69 ダンジョンを作りましょう
「我々に任せておけばいいものを」
大神官レオナルドは不機嫌を隠さない顔と声色で部下の報告を聞いていた。彼は聖職者のトップであり、それはすなわち巨大な政治勢力のトップであるということだ。王都の動向についてもそれなりに把握しているし、把握するために様々な種類の努力を厭わない。
「余計な介入を避けようとしたのだが……策を弄しすぎたか」
神殿や聖女に話が及びそうだったので色々まとめて“黒王対策分室”という小さな組織に押し付けられるように裏で色々と画策してきたのは、もちろん他に利害の一致する有力者達がいてのことではあるが、レオナルドは自分が主体になって工作してきた結果だと思っている。その小さな組織が結果を出せないこと自体は彼の計画通りなのだが、それが生んだ余計な副作用はあまり喜ばしいものではなかった。
「王家が動くか」
王自身が関わっているとは思えないが、それなりに高位の王族でなければ王家直属の機関を動かすようなことはできないだろう。
「……我々に任せておけばいいものを」
レオナルドは同じセリフを二度吐いた。
◆◆◆
王国には王国の裏側があり、諜報組織があり、お約束のように王家直属のなんでも屋のような連中もいる。直接はかかわりのない顔をしているので、話をするのは仮面を被った大臣だが、彼はあくまで王や王族の伝言役でしかない。
「あの城には大昔の抜け道があるらしい。そこを通って黒王を直接殺せ」
指示はシンプルである。その指示が王族の誰から出されたものなのか彼らは気にしない。
「抜け道の地図は」
「ここにある。見て覚えていけ」
仮面越しのくぐもった声。声の主が誰なのか、どの大臣なのか、この場にいる人間は気にしない。中には気付いてしまう者もいるだろうし、能力的にはその程度でわからなくなるような者はいないのだが、その仮面は“誰でもない”という記号なのだから。
◆◆◆
それより少し前のこと。
「抜け道?」
「ええ、抜け道。お城だからねー、そういうのもあるのよ」
「まあそりゃそうか」
「マスターには必要ないでしょ?で、生身の人間を私に住まわせることももうなさそうじゃない?」
「まあ、そうだなあ」
「で、ずーっと昔から抜け道があるわけで、どこかにそれが伝わってるかもしれない、でしょ?だからね……」
アシュとしては、その抜け道をダンジョンにしてしまいたいらしい。まあ、正面きってここに来る奴も……まあサラ達がいたが……まずいないだろうし、たどり着けもしないだろうから、なるほどそういう抜け道の情報を手に入れたらそこから来るかもしれないな。塞いでもいいんだろうけど……
「アシュは、塞ぐよりもダンジョンにしたいんだよな?」
「そうね。マスターがダメというなら諦めるけど……」
「いや、ダメじゃないぞ。好きにしてくれてかまわない。ただ塞ぐよりそっちのほうが面白そうだしな」
そういうことになった。




