60 観測気球を上げたい
俺は世界地図が届くのを待つ間に、正確な地形図を作れないか考えていた。魔術で感覚を同期したり記録したりできるのであれば、センサーの塊のようなものを気球か何かで上げてやれば遠くまで見渡せるはず。問題はどこまで上げられるか……
「真上に上げるだけでよいのであれば、魔力線はあまり力を込めなくても届かせることができますよ、マスター」
なんでも“上空”というのは魔術的に“同じ場所”として認識できるらしい。とはいえさすがに距離が無限というわけにはいかないようだ。これも何か難しい説明をしてくれたのだけど……ごめん、やっぱり魔術の話は難しい。あと、地下は別扱いらしい。よくわからないけど残念。とことん下に潜れたら反対側に出られるかと思ったのに。ただ、そもそもこの世界が前世のように丸い大地なのかどうかも俺は知らない。それも高いところから遠くを見ればすぐ確認できるはずだ。半球とかよくわからない形してなければ、だけど。
「いい感じの目と耳を用意して、こう、空気より軽い気体を溜めた袋にぶらさげて……」
「真上に上げるだけであれば、ガスより魔力で上げた方が手軽かもしれませんね」
「そうなの?」
「はい、これもマスターの真上限定になりますが……」
要するに魔力をよく受けるパラシュートのようなものに、小さくて軽い観測モジュールをぶら下げて、下から魔力を当ててやることで持ち上げようという事らしい。
「もうほとんどイビルアイね」
ヒカルが感想を漏らす。
「イビルアイ?」
「このへんにはいないのかな?体のほとんどが目で、しっぽと蝙蝠みたいな羽がついてるやつ。羽は小さくて実際には風の魔力で飛んでるんだったとおもう。目が良くて結構遠くまで見えるみたいで、耳はどこについてるかよくわかんないけど結構聞こえるから気をつけろって言われてた。洞窟にいるんだったかな」
「ではそれを捕まえてきたらマスターの欲しいものはすぐできるのですわね」
羽が小さいということは魔力を受ける帆は別に必要だろうけど、真上から逸れそうになったときに方向を微調整するのには使えそうだ。
「しかし捕まえに行くのもそれなりに手間だな、この辺にはいないんだろう?」
「私は聞いたことありませんわ。でも、採ってこさせたらいいのですわ。死んでいてもいいのでしょう?」
「ああなるほど。冒険者の店で依頼を出すのね」
イライザが納得する。なるほど、冒険者の店ってのがあるのか。ファンタジーだなあ。骨の体で何言ってるんだという感じだけど。余所行きのお子様ボディはちゃんとしまってもらっている。今のところサラのところの街くらいしか出歩けないんだよなあの体。もうちょっと操作距離伸ばせるといいんだけど。あとさっきの話からすると真上には上げられそうだけど、さすがに自分の体のように感じるものを打ち上げる気にもなれない。
「冒険者の店には私が行きますわ、マスター」
生きた人間に見た目が一番近いイライザが行くことになった。




