98 錬金術師があらわれた
でかいブロッコリー。多分何か名前があるんだろうが、とにかく緑色のソレが近づいてくる。どうやって移動しているのかと思ったが、脚? 根? がゆっくりとうねっている。触手と言ってもいいんだろうか。黒い魔法球が飛んで行ったが何も起こらなかった。
「あれ?」
使い方に慣れてないせいか? 剣で切りかかるには近づかなきゃいけないが……
「枯れろ」
生命力を奪おうとしてみる。なんだこれ。まずい。薄い。やはり生命力を吸うのは女の子に限る。というほど経験があるわけじゃないが。
「見た目通りの植物ではないのかもしれませんね」
「触手で這いずって来るのは“植物”に分類していいのか?」
必要な連中が個別に特徴を調べたりそれを纏めたりはしているものの、わざわざ系統立てるようなことはあまりされないらしい。
「ってまあそんなことはどうでもいいか」
俺が吸い出した分の生命力は、根から吸い上げて補っているようだ。これじゃあ沼を相手に戦うようなもんだ。走って逃げられないことは無さそうなんだが、それもそれでどうも嫌な感じがするんだよなあ。
「おやおやおやおや」
俺の斜め後ろから突然声がした。俺は今360度の視界を持ってるはずなんだが、いくらブロッコリーの方に気が向いていたとはいえこいつの接近に気付かなかった。
「お困りですかな」
とにかく見た目がうさん臭い。二本の角のような帽子。角がそれぞれ色分けされている。ピエロがかぶってそうなやつだ。顔つきは地味だが整っている。色々首から下げているが、服は……道士服に似ている気がする。
「通りすがりの錬金術師です」
「金ならないぞ」
「いえそういう類のものではありません」
「どこから来た?」
「ミノンから」
そういう意味で聞いたんじゃないんだが……まあいいか。
「困ってはいないし金もないが、このブロッコリーどもを何とかできる、ということかな」
「そうですな。この程度であれば」
首からさげているじゃらじゃらの一つを外した。アクセサリーかと思ったが薬とか入ってるのか。こけたら大変そうだ。
「ほっ」
ブロッコリーどもの足元に飛んで行ったそれは、割れて何かがぬかるみの上に広がる。
「ちょっとだけ生命力を吸っていただけますかな」
まずいからあまりやりたくないんだが……やらなきゃだめかな?
「やっていただけなくてもなんとかなりますが……お願いできるとすぐ片付きます」
「仕方ないな……枯れろ」
ぐええやっぱりまずい。が、今度はブロッコリーが茶色く変色しはじめた。
「おお、さすがですな」




