家なのか分からない。
「あ……表札。そういえば私、リュートの名字って知らないわ」
「ウォンだって。私もさっき知ったわ」
しかし、そこへ近くの屋敷のマダムが声を掛けてくれた。
「魔導師団の方々がいらっしゃるなんて……何かありましたの?」
「ああ、あの……同僚の……ウォンさんの家に来たのですが……」
何か事件でもあったのだろうかと心配していたのか、静加がそう言うとそのマダムは安堵した様子で微笑んだ。
「ほほ。この辺りのお屋敷は似ていますものね。ウォンさんのお屋敷でしたらあちらですわ」
マダムの指さした先には、可愛らしいピンクのバラのアーチのある屋敷があった。
マダムにお礼を言うと、二人はその屋敷に近付いた。確かにアーチの隣にある表札にはウォンと書いてあり、文字の周りにはバラの絵が描かれていた。
「じゃあ、行きますか」
静加はアーチをくぐり、玄関をノックした。暫しの沈黙の後、静かに扉が開きリュートが顔をみせた。が、静加の姿を認めると、リュートはまた静かに扉を閉めた。チェーンロックがある訳でもあるまいに。
「おい、こら!どういう事だ?!開けろ!」
「……冗談ですよ。ガラが悪いですから、その言葉使いは止めてくれませんか」
恐らく冗談ではなかったのだろうが、リュートは観念した様子で溜め息を吐くと二人を迎え入れた。
「……で、何しにいらしたんですか?」
「まあ、立ち話も何ですから、お茶でも頂きながらなんてどうです?」
それは客が言う台詞では無い。というリュートの視線は静加には効かない。それを十分理解しているリュートは肩を落とすと黙って二人を屋敷の中へと案内した。
お読み頂き有難う御座いました。




