66 街の名前を考えましょう
「マスターの街になったのですし、名前を変えるべきですわ」
サラが唐突にそんなことを言い出した。それにしてもサラは本当に滑らかにしゃべるようになったなあ。体の動きも硬さが取れてきた。
「街の名前かぁ……」
いかんな、死者の街というとムーンブルクかテドンしか思いつかない。古い?名作だからいいんだよ。夜だけ街として機能するのも面白いかな?
「マスター、マスターがそうあるべしと定めれば、街はそのようになりますよ」
「なにそれこわい」
「マスターが何かをしたいと思い、私たちがそれをお手伝いすることで、マスターは死霊王としてより強くふるまうことができるようになります」
さらにアリシアは詳しく死霊王の座について説明してくれる。のだけれど、相変わらず話が難しくて頭に入ってこない。脳がないからじゃないか、とか思うけれどもそんなわけがない。一応理解した範囲では、死霊王とその配下の座の配置にそれぞれ俺とみんなを対応させて、俺のやりたいことをみんなが叶えることで、在り方が重なって魔術領域の俺が死霊王の座に登録される、みたいな感じらしい。あってるかどうかイマイチ自信がない。
「だいたいあってます、マスター」
だいたいあってた。
「……で、街の名前か……」
「マスターの記憶の中の、ゲーム、ですか、その物語の中の街の名前なら別に誰も知らないわけですし、そのままつけても誰も気にしないんじゃないかな」
「いえ、誰もということはないかもしれません。同じ世界の同じ地域から喚ばれているかどうかはわかりませんが、召喚された勇者であれば知っているかもしれませんよ。だからといって特に問題はないでしょうけど」
「うーん……勇者かあ……ちゃんと喚ばれた勇者にプークスクスされるのもちょっとなあ……」
なにかの拍子に勇者と対峙して、かっこよく向き合うはずがそんなしょーもない話で笑われたのではあまりにかっこわるい。
「……うん、やっぱりそのまんまは無しの方向で。あとついでに夜だけ機能する街も不便だから無しの方向で」
「わかりました、マスター」
「でも入り口で、ここはナントカの街です、って言うNPCは欲しいな。適当に衛兵でも立たせておこうか」
「街の名前はナントカにするのですか?」
そうじゃない。そうじゃないんだが……意外としっくり来る……ような?
「……なんかそれでいい気もしてきたけど……ちょっと街を歩いて決めようかな。お子様ボディ持ってきてくれるかな?」
「はい、マスター」




