59 対策分室は引っ越しをするようです
「聖都は動くみたいだよ。黒王そのものより、その影響下で街がまるごとアンデッド化させられたのがかなり腹に据えかねてるみたいだ」
「王都としては先にカタをつけたいみたいだけどね。人の相手は王都の仕事だし、我々もそのつもりで動いてるしね」
「でもアンデッドと異教なら聖都の出番、という気持ちもわかるぴょん」
「大神官猊下はその二つがことのほかお嫌いだからね」
世間のうわさ話で好まれる表現で、聖都というのは大聖堂を、王都というのは国王周辺や騎士団勢力をだいたい指すことが多い。彼ら“国王対策分室”も“王都”側に含まれる。
「で、カルドもちょっと面倒なことになってる」
ウトバムが葬儀以降の話を分室メンバーに共有する。彼自身、黒王の件に直接かかわらない政治の話はあまり興味がないというか、下手に首を突っ込んで仕事を増やされたくないと思っているのだが、立場や追っている案件のせいでどうしてもつぎつぎに面倒が攻めてくる。
「どうしようかな、ほんと」
「であれば……こういうのはいかがかな?」
いかにも冒険者といった風体の男が提案したのは、分室の拠点をカルドに移してカルド国教会と黒王の棺をそれぞれ調査するというもの。
「聖都からも王都からも距離があるが、カルドなら黒王の棺にはそれなりに近い。冒険者の店も小さいがちゃんとやっているしな」
王都から遠いのは不便ではあるが自由に動く上では好都合だ。ちゃんとした組織のようなフリはしているが実態は冒険者の寄せ集め、正直なところあまりお奇麗な連中と関わらずに仕事を進めたいとウトバムは思っていた。ただでさえ次々に面倒な仕事が膨らんでいくのにやれ報告だなんだと本筋でない仕事が増えた挙句に些細な、それこそどうでもいい報告内容についてあれこれ聞かれる時間は苦痛でしかない。
「カルドであれば王都からの茶々もあまり入らないし、いっそ便利なんじゃないの?」
絵にかいたような魔術師姿の女が同調する。
「反対する者は……いないか」
少し意外だった。給料をそれなりに出すとはいえ彼らは冒険者、冒険者としての仕事の多い街から離れることに多少は抵抗があるのかとウトバムは予想したのだ。
「行ったことのない土地で仕事を受けるのも冒険者の醍醐味ってやつだしな」
「あちらの神殿は変わった術を使うらしいからね。興味はあるさ」
「向こうでも依頼は受けていいんだろう?」
「以前あっちの店では出禁食らってるんだが、ウトバムさんがなんとかしてくれるんだろう?」
メンバーがそれぞれ問題ない旨を口にする……がちょっと待て最後の奴のそれは理由によるぞ、とウトバムが渋い顔をする。
「内容によっては神殿の制約なり誰か保証人立てての隷属なりといった保険は必要だけど……まあ、なんとかしてもらえるんじゃないかな」
出禁で済んでる程度の問題なら、手段がないわけでもない。面倒だが。
「じゃあ決まりかな。後で店に行って向こうの拠点にちょうどいい物件を探してもらおう」




