75 街を散策しましょう
(1/15)すみません、アリシアはリモートで話しているつもりだったのですがその描写が抜けていました。
お子様ボディでキリタチの街を見て回る。規模の割に静かなのは生者がほとんどいない上に、たちこめた霧のせいで音があまり響かないからだ。この雰囲気はとても良いな。店番なんかは必要な挨拶や受け答えをするようになっているし、それ以外の住人も話しかければ多少は話すように設定されている。たとえば
「ようこそ。ここはキリタチの街です」
このように馬車の駅近くに立っている彼はあえてこれしか言わないようにしてもらった。もう一人、歩きで街に入ってきた人のために、街の境界のところにも同じ設定の男を用意してもらっている。そういうお約束って欲しいじゃない?誰にも伝わらないかもしれないけど。いや、まてよ?俺は召喚に失敗したから骨ボディに吸い寄せられてこんなことになってるけど、ちゃんと召喚された勇者ならもしかするとこのお約束が伝わるかもしれないんだったな……日本から召喚されるとは限らないしそもそも召喚元の世界が一つなのか複数なのかもわからないけど。アリシアもそれはわからないみたいな話してたな。
「ええと、勇者って何する人なんだっけ。前に聞いた気がするんだけど……」
「勇者は人の脅威に対峙する存在です、マスター」
城のアリシアから返事が来る。
「俺は、というか死霊王は違うんだっけ」
「本来は違います。どちらかというと災害とか天災のカテゴリに属するものです。が、勇者が、または勇者召喚を行ったものがどう考えどう行動するかはわかりませんし、マスターが黒王だという勘違いもあり得ます。勇者がマスターと対峙するかどうかは……五分五分といったところでしょうか」
なるほど、じゃあ勇者をお迎えする準備も整えていくべきなんだろうな。とはいえあまり特別なことは思いつかないけど。
「人の力の及ばない時に勇者が呼ばれ現れるものですので、勇者が現れるとしてもその前にまずは勇者以外の何者かがマスターの前には現れるでしょうね」
「そういえば何か来てたよね」
「ええ、あれは何というか、どこかの勢力の暴走といった雰囲気でしたが。準備不足感は否めないですが、それでもちゃんと準備して抜け道を調べてきてたようですしね」
残念ながらとても弱かったので、あまり話が聞ける感じでもなかったしね。ああそうだ。あの子の様子を見に行こう。
「神殿かぁ。俺が入っても大丈夫かな?うっかり浄化されたりしない?」
「マスターが神殿に施された加護程度でどうにかなるわけがないでしょう?」
まあそれもそうか。アリシアが言うと説得力があるな。そんなことを考えながら神殿へ続く道を歩く。すれ違う人がいても大抵はNPC、つまりはもともとのこの街の住人なんだけど、何人か生きた人間もいるようだ。
「何しに来てるのかそのうち確かめるかな?」
商会の人なんかは定期的に来てたみたいだし、他にもいろいろな理由で街を訪れる人はいるはずだ。この付近で採取できる何かの依頼を受けた冒険者も居るかもしれない。もしかしたら神殿にも祈りに来るかも?それは楽しみだな。




