70 アサシンと地下ダンジョン
ダンジョンの話をしてからしばらく経って。
「そのうち来るとは思ってたけど、やっぱり来たわよ。地下の隠し通路からこそこそと」
アシュの声は内容と裏腹に弾んでいる。
「おもてなしの準備は万全なんだろう?」
以前アシュに相談されていたのだ。この城には大昔の抜け道が残っている。きっとそのうちそれに気づいて人を送り込んでくるだろうから、おもてなしの準備がしたい、と。俺もそれは楽しそうだと思ったので、好きなだけ魔力を使って準備するように言っておいたのだ。魔力自体は地獄の釜から無尽蔵に汲み上げられる。
「かんぺきよ!暗黒大陸の大迷宮ほどじゃないけど、そこらのダンジョンなんかめじゃないわ!」
暗黒大陸というのがどんなところかは知らないが、なんだかすごそうなものが比較対象に挙がってちょっと驚いた。はりきりすぎじゃないかな?
「暗黒大陸って何?」
イライザが首をかしげる。知らないのは俺だけではないらしく、ちょっとほっとする。
「え、もしかして誰も知らない?」
どうやら冗談だったようで、やっちゃったなーという声色になっている。表情が見えないのが残念だ。
「この国の世界地図ってこれだぞ?」
アシュがどこから見てるのかわからないが、以前手に入れた世界地図をぴらぴらと振って見せる。海の向こうはよくわかっていないらしく、いくつかの海の生き物の絵が描かれているだけだ。
「えぇ……知らない間に何があったの……?」
◆◆◆
今回の作戦には八人の暗殺者が参加している。それぞれ十分な技術の持ち主であり、皆がその人数を過剰だと感じていた。地図の通りに進み、密かに黒王と呼ばれる存在を殺す。必要なら取り巻きも殺す。殺し方も問わない単純な注文だ。
途中までは地図の通りに進んでいた。なのでそれなりに簡単な仕事だと思っていた。しかし二度目の下り階段に出会ったときに、その見通しが甘かったことを知った。
「どうやら地図は当てにならないらしいな」
見せられたのは古い地図だ。多少構造が変わっていることもあるだろう。しかし抜け道なんてものは、何かあったときに使えなければ意味がない。緊急事態に備えたものである以上複雑な仕掛けや罠などは仕掛けにくい。出入口に多少の面倒な仕掛けがあってもそれ以外は大した仕掛けも危険もないはずだった。しかし。地図になかった下り階段の先から、嫌な気配がビンビンしてくる。
「黒王と取り巻きだけ倒せばいい楽な仕事だと思っていたが……」




