94 城から出ましょう
「まあ、元の体の股間がなぜか光ってるのはともかく、だ」
「第二の環は元の体に残していますから……」
「ともかく、だ」
気にしても仕方がないことは気にしないのだ。きっと股間が光るのも必要なことなんだろう。まったく理由が想像できないけど。
「その体に向かって引っ張られてる感じがするんだが」
「今回の処置の副作用のようなものですね。マスターのそちらの体に何かあれば、こちらの体に戻ってくる、命綱のようなものです」
「まあ、ある意味便利かな。もしどこまで離れてもこの感覚が続くなら、どれだけ道に迷っても引っ張られる方に向かえばいつかここにつくんだろう」
「マスター、本気で困ったときはその体を捨ててくださいね」
ということで、出かけることになった。それにしても殺風景な部屋だと思っていたんだが、あの体を通して見る視界が必要最低限しか認識してなかっただけなのだな。何が見えているか聞かれたときには何を言われているのか分からなかったけど、なるほどね。
「魔力による知覚というのは、人が体で感じるものと大きく違うのですが、本人がそれに気付くことは難しいのです」
「今見えているのは人間が見るものに近いのかな」
「そのように作ったつもりですが……マスターがどのように感じられるかはマスターにしかわかりませんから」
そりゃそうか。同じものを見て同じ色の名前を口にしても、本当に同じように感じているのかは確かめようがないからな。
「それにしても、今まで俺が城の外に出ようと思いつきもしなかったのは何故だろうな」
城門をくぐりながら疑問を口にする。城の中は少し見て回ったけど、ほとんどはぼろ椅子の上で過ごしてるんだよな。座りっぱなしでも尻が痛くならないのは骨の体の利点かもしれない。
「それはマスターの思考があの体に引っ張られていたからですね」
「引っ張られる?」
「例えば生身の場合でも、体調が悪いと短気になるとか外に出たくなくなるとか、あるいは薬で気分が高揚するとか、そういった形で体の状態は感情や判断に影響を及ぼしますよね」
「ああ、確かに。昔頭痛持ちだったからな。頭が痛いと集中力なくなるしイライラするし、ロクなことなかったな」
「わたくしもですわ」
サラもそうなのか。仲間だな。
「マスターのおかげで憂鬱から解放されましたわ」
そのかわり基本的にぴょんぴょん跳ねるようになったけどな。今もお札を額に貼って跳ねている。とはいえこれはもうサラの趣味みたいなものだ。滑らかに動くこともできるようになったというのに、サラはよくこのスタイルで出歩いているらしい。
一緒に出掛けるのはイライザ、サラ、俺の三人。ただ、アリシアは俺と魔力的なつながりが強いのでいつでも普通に話ができる。ということでアリシアとアシュ、ヒカル、ホタルは留守番かな。アシュはそもそも動けないし。
「ということで、吸血鬼の里ってのに向かおうか!」
俺は今猛烈にわくわくしている!
おニューのボディでさくっと城から出るはずが……




