62 信仰心
「神学校で学ぶことというのは幅広くてですね、それをきちんと学びその意味を理解できるまで図書館で調べたら、あんな雑な祝福が神の意志には程遠いことなんて卒業したての見習い神官だってわかるはずなんですよ、本当なら」
それはできる側の言い分だ……実際そうなってないのだから、それは並大抵のことではないのだろう。
「別に他の神官の程度がどうであれ、そんなことは気にしてなかったんですよ。地元に小さな神殿建てて、そこで神官長やって、ぐらいのことしか考えてませんでしたし。多少がっかりはしましたけど、信仰心って人それぞれでしょうから」
多分一度は本当にがっかりしたんだろうな。しかし、そうか。アリシアはアリシアの信仰のあり方でもって、神官をぶん殴るのか。
「ただ、今の私はマスターのものです。その程度でマスターのものである私の前に立ちふさがろうというのは、マスターの邪魔をしようというのは気に入らないじゃないですか」
「気に入らない、か」
「ええ、大いに」
◆◆◆
カルド国教会。国として国教を定めた、その信仰の中心である。王国の聖都とは多少教典の解釈に違いはあるが、異端とは認定されずほどほどの距離を置いて協力関係にある。
「神官の服を着て、祝福を無効化するミイラねえ……」
葬儀にかこつけて行った情報交換で、王国側が何かを隠しているように感じたフィオナは協力者を使って本国の神殿で起こったことを調べさせていた。神殿で何か起こったがそれを自分たちに対して隠している、という情報があれば、それなりに的を絞って調べさせることができる。その結果手に入った情報の一つがこれだった。ちなみに各地の神殿の不正や汚職の類もついでに手に入ったので、これはこれでいつか役に立つだろうとフィオナは思っている。
「うちで暴れた“何か”と、同じものかね……?」
同一個体かどうかまでは判断できないものの、被害は似ていると言える。
「それにしても、本国の連中が嫌いそうなモノが出てきたものね」
アンデッドに対する姿勢がカルドでは生活の必然からくる防衛であり人の営みを守る行為なのに対し、聖都では打ち倒すべきものという扱いである。毛嫌いしていると言ってもいいかもしれない。その不浄のものに、神官の付与した祝福を無効化され、武装神官も斃された。
「まあ、ミイラの信仰が生身の人間を上回らないってルールも、どこにもないんだけどねぇ」
教典は別にアンデッドを不浄であると定義しない。何らかの形で、死の向こう側のあり方を得たものの総称がアンデッドであり、その存在は多種多様である。フィオナは地下の彼女のことを思い浮かべながら、手の中の宝剣を見つめていた。
あけましておめでとうございます。




