87 アンデッドと人間の共存する街
「人がいれば神殿も無茶はしない……かな?」
死者の街キリタチというのも面白いと思ったが、あまり攻めてこられるようでも手間がかかる。住人がどんどん減ってしまうのも、そこまで痛手ではないものの面白くはない。そう考えたのだが
「どうでしょうね、あまり気にしないかもしれません」
「そうか……」
いちいち神殿が攻めてくるのも面倒だし、人の行き来もあって店もあれば街の方にはあまり手出ししてこなくなるといいなと思ったんだが。まあそこはある程度街に生活基盤のある人を増やすことで、人間同士何とかしてもらおう。本音を言えば、できれば城の方に直接来てほしいものだ。
「街をうまく回していくためにも、商会の人たちにはぜひとも安定した商売をしてほしいものだな」
商会には冒険者相手の店を好きに開いてもらって良いことと、労働力として街の住人を提供できることを伝えておいた。うまくいけば死者と生者が混在する街になるだろう。
「そうなると神殿はむしろ積極的に攻めてくるかもしれませんね」
アリシアが何故か少し嬉しそうに言ったように見えた。ますます好戦的になってない?大丈夫?とりあえず俺はアリシアを抱き寄せてなだめるように背中を撫でる。
「人と戦うのは騎士の仕事、という見解は騎士と神官で一致してるんですけどね」
つまり、“人”の解釈の違いか。
「特に中央大神殿は、異教徒や、彼らが異端と判断したものは人だと思ってないですからね。それらと騎士が戦うのもあまり良く思ってないです」
なんとなく想像はできるな。しかしそうすると城にも攻めてくるかもしれないが、街は街で、生きた人が生活する街になったとしても連中が目をつける理由はあるということだな。それは……
「でもそうなると、商会は話を受けてくれるかな? 割とリスクも大きいってことだよな」
「彼らは大丈夫だと思いますわ。国内でも神殿に目をつけられている土地はいくつもありますし、そういうところにも出入りしているはずですから」
「いざとなれば真っ先に撤退するのが商売人ってやつだしね。耳も鼻も効くから、なにか起きた時には店はすでに畳んだ後、ってのもよく聞く話さ」
ヒカルも話しに乗ってくる。なるほど。彼らは彼らでプロなんだなあ。俺は商会長の顔を思い出す。まだぎこちない動きのサラとおこさまボディの俺に対して、何の疑問もないかのように振舞っていた。
「マスターはやりたいことをやりたいと言えばいいのですわ」
サラまでがアリシアとおなじようなことを言い始めたぞ。
「俺、実は結構甘やかされてるよね」




