85 観測気球を上げましょう
音はオマケみたいなものだし、イビルアイの死骸も何体かあるので、とにかくまずは一体上げてみることにした。百聞は一見に如かず、下手の考え休むに似たりって奴だ。トライアンドエラーだ。アジャイルだ。よくわからないけど。
「ここの真上がいいんだっけ」
「そうですね。アシュの上なら大体誤差の範囲だとは思いますが、多少ブレることも想定するならできるだけ真上がいいですね」
「どうやって真上にもっていこうか」
「じゃあそれは私が行きます」
ホタルがいってくれるらしい。悪霊としての能力に念動力があるし、本人は壁や天井に関係なく動けるから簡単に持っていける。早速活躍の機会があった。
「マスターのお役に立てるのはうれしいけど、もうちょっと派手な活躍がしたいです」
俺も派手な活躍は見てみたい。期待して待とう。
「だいたいこの辺だと思います」
「うん、いい感じだと思うな」
アシュも確認してくれる。イビルアイの羽を使って微調整はできるので、だいたいいい位置に置いてくれれば後は上向きに力を流すだけでいいはずだ。
「じゃあ、上げようか」
少しずつ力を流してみる。アシュが外の様子も見せてくれる。二画面同時に見えるのも面白いな。
「微調整って自動なんだっけ?」
「はい、マスター。基本的には自動でマスターの真上に居続けるようになっています」
「あまり大きな力がかかると修正しきれないかもしれませんが、まずは上げてみるというお話でしたので」
その通り。試作一号にいきなりあれもこれも詰め込む必要はない。まずは上がることと、目と耳が使えることが確認したい。羽により調整機能も楽しみだ。
「ああ、それでいい」
今パラシュートが魔力を受けてぴんと張っている状態だ。もう少し力をかけたら浮き上がるだろう。
「この分だとあまり力を込めなくても上がりそうだな」
勢いよく力をこめて吹っ飛ばしてしまっても困るので、少しずつ様子を見る。
「離陸させる」
ふわっとイビルアイが浮く。姿勢の制御も問題なさそうだ。イビルアイ側の視界も安定している。正直もう少しブレると思っていた。
「目と体の動きで視線の揺れを抑える仕組みと、魔術回路のほうで揺れを打ち消す仕組みを作ってみたんです」
イライザの工夫は前世でカメラについていた手振れ補正のようななもののようだ。すごいな、そういうのを作れるというのは。しかし新しい仕組みを考える、前に進むというのはアンデッドにも可能なのか。特にイライザは、イライザのどの部分がそれを司っているのか興味深いな。それはともかく。
「もう少し勢いよく上げても大丈夫そうかな」
「大丈夫だと思います」
少しずつスピードを上げてみる。森の向こうに街が見えるな。山もある。なるほど、あまり厳密なものでなくてよければ地形図も書けそうだ。天気が悪ければ遠くは見えないし、山の向こうも見ることはできないけど。後者は高く上げていけば大丈夫だろうけど。
「あと、あれだな。高度がわからないのは残念だな」
高さと角度がわかれば距離も計算できるしな。
「二号機には高さがわかる仕組みも入れるようにしましょう。マスターとの距離がわかればいいんですよね」
なるほど、俺の真上なんだからそれでいいのか。二号機が楽しみになってきたな。でもせっかくなのでまずは一号機の視界を堪能しよう。




