74 不和
薄暗い部屋に仮面の男が三人。王家の連絡係である仮面の大臣たちの、“秘密の小部屋”である。大臣の数は限られている上に、好き嫌いは別にして、互いに全く知らない相手ではない。当然素性はわかっている。が、この場では“顔も知らない何者か”として振る舞う。そういうルールである。
「帰ってこない?」
「刻限を過ぎても報告がない」
「失敗したという事か」
話しているのは黒王の棺に送り込んだアサシン達の事。失敗するはずがないと思っていた連中が、消息を断った。
「まあ、そういうことになるのだろうな」
「無責任ではないか」
「だれに責任があると?」
誰でもないのだから、誰にも責任は問えない。強いて言うならこの部屋にいる三人の責任である。わかっているからそれ以上の追及はない。無責任だという声も、ただの八つ当たりである。
「しかしこのままでは聖都が動くのを止められんな」
「あれは分室とやらで遊んでいるのだろう?」
「分室はどちらかというと我らへの牽制だな。効果がなかったとなれば若造が直接動くかもしれん」
世間的にはレオナルドも決して若くはない。が、王都の大臣ともなればかなりの高齢であることも珍しくない。むしろ世間なら引退するような年齢が若手と呼ばれる世界でもある。
「拝み屋風情が忌々しいことだ。素直に引き籠っておればよいものを」
「それはそうだが……我々としても次を考えねばなるまい」
「失敗しましたと素直に報告するのか、別の手を打つのか」
「我らの役目は依頼を聞き、伝えるのみ」
「我らの役目は依頼を連中に伝え、完了を報告する事ではないか」
今まで直面したことのない問題を前に、認識の齟齬は簡単に埋まりそうになかった。
◆◆◆
「年寄りたちが穴倉でなにやら楽しそうなことをしてるらしいじゃないか」
王都のはずれに建つ、豪華だが宮殿と呼ぶにはあまりにも貧相な建物。わざわざ周知されていないが、第六王子が王都に戻ったときに住まう“宮殿”である。兄弟には庵と呼ぶ者もいるが、建物の主は呼ばれ方を気にしていない。要は気楽に過ごせる空間があればいいのだ。そしてここには強力な防音魔術が施されている。
「あれらは別に自分の頭で動くわけではないですからね。与えられた役割を全うできずに混乱しているのでしょう。それにしても、今回は誰が動かしたんでしょうね」
「どうせ叔父上あたりだろうな。兄上たちにも父上にも、今動く理由がないからな」
「黒王とやらが王にとっての直接の脅威になるわけでもないですしね。それにいつでも首が取れるなら今じゃなくてもいいですし。まあ、取れなかったわけですが」
「王国にとっての脅威には違いないのだがな。今は分室とやらに任せておいても問題ないだろう。それに……」
ちょっとだけ聖都の方に目を向ける。勿論壁しか見えないのだが。
「レオナルドもいつまでも我慢してられないだろうしな」




