81 神秘を体現するものだそうです
「その前にちょっと話をしてみようかな?なんか後ろにおっさんいるよね」
「いるわねー。ちょっと拡大するわね」
聖女達とも武装神官とも違う服を着たおっさんが後方にいるのが見えた。“まっとうでない神官”というやつかな? それをアシュが拡大して見せてくれる。
「このおっさんに声届くようにできるかな?」
「まかせてー」
どうでもいいがアシュの能力は便利すぎるな……移動できないのが惜しいところだ。さすがに城を動かすというわけにもいかない。
「用意できたわよー」
「あーあー、テステス。そこのおっさん、聞こえてるかな?」
「聞こえていますよ。聞こえてはいますが……」
なんかプルプルと震えているな。どうした。
「おっさんではありません! 技術神官エルシャです!」
そこか。こだわるポイントはそこなのか。そして双方向なのか。すごいな。クリアにおっさんの声を拾っている。アシュすごいぞポイントが+1された。
ってそれはともかく。
「技術神官?」
小声でアリシアに聞いてみる。なんかちぐはぐな肩書に聞こえるのは気のせいか。
「一般的には、武装神官の武器や、聖具なんかを作ったりメンテナンスしてたりする神官です、マスター」
「うむ、概ねその理解であっている」
聞こえてたか。しかしそんなマトモそうなおっさんにも見えないんだけどな。だいたいあんな子達つれてきた奴だしな。
「ただし、我々は一般の技術神官とは違いますよ!」
なんか偉そうに胸を張った。スイッチ入ったなこいつ……めんどくせえ。あとテンション高ぇ。
「我々は、真に神聖なる戦いを支えるべく日夜新たな可能性を模索する、大聖堂の中で最も崇高な使命を持つ、“神秘を体現するもの”なのですよ!」
「俺の言えた義理ではないが、なんというか崇高とか神聖とかいうにはあまりにも禍々しくないかな、その子達。おっさんのほうが俺なんかよりよっぽど外道というか、邪道というか……」
「邪法外法大いに結構、我々は神の教えのためならすべてを捧げるのです! 幸いなるかな幸いなるかな幸いなるかな!」
「それは大聖堂の信仰とはちょっと違うんじゃないかな……」
アリシアが小声で呟きながら少し呆れた顔をした。肉がほとんどないのにアリシアの表情はよくわかる。
「リューゼとファルムの逸話。神の力の代行たる天使。その力は正しく振るわれるべきでしょう? 大聖堂は正しく天使の力を行使しなければならんのです! そのためには聖女の数が圧倒的に足りないのですよ!」
アリシアの小声も伝わるらしい。あまりマイクの性能が高いのも考え物だな。そもそもマイクどこだ。
「それ自体が神の意志であるとは考えないのね」
「笑止! 神殿から出たものが神の意志を語りますか!」
アリシアがため息をついたように見えた。息してないけどね。
「それに、あんな雑な祝福で“すべてを捧げる”とか力まれても、ちょっと痛々しいんですよね。だいたい捧げてるのあのおっさんじゃないじゃないですか」
あ、呆れを怒りが上回ったようだ。
「ちょっとおしおきしてきてもいいですか、マスター」
◆◆◆
武装神官たちには馬車の中での待機命令が出ていた。
「帰るんじゃないのか」
「あるいはもう一度打って出るとか、なあ」
一部の神官達は三両目のことを気にしている。
「あの開いてた馬車には結局何が乗ってたんだろうな」
「もしかしてそれが帰ってくるのを待ってるのか?」




