92 新しい体に乗り移りましょう
俺の目の前には俺の新しい体が横たわっている。俺の隣にはサラとアリシア、新しい体の方にイライザ。ヒカルとホタルは上の方に漂っていて、アシュはまあ、いつも通りだ。
おこさまボディの場合はその視覚や聴覚を俺の感覚につないでもらうだけなのでどこにあっても問題ないのだが、今回のは“乗り移る”という感じらしい。
「他人の体に乗り移るとか、そんな簡単にできるものなのか?」
少なくとも俺の記憶では人間は普通そんなことできない。できないはずだ。異世界召喚された挙句魂と体がスパーンと泣きわかれた俺が普通どうこうって言うのも変な話だけどな。
「普通に自我を持った他人には難しいですし、まず成功はしないですよ」
やっぱそうだよな。相手に意識がないとか、何か同調しやすい条件があるとまた違うらしいけど。そういうのは転生前に物語で読んだ気がする。人間がするようなものでもないが。いや、そうでもないか。古典だとわりとアリかもしれない?生霊とか。
イライザが何か作業をしながら説明を続けてくれる。
「今回は乗り移る先の体は死体をベースに作ったものなので、そういう抵抗は気にしなくていいです」
てきぱきと作業をしているイライザのところにアリシアが時々魔力を流しているようだ。魔力量のコントロールはアリシアが、魔術回路の細かな調整はイライザが担当している……っぽい。もしかしたらアリシアがやっているのはそれだけではないかも。もう少し知識があればな。
「むしろ、空っぽの器というのは中身を欲するものなのです」
ゾンビ映画でゾンビが人を襲う理由みたいなものか。イライザが話しながらも色々なところに手を当てている。なるほど、アリシアは単に魔力を必要なだけ流してるんじゃなくて、必要なところで俺の魔力を混ぜてるのか。時々少しだけ力を持って行ってるな。乗り移りやすくするためか、乗り移った後で馴染みやすくするためか、あるいは両方かもしれない。
「用意したその体も、本来ならものすごく魂を取り込みたいはずです」
そうなのか。ヒカルとホタルは平気なのかな。まあ平気なようにはしてくれてるんだろう。本来ならって言ったしな。取り込まれたら取り込まれたで面白いとは思うが。
「むしろ問題は、その骨の体ですね」
アリシアが説明を補足してくれるようだ。
「どういうこと?」
「マスターは召喚に失敗したとき、その体に引っ張られて魂の霧散を免れました」
「そういえばそんな話だったな」
「普通の死体にはそこまでの力はありません。素性が素性で、場所も場所なので、魂を取り込む力が桁違いなんですよ。ですので」
俺の周りにいくつもの魔法陣が展開される。
「その体の力を一度抑えさせていただきます。その隙にマスターの意識を移します」




