96 魔物の襲撃です
楽しくおしゃべりしながら当初の予定通り道を外れて湿地帯に入る。これ生身だと相当不快なんだろうなあ。俺もイライザも足元が汚れはするがあまり気にならない。サラは……少し浮いて平行移動しているな。自由な奴だ。
「サラが浮くのに使うエネルギーって何だろうな」
「考えたこともないですわ」
湿地帯は足場が悪いせいか、面倒な魔物が少ない。沼には沼の、茂みには茂みの危険があるものの、今歩いているのはその間にあるような土地である。ただ、多くの荷物を背負った人間や馬車なんかには向かないので、わざわざ通ろうという人間はいない。なので基本的には、わざわざ襲ってくる魔物もいない。
「ぐぎゃぎゃぎゃぎゃ」
まあ、だからといって油断しすぎだったというのは認めよう。これは……ゴブリンってやつでいいのかな? 茂みというか森というか、不用意に近づくべきではなかったらしい。緑色の小鬼の群れが襲ってきた。汚い腰蓑を一応身に着けているのだが……ボロボロすぎて中身が見えてるぞ。しまえ。うらやましくなんかないぞ。俺も今の体にはちゃんとついてるからな。おこさまボディにも一応ついてたしな。
「ぐぎゃっ」
二匹が同時に俺に襲い掛かる。ゴブリンたちは特に武装していない。この体にまだ馴染んでないんだけど、まあなんとかなるか。武器、と思ったら体がやり方を伝えてくる。
「こうかな?」
手首から先が伸びる。黒い剣? 同時に視野が360度に拡張される。あのな。そういうことは先に言っておいてくれないと、びっくりするだろうが。とりあえず襲ってきた二匹はまとめて薙ぎ払う。その向こうに石を握ってるやつがいるな。
「おっと」
ファンネルか? 俺の周囲に浮いていた何らかの魔術式……だと思うんだが、意識を向けるだけで、石を握ってたやつを含む三体のゴブリンに向かって行って吹っ飛ばした。ちょっと敏感すぎるな。
「汚いですわー!」
サラがぴんと伸ばした腕の先で、ゴブリンの首を締めている。ああ、ひどいな。首だけで持ち上げられたゴブリンの顔が変な色になってるぞ。リーチが違いすぎてゴブリンは文字通り手も足も出ない。ほっといても問題ないだろう。それより。
「なんか別口が寄ってきてるぞ」
沼の方に巨大なブロッコリーみたいな木が何本か生えてるなと思ってたら、それらがこちらに向かって動き出した。木じゃなかったんだなあれ。あと、真後ろも見えるので死角がないのはいいんだが、ちょっと気持ち悪い。視覚情報が増えすぎて酔いそう。そのうち慣れるんだろうか。
「あとで説明書作って渡してくれよなー」
多機能すぎて、人間の体のつもりでいるとわけわかんなくなるんだよ。




