77 キリタチの神官
75話、アリシアが一緒にいるような書き方になってましたがリモートで会話しています(修正済み)
地方の小規模な神殿はだいたい住居を兼ねている、らしい。礼拝堂のついた家といった趣で、礼拝堂入り口と反対側に住居用の玄関があるが、一応礼拝堂と住居を行き来できるように、建物内でも関係者用の扉でつながっている。
俺は素直に礼拝堂から入った。客……と言うのだろうか、祈りを捧げるものが三名。これはNPCだ。たまたまここにいるときに街の作り替えに遭ったのだろう。かわいそうだとは思わないが、かわいそうだと思わない自分には少し驚く。前世の記憶からすれば俺はもう少しこういうのに心が動きそうなものだが、異世界だからなのか、骨ボディの影響なのか、それとも死霊王とやらに近づいているのか……最後のは違いそうだな。アリシアとつながった時からあまり変わった気はしない。
「さすがに礼拝堂にはいないか」
俺が探してるのは例の肉塊だ。一応飲まず食わずでも生きていられるはずだが、様子は見ておきたい。あと、単純に、会いに行ったらどんな反応をするのかも見てみたい。やはり生きた人間が一人、住居部分にいるようだ。
「客が訪ねてきたんだ、出てきてくれてもいいんだぞ」
一応声をかけてみるが、一本腕で動くのも大変だろう。手のひらにしか目がついてないから手をつくのも何かを掴むのも不便だろうしな。もうちょっと目の位置は考えてやればよかったかもしれん。
とりあえず奥の関係者用の扉から住居側にお邪魔する。
「おじゃましますー」
なんだろうな、気を遣う相手ではないのだがこういう言葉というのは省略しにくいものだ。どうやら彼女は寝室のベッドの上にいるらしい。床や椅子よりは居やすいのだろう。
「お、いたいた」
声に反応したのか、その前から気付いていたのかわからないが肉塊が腕を上げて手のひらをこちらに向ける。手のひらの目が俺を捉える。
それにしても、これが“生きた人間”の気配としてとらえられるのも面白い話だ。生身の体でこれに遭遇したら普通に化け物か何かだと思うだろうにな。
「グ……グブ……ブ……」
俺を見て何か音を出している。
「残念だが何を言っているのかわからんな。もう少し頑張れ」
声はちゃんと聞こえているのだろう。一つしかない目が俺を睨んだ。体を少しよじるような動きをする。
「グ……ゴ……ゴロ……」
殺すなのか、殺してくれなのか、他の何かなのかわからないが、さっきよりは人の声に近くなった。何年かしたら聖句のひとつも口にできるようになるんじゃなかろうか。口はないけど。下の口ぐらいちゃんとつけてやればよかったかな?と一瞬思ったがそもそもそんなパーツ残ってなかったな。
「お前はここの神殿の神官なんだから、ちゃんと礼拝堂に客が来たら相手してやれよ」
言い残すと俺は礼拝堂を通り抜けて外に出た。霧が心地よいな。
「あー、よく考えたらあいつ、この姿では俺だとわからないんじゃないか?」




