99 回収依頼
少し前。黒王対策分室の拠点。
「わたしたちに指名依頼とか、あやしいわぁ」
「まだイビルアイの依頼しか受けてないですしね」
普通に考えたらありえないことである。
「黒王の棺の、結界の内側らしいからな」
依頼内容に目を通していたヴィムがげんなりした声で答える。結界第一層と第二層の間。そこで行われた“実験”。内容は知らないが、そこに小さな金属製の筒が落ちているはずだと。それを回収して中央大神殿に届けること。それが冒険者登録した対策分室メンバーに指名で入ってきた仕事だった。
「それってつまり」
「実質的に、対策分室への依頼だろうな」
「なんで直接言ってこないんだろうねえ」
「我々を知ってるのに直接言ってこないってことは……聖都かな?」
何かを読んでいたウトバムが顔を上げた。
「きっとそうでしょうね。行くときはラパンさんも連れて行ってください」
ウトバムが言葉を続ける。
「回収依頼ということは、あそこで何かを落としてきたのでしょう。自分たちでは回収不可能な形で」
「単に一定期間置いておくような装置だったり」
「それはないでしょうね。もしそうなら回収も含めて計画に入っているでしょう。回収依頼を外に出すにしても、計画的なものになるはずです」
「なるほど。なるはやで拾って来てくれって依頼はつまり、計画外の何かが起こったってことか」
「ところで回収したいものってこれらしいんだが……」
サンプルとして同じデザインのものを預かっている。ほんの小さな金属の筒。カプセルと言った方が分かりやすいかもしれない。これを森の中から見つけ出すというのは普通に考えたら正気の沙汰ではない。が、
「小さいですね。なるほど」
アレクが受け取る。
「これなら近くにあれば見つけることは可能だと思います」
◆◆◆
そして今、彼らは結界の内側で、その小さなカプセルを探していた。主にアレクが。そしてアレクが少し疲れてきて、他のメンバーは退屈してきたころ。
「あそこ、あのへんに落ちてるはずです」
アレクが指さした方をすばやく確認するヴィム。
「あれだな」
ヴィムがそれを摘まみ上げると、皆の気が緩んだ。
しかしそれを持ち帰るためには第一層の結界を抜けなければならない。それもアレクの仕事である。ポーチから気休め程度の栄養ドリンクを取り出して一気飲みする。別に魔力が補われるとかそういった効果のあるものではない。ただ、少し集中力が上がって、ちょっとやる気が出るだけの、甘ったるい液体である。飲み干したあとのビンをその辺に投げ捨てようとして……思いとどまってポーチに戻した。
「開けます」
結界第一層に人が通れる程度の穴をあける。そこで手ごたえに混ざる違和感。
「気付かれました!」
直後、圧力を持った視線が全員の体を射貫く。そう感じて一瞬すくみそうになったところに声が上がる。
「ラパンが足止めするぴょん! はやく行くぴょん!」
その声で硬直しかかった体が解放される。
「すまん!」
ヴィムの判断は早かった。ラパンを残し他のメンバーが結界を抜ける。
「ネズミかと思ったら、おおきなウサギさんだったのね」
神官服を着たミイラが近づいてきていた。
「そうだぴょん! うさぎのおねえさんと、少し遊んでいってもらうぴょん!」
次回100回目です。100話で一旦話の区切りがついて、そこから毎日更新をやめて頻度を下げるつもりだったのですが……おもってたところまで話が進んでません(苦笑)




