72 人のカタチ
ぎりぎり生きてそうだった、というかまあ死んでないとぎりぎり言えなくもない女アサシンの体の一部が回収されてきたので、ちょっと出来心で、そのまま死なないように部品同士をつないでみたのだが……
「うーん、これは……」
「マスターの芸術センスは素晴らしいと思いますわ」
「ええ……」
「肉体がなくても吐き気ってするんですね……」
サラだけがほめてくれるが、正直自分でもこれは悪趣味だとしか思えない。肉塊から腕が一本だけ生えていて、その手のひらに目がついている。以上。
「……いや、俺もこれはひどいと思う……」
しかもこれで生きているのだ。手をあちこちに向けているのは多分状況を把握しようとしているのだろう。口はないが一応体の一部を震わせて音は出せるはずだ。が、訓練しないと言葉のような複雑な音は扱えないだろう。音も聞こえているはずだ。
「仕方ないですわ。体のほとんどは消し飛んでましたし」
「ちょっとおもてなしが過ぎましたね……」
「他の侵入者は形が残らなかったから……」
まあ不法侵入の報いを受けただけ、という気もするのだけど。
「死なない処置はうまくいってると思うんだけど、腐らないかどうかはしばらく様子見だなあ」
「マスターならその辺の術理は何も考えなくてもこうしたいと思った形に組み立てられるので、うまくいっているはずです」
「どういう仕組みかわからないけどすごいよね」
何度かアリシアが説明してくれた気はするけど、理解できないものは仕方がない。
「じゃあ、この子はどうしましょうか」
残ったパーツを組み合わせた、とりあえず生きている“人間”だ。死んではいない。アシュケローン城とキリタチの街を合わせてゆいいつの生きた人間。それにふさわしい場所……となると。
「小さいけど神殿があっただろ?あそこで神官っぽいポジションをやってもらうのがいいんじゃないかな」
「マスターのセンスってやっぱり……」
「すばらしいですわね」
「えぇ……」
そんなにダメだろうか。センスがある方だとも思わないが。
「いえいえ、神殿は生者のためのものですから。マスターの判断は正しいと思いますよ」
アリシアが良いでも悪いでもなく“正しい”と言ってくれる。ちくしょうめ。
「聞こえていますよね。あなたは人間です。誰が何と言おうと、マスターがあなたを人間として生かした。だからあなたは人間です。あなたにはキリタチの街の神殿を与えます。そこで神に祈るもよし、神を呪うもよし。好きに“生きる”と良いでしょう」




